のっぺらぼう
休日のある朝。
わたくしは──柔らかい日差しの海にゆったりとたゆたう──そんな心地好い微睡みに身を委ねていたのでございます。
ガタン
何の前触れもなく突然響く音に、ビクリと震え目蓋を開けると、人の形をしたものが扉を開いて立っておりました。
「…………」
「…………」
お互いの姿を捉え、ごく僅かな沈黙。
わたくしに降りかかったのは─嵐の夜、大海原に身体ひとつで投げ出され、巨大な波に深淵なる闇の底へと引きずり込まれる──そんな恐怖に心が支配されたことでございます。
なぜなら……そこに居たのは、この目に映したのは『のっぺらぼう』であったのだから……!
数秒がとても長く感じられ、恐慌に陥ったわたくしが呂律の回らない言葉を発した時。『のっぺらぼう』が反応を見せたことで、恐怖は瞬く間に霧散したのでございます。
なにより、そこに居たのは……この瞳に映したのは『母』であったのだから──
『のっぺらぼう』の正体を知りながら徒に怯えた、情けなくも間抜けなわたくしのお話しです。
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【実際は】
ゴミ捨てのためゴミ箱を回収に来た母と、夜更かしした為まだ寝ていた私。
戸を開ける音に目覚め。顔を合わせるも何故か沈黙を保つ母。
「ちょっ……な、何で黙っ、てるの、(私の)目、見えな……のっぺらぼうに、見える、から!」
吃りまくりで狼狽えながら言葉をつなぐ私の姿に母は笑い、やっと人心地をつくことができました。
私は視力が低く裸眼は0.05です。更に乱視が強いので、広い色に小さな色は塗り潰されます。すなわち顔の中の目.鼻.口は周りの肌色に覆われて見えなくなります。
裸眼で人の顔を見れば『のっぺらぼう』完成?です!
目鼻口が見えないのだから当然、表情なんて読めません。相手の感情が全く伝わってこない-読み取れないというのは、思ってるよりずっと怖いものですね。
そんな、ささやかな日常を書かせて頂きました。
稚拙な文章に最後までお付き合い下さり本当にありがとうございます。
ホラーなエッセイ
個人的には凄く怖かったのでジャンルをホラーにさせていただきます。ご了承くださいませ。