骸骨とフライドチキン16
あの後、フィガロの遺体とパワーローダーの片付けをさせられた。
「お前の腕力じゃパワーローダー運べねぇだろ」
という骸骨の旦那の一言でフィガロの遺体の処理をさせられたのは結構応えた。この街の治安の悪さから死体なんて見慣れてるが実際に触ることはあまりない。というか背負わされた。
何も考えずに背負ったせいで一張羅のジャケットが血塗れになった。まぁ何年も着てきてすっかりボロくなってたから別にいいけど。
俺がフィガロと四苦八苦してる間、旦那はパワーローダーを細切れにしていた。
関節は力ずくで千切り、装甲は刀で切り刻む。何をどうやったらあんな訳わからん芸当ができるのか。
ともかく遺体をブルーシートで簀巻きにした後、車(リーザから貸付られたカーネリアファミリーの黒のセダン)のトランクに押し込んでカーネリアファミリーの敷地からかなり離れたスラムの人気のない場所に放棄した。スラムは常日頃から死体がゴロゴロしている場所だ。わざわざ通報する市民などいないだろう。警察も意図的にパトロールコースからスラムを外している。
遺体を放棄して帰ってきたら数十のサッカーボール大の鉄くずがひとまとめにされていた。
「これ、パワーローダーですか?」
「おうよ」
鞘に納めた刀を肩に担いで旦那が答える。骸骨メットの上からでもドヤ顔しているのが伝わってくる。
「後は任せていいか?ゴミ掃除はしてもゴミ回収は仕事じゃねぇ」
「えぇ、後はこちらで処分しておきますわ。では代金は口座に振り込んでおきますね」
旦那は何故か口座を持っていないため代金は俺の口座に振り込まれることになっている。その後代金の六割を現金化して旦那に渡す手筈だ。
「アンタの親父さんからもらう手筈になっていたはずだが?」
「あなたが勝手にそう言っただけでしょう?私は了承していないわ。まぁ、カーネリアファミリーからの依頼という形なので結果的に代表のパパから振り込まれた、という体で問題ないはずです」
「けっ、喰えない女だ。まぁ、金さえ貰えればそれでいいがな」
正面玄関のクーペに乗り込みながら旦那が愚痴る。クーペは玄関に突っ込んだからかボンネットが歪んで半開き状態になっている。ガラスも粉々でシートが破片でざらざらしている。正に廃車寸前という見た目でちゃんと動くのか不安になる。
「それでなんだけどこれからも何かと依頼をしたいと思っているんだけどどうかしら?これから色々忙しくなるし人手が必要になる時も多くなると思うの」
つまりはカーネリアファミリーの傘下に加われ、ということだろうか。
「なんでそんな事しなきゃなんねぇんだよ。てめぇのトコの依頼は金輪際受けたくないね」
「あら、困ったわ。人手が足りないのは事実なのに。みんなどこかしら怪我をしているから仕事にならないのよね。掌に風穴開けられた人たちはデスクワークすらまともにできないでしょうし。一体誰がこんな事したのかしら?」
うぐっ、と旦那が苦虫を噛み潰したような声を上げる。
「私はフィガロを殺してとは言ったけどファミリーの人たちをボコボコにしてとは言っていないのよねぇ」
「わーったよ!てめぇんとこの奴らの怪我が治るまでなら依頼受けてやるよ!」
「そうこなっくっちゃ!それじゃあ今後ともよろしく頼むわね、死神さん」
満面の笑みでリーザがこちらを向く。さっきまでの冷酷な彼女と今の年相応な表情の彼女、どちらが本当の彼女なのだろうか。
「俺は死神じゃねぇって何度も言ってるだろ」
旦那の愚痴に笑みを張り付けたままリーザが応える。
「そうだったわね。それじゃあまた会いましょう。元死神さん?」
そういうと返事も聞かずに笑みのまま踵を返し屋敷の方に戻って行ってしまった。
「クソッタレ。本当に喰えねぇ女だぜ。できることなら二度と関わりたくねぇな」
クーペのエンジンを掛けるとバックで玄関から出てそのまま門を乗り越えた。アクセルを踏む旦那は普段よりイラついているように見えた。
こんなボロボロでも車って動くんだな。