骸骨とフライドチキン2
---路地裏---
「ここか…その闇医者がいる場所は」
骸骨の旦那が三階建てとおぼしき建物を見上げる。
「はい。闇医者、桐生正人。近所の評判はかなりいいみたいですね。ここらの連中はまともな病院に行くこともできないような奴ばかりですし、なにより安い。ツケも効くみたいですし採算度外視でこの診療所を経営してるみたいですね」
今回のターゲットである闇医者については事前に簡単に調べてきていた。が、どうも善人も善人。他人のために自らの身を削るのをためらわないような男。というのが調査を終えての印象である。
「ふぅん。そんな奴がどうしてマフィアなんかに狙われるかねぇ。なんか知らないのか?ネズミ」
「さぁ、その辺りは調べてないんで何とも…。ま、予想は付きますがね」
闇医者についての評判を聞いてまわるときに何度か耳にした金髪の女の話。ある人間は診療所に勤める看護師だといい、またある人間は桐生の結婚相手だという。名前はリーザ。カーネリアファミリーのボス、コール・カーネリアの一人娘と同じ名前だ。
「なんでもいいさ。直接本人に聞けばいい」
そういって旦那は建物の外に設置されている階段を上る。診療所は二階だ。
---桐生診療所---
「あなたたちね。パパが寄こした殺し屋ってのは」
診療所に入るなり防弾チョッキとフルフェイスメットを身に着けた看護師が出迎えてくれた。手には点滴を支える棒を槍のように構えてる。この臨戦態勢の看護婦がリーザだろう。
「俺は殺し屋じゃねぇ。ま、確かに金さえ積めば殺しもやるがな」
「そんなことどうでもいい!パパに伝えなさい。私たちは愛し合っているの。邪魔をしないで!」
槍替わりの棒をこちらに向けて叫ぶ。メットに覆われてその表情は窺い知れないが怒気を含んでいるのはわかった。
「なるほど。お前がケンタッキーの娘で、お前はここの医者と恋仲ってわけだな。父親の嫉妬ってところか」
「だからカーネルじゃなくてカーネリアですってば」
旦那の表情もスカルメットに覆われているがこっちはよくわからん。今のは冗談なのか本気なのか。
「まぁ、なんでもいい。本人と直接話がしたい。桐生とやらはこっちか?」
リーザの持つ棒の先端を左手で押しのけ奥の診察室の扉を開く。ちょうど診察中だったのかそこには眼鏡をかけ白衣を着た医者らしき二十代ほどの若者と、こちらは患者だろうか、歳は七十台の白髪の爺さんが医者と向き合って座っていた。
「アンタが桐生か?」
旦那が若い医者に声を掛ける。
「えぇ、私が桐生 正人です。あなたは骸骨さんですね。聞いたことがあります」
「そうか」
骸骨の旦那は興味なさげに返事をすると診察室のベッドにどっかりと腰を下ろした。状況が飲み込めずここにいる全員がぽかんと口を開けて呆けている。まぁ、いきなり強化外骨格着込んだロボットみたいな見た目の人間が乗り込んできたらそうなるわな。
「旦那?どうしたんですか」
代表して俺が旦那の奇行の意味を問う。
「俺は順番は守るたちでね。爺さんの診察が終わるまでここで待たせてもらう。幸い待合室にはもう客もいねぇしな」
「はぁ」
変なところで律儀というかなんというか…。ともかく診察は再開された。俺は診察室のドア付近の壁によっかかっていることにした。患者の爺さんは突然入ってきた二人にじっと見られているからか居心地悪そうに背中を丸めていた。
「では、この処方箋を下の薬屋にお渡しください。」
程なくして診察が終わった。メットを脱いだリーザが待合室で患者に処方箋を渡していた。リーザの顔立ちは整っていてよく手入れされていそうな金髪がかがやいて見えている。端的に言えばかなりの美人だった。
爺さんが処方箋片手に待合室を出て行ったところで入口に『本日の診察は終了しました。』という看板が立てかけられ入口のドアは施錠された。
「さて、桐生さんよ。あんたを殺してくれって依頼が入った。ただの闇医者を殺せなんてのはまぁ訳アリなんだろうが。まぁ、なんとなく察しはつくが一応事情を知っておきたくてね」
骸骨の旦那が口を開く。
「殺しが仕事なのに相手の事情を聴くんですか?」
桐生が不思議そうに問う。
「さっきも言ったが俺は殺し屋じゃねぇ。俺は納得いく理由がなきゃ殺しはするつもりはない」
「そうですか…。その、依頼人というのは、やはり…」
「あぁ。そっちの金髪女の父親だ。よく知らんがマフィアかなんかなんだろ?」
旦那はやっぱりよくわかっていないみたいだ。ここいら一帯じゃ有名なんだけどなカーネリアファミリー。
「あなた本気?この辺りでウチのこと知らないなんて…。余所者か世間知らずくらいよ」
リーザが絶句している。
「悪いが興味ないんでね。依頼人がマフィアだろうがファーストフード店だろうが金を払ってくれるなら仕事はする。俺のルールを破らねぇ範囲でな」
「あなた、変な人ね。見た目も死神みたいで変だけど、中身はもっと変だわ」
骸骨みたいなスーツの上からフード付きの茶色いケープを被っている。これで鎌でも持てば確かに死神のようにも見える。本人は全身外骨格だと目立つだろと言ってこのケープを付けているようだが余計目立っている。
「私から話させてください。私の父、コール・カーネリアが何故、この人を殺そうとしてるのかを」
旦那の物言いに苦笑していたリーザが顔を引き締めた。
週一ペースで更新出来たらなぁと考えています。