骸骨とフライドチキン14
---カーネリア邸裏庭---
「ぎゃはははははは!死ね!死ね!死ねぇ!」
ズダダダダダダ、とパワーローダーの右腕に装着されたガトリングガンが唸りを上げる。奴の標的は骸骨の旦那だ。
戦闘が開始してすぐ、旦那は俺と距離を取り自ら囮になった。旦那の強化外骨格は奴の銃撃に耐えることができるが生身の俺はそうはいかない。きっと旦那はそう考えたんだろう。実際その通りだ。
現在、フィガロの乗ったパワーローダーと旦那はカーネリア邸の裏庭、その中心あたりでドンパチやっている。その辺りに遮蔽物となるものはなく、フィガロが撃ち続けるガトリングガンの猛攻を常に動くことで躱している。元々あった噴水は銃撃により粉々になり裏庭中心に大きな水たまりを作っている。
フィガロの攻撃は無茶苦茶だった。狂ったようにガトリングガンを乱射している。先程からずっとぎゃははだのイヒヒだのと笑っているあたり興奮して躁状態になっているのかもしれない。流れ弾がこちらに飛んでこないかひやひやさせられる。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!どうした!近づいても来れねぇのか!?いひゃひゃひゃ!だったら死ねぇ!死んじまえ!ひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「…ちっ、面倒くせぇな。弾切れを待っているつもりだったが、もういい」
言うが早いか旦那がパワーローダーに急接近する。先程まで銃撃から逃げていたときとは比較にならないスピードだ。どうやらギリギリ捕捉できそうでできない速度で動くことで敢えてガトリングガンを撃たせていたらしい。
が、旦那は堪え性がない。大方ずっと避け続けるのが面倒になったのだろう。
「セイッ!」
パワーローダーの目の前で飛び上がり掛け声と共に右手の刀を振るう。
ギャリィィィン!という金属同士がぶつかり合う音がしたと思ったら次の瞬間にはパワーローダーの右肩に付いていたガトリングガンのマガジンが地面に落ちていた。どうやら接続部を切断したらしい。旦那の刀が高周波ブレードだからこそできる芸当だ。
「てめぇ!何をしやがった!」
激昂したフィガロがパワーローダーの右腕を振るう。旦那はそれを高く跳ね躱す。パワーローダーの右腕が地面を殴りつけた際に右腕のガトリングガンが地面と派手に接触しひしゃげる。恐らくもう使い物にならない。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
フィガロが獣のように吠えながらも右腕のガトリングガンをパージし身軽になった腕をさらに振るう。
それを避けつつ距離を取る骸骨の旦那。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!死んでしまえぇ!」
フィガロが左腕のグレネードランチャーを三連射する。旦那はそれを横っ飛びで地面を転がりながら避ける。
「そっちも面倒くせぇがあと三発で弾切れだ。来いよ。面白れぇもんを見せてやる」
シャキ、という音を立てながら刀を鞘に納める。あの構えは居合だろうか。
「くたばれクソッタレェ!」
フィガロがさらに残りのグレネードを三連射する。旦那はそれを
斬った
三発全て。居合の姿勢から一歩も動かずに三発とも切断したのだ。切断されたグレネードは爆破することなく旦那の後方2メートルくらいの場所に転がり落ちた。三発とも見事に縦に真っ二つだ。寸分たがわずグレネードの先端から切断されている。
先程まで興奮し顔を真っ赤にして躁状態だったフィガロの顔が今度は真っ青になる。流石に異常に気付いたらしい。
旦那は右手に刀を持ったままパワーローダーに歩み寄っていく。
「てめぇの間違いは二つ。たかが暴徒鎮圧用のパワーローダーでプロフェッショナルな俺に勝とうとしたこと」
カツ…コツ…、と金属製の足がアスファルトを踏みつける音がやたらと鮮明に聞こえる。フィガロからしたら死へのカウントダウンに聞こえているのだろうか。
「もう一つは簡単だ。パワーローダー程度で強化外骨格に勝てるわけがないだろう」
そうだ。そもそもパワーローダーは工事用に大きな資材などを簡単に持ちあげられるようにと開発されたものだ。それを軍の連中があれやこれやと改造を施して作られたのが軍事用パワーローダー。つまり今フィガロが乗り込んでいるものだ。
それに対して強化外骨格とはそもそも戦闘用に開発されたものだ。開発されたのもパワーローダーよりずっと後だ。それゆえに強化外骨格は性能面においてパワーローダーを大きく上回る。
素人が乗り込んだパワーローダーとプロが装着した強化外骨格。どちらが勝つかなんて火を見るよりも明らかだ。真っ向から勝負を挑んだ時点でフィガロに勝ち目などなかったのだ。
「クソッ!クソッタレがあぁぁぁぁ!」
叫びながら左腕のグレネードランチャーをパージし左腕に持っていた斧を両手で支え振りかざす。
「死ねぇ!」
猪突猛進とはまさにこのようなことを言うんだろう。旦那に向けて真っすぐ突っ込み斧を振り下ろす。
「言ってるだろ。パワーローダー程度じゃ俺には勝てねぇよ」
その斧を左手一本で受け止めた。強化外骨格の人工筋肉だからこそできる技だ。
そもそも、強化外骨格とパワーローダーの明確な違いはそこにある。
パワーローダーの関節はモーター駆動だ。対して強化外骨格は人工筋肉。この人工筋肉のおかげで人間サイズながらパワーローダー以上のパワーを発揮することができる。
「うらぁぁぁぁぁぁ!」
旦那が吠える。右手の刀を相手の斧に引っ掛け両手を使いパワーローダーを投げ飛ばしたのだ。
空中でひっくり返ったパワーローダーが頭から地面に叩きつけられる。
「ぐはぁ!」
衝撃がコクピットまで伝わったらしくフィガロが頭を操縦桿にぶつける。
ひっくり返ったパワーローダーに近づいた旦那がコクピットの防弾ガラスを文字通り引き千切った。
「よう、そろそろ決着といこうぜ。フィガロ」
旦那は腰からアンチェッターM2019を抜きフィガロの眼前に突き付けた。
「これで、チェックメイトだ」