骸骨とフライドチキン4
---桐生診療所---
白衣を血で真っ赤に染めた闇医者、桐生正人が壁によりかかる形で倒れる。
「嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
リーザの悲鳴が響く。
「だ、旦那…一体何を。何故、桐生を殺したんですか」
「よく見ろ。生きてるよ」
旦那が床から血の滴るビニールの切れ端を拾い上げる。
「それは…輸血パック、ですか?」
「おう、コイツを切っただけさ」
「いたた…。いきなりのことで腰を抜かしてしまいましたよ」
桐生が腰を抑えながら立ち上がる。
「おい、まだ座ってろ。アンタを殺したって証拠の写真が必要だろう」
そういって旦那はポーチ(ケープに隠れていて解りにくいが背中側の腰につけている。)からポラロイドカメラを取り出した。
「ど、どういうこと?私たちに協力してくれるってことでいいの?」
「あぁ。だが、闇医者とその看護師であるアンタらに暗殺の依頼料を払える程の支払い能力があるとも思えんしな。子供に支払い能力がないってんなら親からせしめるのが道理だろう?おい桐生、動くな。写真がぶれる。」
カシャ。ジーという音を立てながらレンズの下部の隙間からフィルムが出てくる。フィルムはまだ一面黒いままだ。
「いつも思ってたんですけどデジカメの方が画像をすぐ確認できて便利じゃないですか?コンパクトだし」
「デジタルだと編集でごまかせるから信用性にかける。下手に弄れない分、今回みたいに相手を騙そうって時はこういうアナログなもんの方が騙しやすいんだよ。それに、インスタントカメラは現像されるまでのこの時間を楽しむもんだ」
じわっ、と少しずつフィルムの黒が消えていく。フィルムには紅い血に塗れた死体、のふりをした桐生正人が写っていた。
「よし、これで大丈夫だ。桐生もう動いていいぞ。んで、さっさと着替えな。流石に血塗れじゃあ目立つぜ」
わかりました、と言って桐生は診察室の更に奥の部屋に引っ込んでいった。おそらく、診察室の奥は桐生とリーザの居住スペースなのだろう。
二十分後、白衣を脱ぎ、ボタンダウンカラーのシャツの上から茶色いチェックのベストを着た桐生が戻ってきた。ゴム紐でひとまとめにされている髪は僅かに湿っておりシャワーを浴びたことを感じさせた。シャワーを浴びたのは血糊を落とすためだろう。
しかし、採算度外視の経営をしている闇医者というわりには妙に小奇麗な身なりをしている。腕時計は安物の革製ベルトの物のようだが眼鏡は高級ブランドの物だ。もしかしたら医者とは別に副業で金を稼いでいるのだろうか。
「さて、取りあえずアンタらはここを出て俺の隠れ家の一つにしばらく潜伏してもらうことになる。俺が案内するから、おいネズミ。ここの後始末は頼んだぞ」
旦那の声で、脇道にそれた思考が強制的に修正される。そうだった、今は余計なことは考えずに目の前のことに集中しよう。
「おっと、悪いが荷物を持ってくのは無しだ。薬の一つも持っていくな、全部おいていけ」
カバンに必要な荷物を積めようとしていたリーザを旦那が止める。
「下手に物が無くなっていると違和感から今回のことを誰かに感づかれるかもしれない。リスクは避けたいからな。一応、生活必需品くらいは隠れ家にもある」
「服もあるんですか?」
なんとなく出てきた疑問をそのまま口にしてみる。この人、いつもスカルスーツだし正直まともな服を持っているイメージがわかない。
「安心しろ。他人を匿うことも想定してある程度揃えている。女物も一応ある」
じゃあ、案内するからついてこい。目立つなよ。そう言って旦那はさっさと外に出て行ってしまった。
しかし、隠れ家と言っていたがそれはつまり旦那の自宅ということか…。命が危ない桐生やその恋人のリーザには悪いが俺の頭の中は仕事そっちのけで、普段見られない旦那のプライベートな部分が見れるかも知れないと興奮しているのだった。