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鼠と骸骨  作者: 栗原 学
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骸骨とフライドチキン5

---骸骨の隠れ家---

 骸骨の旦那の案内でやってきたそこは普通のアパートだった。入口横にコンロと流し台、それから冷蔵庫がおいてあるだけのキッチン。六畳間に簡素なベッドが一つ、ベッド脇にランプが乗ったチェストが一つ、リビングテーブルとソファが一つ、それだけ。必要最低限の家具だけ揃えてあるといった感じで置物や嗜好品の類は見当たらない。トイレはあるようだが風呂はない。

「とりあえず座ってろ」

 旦那が桐生とリーザにソファに座るよう促す。

「ずいぶん質素な感じの部屋ですね。よくこんなところで生活できますね…」

 思ったことをそのまま口にした俺を、旦那が「フッ」と鼻で笑う。

「別にここで生活してるわけじゃねぇよ。さっきも言ったろ?隠れ家って。セーフハウスだよ。今みたいに一時的に避難するときにだけ使うのさ」

 冷蔵庫からウーロン茶を取り出し「飲むか?」と聞いてきた。部屋も妙に片付いているしどうやら定期的に掃除、補給などの手入れはしているらしい。

「自宅とは別に部屋を借りてるんですか。なんというか勿体なくないですか?」

「アホかお前。こういう時に自宅に連れ込んだ方が後々面倒なことになんだよ。自宅に依頼人を避難させたら実は敵に尾けられてて関係ない時も自宅で命を狙われるようになりましたじゃ意味ねぇんだよ。家ってのは身体を休ませるために存在するんだ。よって、自宅は敵にも味方にも知られないに限る。だからこういう時のセーフハウスは必要だ。こういった所でケチってるといつか死ぬぜ。お前もいざという時のことを考えて一つくらい隠れ家を用意しとけ」

 そう言いながら旦那は左足の大腿部に位置する装甲内に格納されているカラッソ社製自動拳銃『Ch9c』を桐生の前のテーブルに置く。

「俺たちはこれからコール・カーネリアに会いに行く。お前らアベック二人はここで待ってろ。これはいざという時に使え」

「医者である私に人を殺せと言うんですか?」

「殺せなんて言ってねぇよ。あくまでも身を守るために使え。それに、医者なんだから人間の急所くらい知ってるだろ。そこに当たらねぇように撃てばいいんだよ」

 銃に関しては素人であろう桐生に無理難題をふっかけながらチェストの上に無造作に置かれていた鍵を手に取った。

「いくぞ、ネズミ。運転は任せる」

 旦那はチェストから取った鍵を俺に投げ渡した。どうやら車の鍵らしい。が、鍵を見ただけでかなり古い車であることがうかがえた。

 DNA情報による生体認識ロックが主流の今の時代に鍵な時点で古いがリモコン式でなければ電子キーでもない。かなりの年代物だろう。


---アパート駐車場---

 案の定、旦那の車はボロかった。ボロい、という表現以外思いつかないくらいボロい。アパートの駐車スペースじゃなかったら廃車と勘違いしていただろう。二人乗りの白いクーペは一部、塗装が剥げてそこから錆びている。

「これ…、動くんですか?ボディとかボコボコですけど」

「味があって良いだろう?まぁ、安心しろ。見た目はあれだが中身の整備は定期的にしている。問題ないだろう、多分」

 最後に不安になるような事を言った気がするが、まぁ、いいか。鍵を運転席側のドアに差し込み捻る。

 ガチャ、という音と共に左右のドアの鍵が開く。

 中に入ってみると外見とは違い意外と快適だった。シートは旦那の趣味なのか革張りでよく手入れされてるのか新品同様の輝きを見せていた。座ると程よく沈みこむ。硬くて座っていて疲れるということもなく、かといって沈み込みすぎて運転しずらいわけでもなく運転するにはちょうど良い硬さだ。

 正直、あんな鉄の塊を着込んでいて座り心地など気にする必要があるのか甚だ疑問ではあるが。

「よっと。よし、ちゃんとあるな」

 クーペに乗り込んだ旦那が座席の後ろの蓋のようになっている部分を開く。どうやら内側からトランクの中身を取り出せるらしく、中には横長のアタッシュケース三つとこれまた横長の木箱が一つ。

「何です?それ」

 俺の疑問を聞いた旦那の顔が、動かないはずの金属製の骸骨の顔が、その瞬間、口角を上げニヤリと笑っているように見えた。

 ろくでもないこと考えてるんだろうな。旦那との付き合いは決して長いわけではないが、何となく何か企んでいることだけは感じ取れるようになった。

「コイツはいざという時の秘密兵器さ。ま、使わなければそれでもいいが、使う時は容赦なく相手を殺す、俺は桐生と違って医者じゃないんでな」

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