第十二話 忘れられない過去の声。
「少し早いけど、昼飯にするか」
十一時を少し過ぎた頃に、松原くんは言った。
「藍澤は何食べたい?」
「フードコートでだったら何でもいい」
格式ばった店や高級店は避けたい。外食をほとんどしない私は、そういった店での振る舞い方を知らないし、服や靴を買ってもらってさらにご馳走されるのは気が引ける。お礼としてお昼くらいは私が持ってもいいかもしれない。手持ちが多いとは言えないまでも、高校生二人分の昼食代くらいなら全く問題ない。
しかし、松原くんは私に、お金を払わせようとしなかった。払わさせてくれなかった。
「昼飯代は俺が払うから。もちろん、割り勘もなしで」
「でも……」
「そのワンピースもミュールも俺が買ったわけじゃないから、ここは俺が払いたいの」
半ば押し切られる形ではあったけれど、納得するしかできなかった。
松原くんは意外と頑固だった。
私は松原くんと同じパスタを選んだ。これと言って食べたいものもなく、何でもよかった。けれども彼には遠慮しているように見えたらしく、サラダやらデザートやらを何度も勧められた。しかも、推してくるのがポテトサラダやマカロニサラダ、パンケーキにクレープといった炭水化物のオンパレード。
松原くん、カロリーという言葉を知ってる?
普通においしいパスタを食べていると、松原くんが立ち上がった。ちょっとトイレと言って、彼は席を離れた。
昼時になると、やはりフードコートは混みだしてきた。
子ども連れの家族や制服姿の高校生たち、デート中らしきカップルなど、たくさんの人がいる。皆、楽しそうに、食事をしたり会話をしたりと笑顔だ。
私は、いや、私たちは、あの人たちからどのように見えているのだろう。分不相応な服や靴を身に着けた私と、男女問わず人気を集めている松原くんでは、つり合いがとれるなんてありえない。いくら私を飾っても、松原くんと並べば、そのちぐはぐさが浮き立つことは避けられない。はなから不均衡な組み合わせなのだ。
私がこの場にいることも松原くんの隣にいることも、似つかわしくはないのだ。初めからわかりきったことだというのに。
あの人たちの中にも、心に傷を負った人がいるのだろうか。笑顔を張り付けながらも、仮面の下では哀しんでいる、苦しんでいる、そんな人が……。
それでも、私には光が強すぎる。たとえ仮面を被っていても、痛みを堪えて笑みを浮かべるなんて私にはできない。
私の仮面は笑わない。
私は弱い人間なのだ。
松原くんのことなど忘れて、今すぐにでもこの場所から逃げ出したいくらいに。
私は、どこにいても、独りぼっち。
「あれぇ。ひょっとしてぇ、紅葉?」
全身に鳥肌が立ったのではないか。そんな錯覚を起こしてしまうほどに、それは、消してしまいたい過去だった。二度と聞くはずのなかった彼女の声に、忘れられないその声に、私は戦慄した。
こんにちは、白木 一です。
今、ツイッターで語尾を「にゃい」にして化け猫被って遊んでいるんだにゃい。
診断メーカー、たみゃーにやると、はまっちゃうんだにゃい。
……本編はにゃいにゃい言える状況じゃないのですが。にゃい。
こんな変人な白木 一をこれからもよろしくお願いいたします。
『白木 一の黒歴史が、今、始まる。』
いや、既に始まっている、にゃい。