四合五否
「大丈夫だった?」 「大丈夫?」
マクドナルドで偶然の再会をした基典とあや子がシンクロして口をついた言葉は、久しぶり、ではなく、大丈夫?、だった。
もちろん、基典の大丈夫?、は先日のカラオケに父の交通事故で来れなかったあや子を気遣ってのものだ。
しかし一方、あや子の大丈夫?、は基典があまりに疲れた様子だったからである。
「大丈夫?基典くん?顔色、悪いよ。」
「ああ、平気さ。四合五否を実践してるから、睡眠不足なだけ。」
「あっ、うちの先生も四合五否って言ってた。ね、ゆり子?」
「うん!あっ、はじめまして挿名ゆり子っていいます。へぇ~基典さん、六高の制服だ!四合五否を実践してるなんてすごいね!」
四合五否、とは進学校用語である。
一日の睡眠時間が4時間で勉強を頑張れば、第一志望に合格するが、5時間以上睡眠すると、勉強不足で満足した受験結果は出ない、という精神論だ。
六高はよく、運動場で全学年集会をする。決まって進路指導の先生陣が話すのは受験心得である。入学早々、進学校の両校は、「四合五否」の話をしたらしい。
しかし、成長期の高校生にとって、睡眠時間4時間未満は心身の発育に問題ではないか?
旧帝大合格者の平均睡眠時間は8.3時間という統計もある。勉強は量より質であるのに、片田舎のこの街の進学校群は、未だ精神論が横行しているのだった。
三人の会話は、基典の疲労困憊から、弾むこともなく、その日は30分たらずでバイバイ、となった。。。