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鼠と骸骨  作者: 栗原 学
18/18

骸骨とフライドチキン18

---バー・ルインズ---

「なんでぇ、ついにバレたか」

 もしかしたら殺されるかも、なんて身構えていた俺に向かって発された言葉はえらく気の抜けた物だった。

「じゃあ、やっぱり」

「あぁ、俺は女だ」

 骸骨の旦那が肯定する。骸骨メットからはその表情は窺えない。

 しかし、こうもあっさり認められるといささか拍子抜けするものがある。

「で?いつから気が付いてたんだ?」

「最初に違和感を感じたのはカーネリア邸に入り込もうとした時ですね。無線で連絡をされた時です」

 あの時、旦那から手渡された無線からやけに高い声が聞こえてきた。旦那は設定を間違えた、と誤魔化していたが無線の設定を間違えて声が高くなるというのはおかしい。

 今にして思えばあの声こそが旦那の地声だったのだろう。おそらく強化外骨格のメット部分にボイスチェンジャーか何か仕込んであるのだろう。無線の時はそれを切っていたか、あるいはメットの内側に無線機があったため、ボイスチェンジャーに変換される前の声が無線機に届いたのだろう。

「それにレイジさんとの会話ですかね。美貴って名前からもしかして女性かな~と」

 実際、レイジは旦那との会話で色々と情報を漏らしている。旦那の名前もレイジが口を滑らせたおかげで知ることができた。名前が解ると一気に情報が集めやすくなる。

「あと、親父さんがどうのってレイジさんが言ってるのを聞いてふと旦那の家で見かけた写真を思い出しましてね」

 骸骨の旦那と女の子がツーショットで写っている写真。あれに写っている骸骨は多分旦那ではなく旦那の父親なんだろう。そして女の子の方が旦那、つまり美貴さんなんだろう。

 そういえばあの時、強化外骨格のメンテナンスをするから出ていけと部屋から追い出されたんだったな。あの時は顔を見られたくないだけだと思っていたがあれも性別がバレるのをおそれての事だろう。

「最後にリーザさんが言っていた死神さんという呼び方が気になりましてね」

 多分、死神さんという呼び方だけでは気にはしなかっただろう。

 しかし、リーザは最後『元死神さん』と旦那を呼んだ。

「あれはおそらく死神部隊の事を言っているんですよね」

「そこまで調べたのかよ…。探偵にでもなったほうが向いてるんじゃないか?」

「探偵なんか今時儲かりませんよ」

 死神部隊。元々はただの傭兵集団だったらしいがある時、国のお抱えの暗殺専門部隊になった。

 国に仇なす存在を秘密裏に処理するのが彼らだ。当然、その存在は極秘であり表舞台に立つことはなかったという。

 リーダーである桜木和久の死により部隊は解散することになったらしいが…。

「死神部隊は俺の親父が頭を勤めていた。この強化外骨格『Grim Reaper』は当時、親父が使っていた物だ」

 死神部隊には多様な状況に対応できるように複数の特化型強化外骨格を保有していたと聞く。

 その中でもリーダーである桜木和久の強化外骨格『Grim Reaper』は全環境対応型、いわゆる万能機という奴だ。特化型だけでは対応できない状況もあるということだ。

 レイジと旦那の会話中に出てきた『Dragon mail』もおそらくは何らかの状況に特化した強化外骨格なのだろう。

「それで、なんで旦那はその強化外骨格をいつも着ているんですか?女だと舐められるからって訳でもないでしょう」

 なにせ元死神部隊の精鋭だ。女だと解っていても引く手あまただろう。

「俺がコイツを着続けているのは『復讐』のためだ」

「復讐?親父さんのですか?」

 調べたところによると桜木和久の死因は他殺だ。とある任務の帰り後ろから何者かに刃物で刺されたようだ。

「そうだ。俺は親父を殺した奴を探している。そいつを殺して復讐するまで俺はコイツを着続ける。骸骨の亡霊としてそいつをどこまでも追い続けてやると決めたんだ」

 殺したはずの奴に殺されるなんて傑作だろ?とおどけてみせた旦那だがその声は心なしか悲しみの色が見えた。

「犯人に目星は付いているんですか?」

「いや?全く?だがコイツを着てればそのうち向こうから接触してくんじゃねぇかな。俺の正体を知っているのは今のところお前とレイジ、それとこの強化外骨格を作った奴の三人だけだ。犯人からしたら死んだはずの人間が暴れているように見えるだろう?」

 相変わらず適当な発想だ。しかし、全く手掛かりの無い状況では案外効果はあるのかもしれない。

「で、お前はこれからどうするんだ?」

「え?」

「お前が俺に付きまとっていたのは俺が隠している事が気になっていたからだろう。だったらもう全部、暴いただろう。だからこれからどうするんだって聞いてんだ」

 確かに最初に旦那に接触したのは旦那の事が気になったからだ。普段から強化外骨格を着込む男。その正体は一切不明。そんな人間だからこそ俺は旦那の事が気になって仕方がなかったんだ。だからこそ俺は旦那と仕事をしていた。俺の知識欲だけが俺と旦那のつながりだった。だが今はもうそのつながりはない。

 もはや、俺と旦那が一緒にいる意味はない。旦那はそう言っているんだ。

 だが、旦那は甘い。俺の強欲で貪欲な知識への渇望を甘く見すぎている。

「何言ってんですか。まだ旦那の親父さんを殺した奴の正体がわかってないでしょう」

「はぁ?俺の復讐に付き合うつもりか?」

「えぇ、まぁ。肉体労働はするつもりはありませんけど」

 そうだ。俺が今一番知りたい事。それを知るために行動する。それが俺だ。

「はっ、面白れぇ。いいぜ、最後まで付き合ってもらう。桜木 美貴だ。改めてよろしく頼むぜ」

「えぇ、よろしくお願いします。水判土 初鹿です。あ、呼び方は美貴さんの方がいいですかね」

 ゴチンと頭を叩かれた。頭蓋骨にヒビが入っていないか心配になるほど痛い。

「今まで通りでいい。名前で呼んだらこの恰好している意味がねぇだろうが」

 そういうとポーチから取り出したしわくちゃな紙幣をカウンターに置いて立ち上がった。

「それじゃあ、また次の仕事が入ったら呼べ。じゃあな初鹿」

 カランコロン、という音を鳴らして開いた木製のシックな扉を通り抜けるケープ越しの旦那の背中を見送った。

 一応、続きを書く予定はありますが骸骨とフライドチキンは今回が最終話です。

 続きを書くことになった場合、骸骨とフライドチキンを第一章として続きを第二章という位置づけになると思います。

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