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鼠と骸骨  作者: 栗原 学
12/18

骸骨とフライドチキン12

---カーネリア邸---

 結局、その後も骸骨の旦那が暴れ続けた結果、調理場は見るも無残な光景となっていた。

 真っ二つに割れたダイニングテーブルはあれから何発も旦那の拳をくらいもはや原型を留めていない。蛇口の無くなった水道から噴き出た水は流しからあふれ出て床に水たまりを作っていた。さらには冷蔵庫は扉が歪み隙間から冷気が漏れ出ている。さながらグレネードでも投げ込まれたかのようだ。

「てめぇ、いい加減にしろよ!こっちは急いでんだよ!」

 旦那が大声で文句を言いながら右ストレートを放つ。やはりレイジはその拳をひらりと躱した。次の犠牲者はガスコンロだった。金属の拳の衝撃から火花が上がったらしくコンロは激しく火を噴いた。

「何度も言っているけどこれが仕事なんだ。金を受け取る以上、仕事はキチンとこなす。そういう決まりだっただろ?」

 相変わらず顔色一つ変えないレイジ。対する旦那は拳をコンロから引き抜くとレイジに向き直る。旦那の拳が食い込んだ穴からガスが漏れだしたのか炎の勢いはさらに増した。

「確かにそうだ。あの時俺たちは、いや、親父はそう決めた。だが、親父は金を払わねぇ依頼人には鉄槌を。とも言ったぜ」

 レイジの表情にわずかだが変化があった。レイジは眉根を寄せて口を開いた。

「それ、金を払わない依頼人ってのはフィガロのことかい?」

「そうだ。あいつは俺たちに暗殺の依頼をしておいて報酬を渡そうとしなかった。あいつがしらを切ったせいで俺たちは文字通り門前払いよ」

 ふぅん。とレイジが顎に手を当てて言葉を漏らす。思案中といった風だ。

「ちなみにレイジさん、でしたっけ?そちらの仕事の依頼料は既に受け取っているんですか?」

 今のは俺の発言だ。

「いや、後払いだ。っと君とは初対面だったよね」

「えぇ。ネズミって呼ばれてます。一応、情報屋をやってます。情報屋の仕事は最近、副業みたいになってますけど」

 もはや骸骨の旦那への依頼の仲介が本業になりつつある。正直、情報屋だけじゃ食っていけない。だいたいの情報屋は別の仕事と兼業している事が多い。

「そうか。ネズミ君。この骸骨が言ってることは本当かい?」

 旦那はあまり信用されていないのだろうか。普段から訳の分からん事よく言うしなぁ。

「はい、本当です。さっき、門の前で追い返されましたし、金も貰えませんでした」

 俺がそのことを言う間、レイジが俺のことをやたら真剣な目で見ていた。

「ふぅん。嘘は言ってないみたいだね。いや、すまない。こっちの奴は骸骨で顔が隠れててよく分からないからね。素顔をさらしている君の口から聴きたかったんだ」

 なるほど。世の中には面と向かって話をするだけでその人の目の動きや筋肉の強張り方などで嘘を言っているかどうか判断できる人間がいると聞くがまさにレイジがその類の人間なのだろう。

 確かに骸骨の旦那では目を見ることもできないし顔の筋肉を見ることもできない。そこで俺を使って嘘かどうか判断したようだ。

 幸い、嘘は言っていない。門の前で追い返されたし、金も貰ってない。

 実際には、ターゲットである桐生正人を殺していないのだから金など貰えるはずもないし、そもそも依頼人はコール・カーネリアという事になっている。フィガロの差し金、というのはあくまで俺と旦那の推測に過ぎない。

 そのことを黙っていて良かった。と考えていると、レイジの考えもまとまったようだ。

「よし、わかった。今回はここで手打ちにしよう。君らの話が事実なら僕もタダ働きさせられそうだしね。タダ働きは嫌いなんだ」

 そう言って道を開ける。

「じゃあ、僕は帰るよ。美貴、たまにはラボに顔出せよ。もう半年はGrim Reaperをメンテナンスしてないってぼやいてたぞ」

「名前で呼ぶな。メンテは自分でしてるから問題ねぇよ」

 旦那がいつもの三割増しの反応速度で答える。へぇ、旦那の名前は美貴というのか。

「いくぞ、ネズミ。今度こそあいつの脳天に風穴を開けてやるぜ」

 旦那の拳の最後の犠牲者は勝手口の扉だった。

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