アブソリュート・ランペイジ
「センターからアルファへ、保護対象確認しました。
隔壁を爆破後、突入して直ちに保護してください。
……アオヤギさん、わかってると思いますけど、
今回の依頼は対象の保護と、予想される追撃からの防御です。
絶対にターゲットを傷つけないでくださいね?」
「はいはい、こちらアルファ~、了解」
俺は傭兵だ。金をもらえれば何でもやる。
「それじゃ、突撃する。爆破してくれ」
「了解。隔壁爆破!」
ガラス細工が粉々に砕け散る音がする。木々のざわめき。風の音。
この世界を守っていた隔壁は破壊された。
俺の眼下には深い森が広がっている。
俺はマリーの誘導に従い、ターゲットがいる森の教会に降り立った。
鳥が逃げる羽ばたき。
「キャァァァアアアア!!」
森の中、妖精たちに囲まれて白い王子様との誓いのキスをしようとしていたお姫様を見つけた俺は、遠慮なく彼女をパワードアームでつかみ、王子様から引き離した。手の中でお姫様が暴れている感触がする。
「ターゲットの確保を確認。アオヤギさん、脱出ルートはパターンAで維持。
そのまま離脱してください」
「了解」
俺はバランスコントローラーを操作し、バックパックから火を噴いて一気に上空へと移動した。パターンAはこのまま上空に向かい、はるか空のかなたにあるこの世界の『臨界点』からログアウトするという、シンプルなプランだ。
「ちょっと、これなに? 私の王子さまは!?」
手の中から女の声がする。
「大人しくしてろ。舌を噛むぞ」
俺は親切心のつもりで言った。
「あんた誰? 私をどうしようっていうの?」
俺の親切心は伝わらなかったようだ。
ギャーギャーうるせえな、今回のターゲットは。
「おいマリー。このクソターゲットを黙らせろ」
俺は情報管制担当のマリーを呼び出した。
俺の視界にマリーの「やれやれ」といった表情がディスプレイされる。
「わかりました。こっちは対応しておきます。
それよりアオヤギさん、上空に反応があります。
接敵まで15秒。戦闘準備をしてください」
「了解」
視界に15秒をカウントダウンするタイマーをディスプレイする。
事前情報によれば、この空には『ドラゴン』とかいう怪物がいるらしい。
火を噴く化け物だ。作戦開始前のブリーフィングで、
マリーがやたらと興奮していたのを覚えている。
幻想世界狂にはつき合いきれない。
俺は保護対象の女を傷つけないように戦闘手順を考え、
いくつかのパターンを想定して武器を換装した。
対生物用の銃弾を装填したサブマシンガンを構える。
いつでも来い。
カウントダウンが0秒になり、上空に俺の何倍はあろうかという大きさの化け物が現れた。
炎の蹄を持つ白馬に、黒金の鎧を着込んだ首のない騎士……。騎士!?
以前マリーが延々と語っていたうんちくの中に、その姿に合致する怪物の名があった。
「デュラハンか!?」
目の前のデュラハンは、ひと突きで星をも砕きそうな槍を持っていた。
「おい、ここで出てくるのは『ドラゴン』って想定じゃなかったか!?」
俺はマリーに声をかけたが、マリーは返事をしなかった。
おいおい、お姫様と話でもしてるのか!?
「ちっ」
俺はトリガーを引いて、デュラハンに銃弾を浴びせた。
しかし銃弾はデュラハンの鎧はともかく、白馬の皮膚にすら弾かれ、ダメージに至らない。
俺はトリガーを引きっぱなしで、考えを巡らせる。
「対生物用のこの銃弾の特性から考えてあの鎧はともかく、乗っている馬の方にはダメージを与えられるはずだ。だが、見たところダメージは与えていない。この世界に関する情報は作戦開始前にマリーが分析(逆アセンブラ)したうえで、俺のアーマーを最適な形でセッティングしている。ならば、相手がダメージを受けないようなセッティングはしていないはずだ。それなのにダメージが与えられない。ということは……」
俺はトリガーを引くのをやめ、デュラハンを視界に置いたまま、急旋回した。
「マリー! パターンAは中止だ! この世界は『書き換えられて』いるぞ!」
俺の叫びに、マリーが返事をしない。
「くそ! 通信まで持っていかれたのか!?
こっちで対処するしか……」
デュラハンが槍を構え、俺に投げつけた。
この世界に入り込む前に想定していたどの攻撃予測よりも、その攻撃は速かった。
*****
身体を揺さぶられて、俺は目を覚ました。
左足が痛む。
灼熱に燃えるハンマーに叩き潰されたみたいだ。
「起きた……。ねえ、ちょっとどういうことなの!?
説明しなさいよ!!」
聞き覚えのある女の声。
俺はその女――金髪にウェディングドレスを着たガキっぽい女に、胸ぐらをつかまれている。
保護対象だ。『あいにく』ケガをしている様子は女にはなかった。
「……うるせえよ。俺に触るな」
俺はその手を払いのけると、ゆっくりと立ち上がる。
ここは森の中か……?
「ぐっ!?」
しかし、とてもじゃないが立っていられるような状態じゃなかった。
左足は血みどろ。気がつかなかったがそれ以外にもあちこち負傷していた。
俺はしめった落ち葉の上に倒れこみ、その衝撃で身体が悲鳴を上げた。
「――くそ……!」
あの戦闘で、デュラハンにやられた傷だろう。
戦闘の感覚を研ぎ澄ませるため、ダメージフィードバック機能をオンにしていたのが災いした。
この世界で受けた傷を、俺は現実の肉体でも受けてしまう。
現実世界では、いまごろマリーが大慌てだな。
「あの、あなた……なんでそんなに『痛そう』なの?」
心配そうな顔で、ガキっぽい女……もうクソガキでいいか……が、
俺の顔を覗き込んでくる。
さっき気絶したせいだろう。
俺は防護装甲が解除され、
身体のサイズが生身の人間と同じに戻っていた。
「まあ、いろいろ理由があってね。
ダメージフィードバック機能をオンにしてるのさ」
「え? ダメージ……? どういうこと?」
クソガキは知らない単語を聞いたような顔をした。
「おい……。ひょっとして、覚えてないのか?
ここは幻想電子空間で、
お前はこの世界に囚われた可愛そうな女の子だろ?」
クソガキは相変わらず困ったような顔をしている。
なんて答えたらいいだろう……みたいな。
「おい、マリー! 返事しろ。
想定される中で最悪のパターンだ。
保護対象はイメージワールドにいるって自覚を失ってる。
マリー! 聞いてるのか!」
マリーからの返事はない。
そうだ。戦闘の途中から通信は途切れていた。何かあったんだ。
原因はわからないが、このままじゃ現実世界とは交信できないままだろう。
俺は言葉を飲み込んだ。
(どうする……下手すると保護対象が
俺の敵になって任務失敗だ……しかも通信ができないんじゃ、
最悪、俺はこの世界に取り残されたまま……)
木々がざわめく森の中。
背の高い木々のせいで、空の様子はわからない。
俺はこのクソガキと二人っきりだ。
「……!」
俺は腹をくくって、目の前のクソガキに『本当のこと』を告げると決めた。
「いまは混乱しているだろうし、
本当なら、現実世界に戻ってからきちんと説明したかったんだが……」
俺は女の両肩に手を置き、じっと相手の目を見た。
「俺はお前の恋人だ。この幻の世界から、お前を救いに来たんだよ」
「……ハァ?」
女は心底俺をバカにするような様子でそう言うと、
俺を突き飛ばした。
「バカじゃないの? 私はこの森の向こう、ハールンハイドの第一王女。
あんたなんか知らないし、まして……ん!?」
恋人なんかのはずがない。
その言葉を遮るように、俺は女の唇にキスをした。
俺の腕の中で女がじたばたともがいている。
俺は気にもとめず、何度も女の唇に自分の唇を重ねた。
女が俺の顔に爪を立てた。
それでも、俺はキスを続けた。その痛さに、我慢しきれなくなるまで。
「痛た!いたた……おい、お前の爪、本当に人間の爪かよ! 鋭すぎるんだけど……」
「ハァ……ハァ……殺すわ。あんたを殺す。父に言って、あんたを殺してもらうんだから!」
「俺のこと、覚えてないのか? このキスも、忘れたって言うのかよ」
「……っ」
俺はもう一度、女にキスをした。
女は顔を真っ赤にして弱々しく抵抗する。
……が、先ほどとは違い、その抵抗はかすかなものだった。
俺は女から唇を離す。
女はしばらく顔を伏せていた。
「ほ、ほんとに……覚えてなんて……」
女が何かを言いかけたとき、
「サラ……?」
突入時、教会で女と誓いのキスをしようとしていた白い王子様が、真っ青な顔で現れた。
女はその声に目を輝かせ、王子のもとへ駆けよる。
「マルク……待っていたわ。私を迎えに来てくれたのね」
「サラ……あなたは、その男といまキスを……?」
女は目を丸くして、首を横に振った。
違うの、これはあいつが勝手にやったこと。私は一方的に……。
しかし、女の言葉はマルクと呼ばれた王子様には届いていないようで、
マルクは黙ってうなだれていた。女は必死に、王子に弁明をする。
……成功だ。
今回の任務は保護対象(あの女)を『この世界』から救い出し、
現実世界へ連れ戻すこと。
この世界は、個人の想像と願望が反映された電子空間。
幻想電子空間。
この世界では、あの女が望んだことがそのままこの世界に反映される。
想定していたよりも強力な敵が現れ、
こちらの攻撃が通じなかった原因は、あの女自身にある。
この世界をつくり出しているのは、他ならぬあの女自身なのだ。
この世界から抜け出したくないという思いが、強すぎたのかもしれない。
だから、これでいい。
現実世界で俺がこの女の恋人だったかどうか……?
ウソに決まっている。
あの間抜けな王子様が近づいてきていたことに、俺は気づいていた。
だから俺と女とのキスを見せつけたのだ。堂々と。
王子は当然動揺する。そして女は戸惑い、自分がつくりあげてきた世界が揺らぐ。
いいか、よく考えろ。俺は傭兵だ。
この世界から現実世界(外の世界)に出たほうが、
ひょっとしたらいいんじゃないか、むしろこの世界にはもういたくない。
そうあの女が思うように、仕向けて行くんだ! それしか道はない!
「ごめん、サラ。きっと俺の見間違いだったんだ。
君を信じられなくてごめんよ」
王子が甘い言葉とともに、女を抱きしめた。
女は素直に王子に寄り添う。
ダメだ。まだ揺さぶりが弱いんだ。
「さあ今度こそ、誓いのキスをしよう。
そして永遠に私たちは一緒に暮らすんだ」
王子のその言葉に、女はうるんだ瞳でうなずいた。
二人が目を閉じ、そのままキスを……。
「……ダメだ、こんなの俺のガラじゃねぇんだよ!」
俺は王子の腕の中からお姫様を強引に奪うと、
王子をぶん殴った。
「お芝居はヤメだ! てめーにこの女は渡さねぇ。
保護対象は俺の獲物だ!」
あっ……。
俺はついカッとなって、見境なく動いていた。
左足に力が入らず、女と一緒に倒れこむ。
俺は女を抱きしめるかたちで、女と地面に転がっていた。
「あの……」
目を開けると、顔を真っ赤にした女が俺をじっと見つめていた。
ん? なんだよ。さっきと違ってずいぶんしおらしいな。
「本当なのね? あなたが、私の恋人だってこと……」
女はそう言って俺にキスをすると、俺の胸に顔をうずめた。
「私、信じるわ。あなたのこと!」
はぁ? なに言ってるんだ、こいつ。
その時唐突に、マリーからの通信が頭に響く。
「……アオヤギさん、グッジョブです。さっきの告白、最高でしたよ。
花嫁は俺のものだ! って」
おい、マリー。お前まで何言ってんの?
告白って何のことだよ! 全然わけわかんないんだけど……。
「っていうか、そんなことより!
お前ずっと連絡しないで何してたんだよ!」
マリーの顔が真剣さを取り戻す。
「すいません、かなり強力なジャミングがかけられていました。
突破に時間がかかりましたが、もう大丈夫です」
話している間に、目の前の王子様が黒い炎を身にまとった。
その炎はどんどん膨れ上がっていく。
「わかった! とにかく脱出プランをくれ!」
王子をまとっていた炎が形を変え、あのデュラハンが現れた。
俺の足を貫いた槍を、天に掲げる。
「大丈夫です。アオヤギさん、防護装甲を!
パターンAでもう一度脱出します。今度は行けますから!」
「了解!」
俺は女を抱いたまま、防護装甲を展開した。
自分の感覚が書き換えられ、戦闘用の形態へと変化する。
防護装甲は、感覚の通ったロボットという表現が最も近い。
コンマ数秒後、俺の身体は漆黒の機動兵器、
566ライトニングへと姿を変えていた。
脱出パターンAは、
はるか上空にある『世界の臨界点』から、
この世界を脱出する。
俺はバランスコントローラーを操作し、再び空を目指して飛び上がった。
『警告:ロックオンされています――
警告:ロックオンされています――』
視界に広がる赤い警告文。頭に響くアラーム。
眼下に広がる森の真ん中で、デュラハンの槍がこちらを向いていた。
(また、投げる気か……!?)
違っていた。
閃光とともに超高圧縮されたビームが槍の先端から放たれ、俺めがけて直進してきた。
それは光よりも速かった。
「うぉおおおお……!?」
俺は身体をひねった。
空気の壁とビームの光がガリガリと俺の装甲を削る。
「傭兵なめんじゃねぇ!」
俺はビームの直撃をなんとか避けると、
空気の層を抜けた先にある、この世界の外殻『臨界点』に銃口を向けた。
全力でトリガー引く。
「ぶち壊れろおぉぉぉぉぉ!!」
次の瞬間、臨界点を貫く手ごたえがあった。
ログアウトプロトコルが青いらせん状の光となって俺を包む。
「アオヤギさん、任務完了!
お疲れさまでした――」
頭の中で、マリーの声が響き渡った。
*****
俺はマリーに呼び出されて、情報管制室にやってきていた。
100はあろうかという大小のモニターが、所狭しと並んでいる。
マリーはそのうちの1つに向かってキーボードを打ちながら、
横目で俺にほほ笑みかけた。
「もう松葉杖はいらないの?」
「へーきだよ。こんなもん」
俺は足を引きずりながら、自分の席にどかっと身体を預けた。
あの任務から3週間経った。
俺はあの任務で左足を含め、身体のあちこちを負傷していた。
いま、傷は完治したとは言えないが、なんとか動けるようにはなっている。
「それよりもなんだ? 俺は休暇中なんだぞ」
「もうすぐ荷物が届く時間だから、
アオヤギさんに受け取ってもらおうかと思いまして」
自分で行けよと言うと、マリーは楽しそうにキーボードを打ちながら、
「いま手が離せないので」と答えてくる。
次の仕事の準備か、それともクライアントとの交渉か……。
俺は不服そうに口を尖らせ、「けが人にやらせることかね」と言いながら、
イスから立ち上がって基地の入口へと向かった。
この基地は地下にあり、荷物を受け取るための小窓が入口のそばにあるのだ。
「ん?」
荷物の受け取りをするための小窓には、まだ何も届いていなかった。
「少し早かったか……」
「あなたは……!」
不意に、俺の胸の中に見覚えのある女が飛び込んできた。
ふんわりとしたいい香りが、鼻をくすぐる。
「うわわ!」
俺は足の踏ん張りがきかず、そのまま女と一緒に廊下に倒れこんだ。
女は起き上がると、俺の上にまたがる形で俺の顔を覗き込む。
間違いない。この女、この前の依頼の――。
「探した! ようやく再開できたのね、私の恋人さん!」
俺は女に唇を奪われた。
「いた、痛いっ、お前、唇を噛むんじゃねぇ!」
俺は激しすぎる女のキスに戸惑いを隠せず、
かといってなすがままというわけにもいかず、
女を強引に引きはがした。
「お前、なんでここがわかったんだよ!」
女はウフフと微笑むと、
「幻想電子空間から救出してもらった後、
私しばらく入院してたんだけど、
マリーさんがお見舞いに来てくれて……その時に、教えてくれたの」
マリーのやつ……!
保護対象と必要以上の関係を持つなって、
いつも自分で言ってるくせに!
「それに今日から私、ここの所属になるんだよ。
あなたと一緒に働くの。だから、これからはず~っと、一緒だね!」
衝撃の発言だった。
おいおいおい、俺は何も聞いてないんですけど?
待てよ。
俺の頭の中を、『依頼』のことが頭を駆けめぐる。
今回の依頼は幻想電子空間に囚われた、この女の救出。
クライアントから情報ももらっていたが、
実際にイメージワールドに入ってみると、
事前の情報とは少し違っていた。
強力な敵の出現……。
あの時、世界は書き換えられていたのだ。
では、誰が書き換えたのか。
あの後白い王子がデュラハンになったことを考えると、恐らく、犯人はこの女で間違いない。
だが、俺はあの時一気に教会を強襲し、
女を連れ去って空へと向かった。
よく考えたら、世界を書き換えるなんてことをしている暇が、この女にあっただろうか?
「ささらさんいらっしゃい!
待っていたのよ……あらぁ? 邪魔しちゃったかしらぁ」
そこへマリーがやってきた。
わざとらしく驚いたふりをして、笑いをこらえている。
「マリーてめぇ!
この女は……どういうことなんだ! 説明しろー!」
ささらと呼ばれたこの女にまたがられたまま、俺は暴れる。
(アオヤギさん、わかってるくせに。
なに赤くなっちゃってるんです?)
マリーは壁に身体を預けたまま、くすくすと笑った。
マリーの声が頭に響く。ダイレクトメッセージだ。
(あのデュラハン、強かったですよねぇ。
多少、敵が強くなることは想定していましたが、あれは想定を大幅に上回るスペックでした。
でも、普通に考えて、アオヤギさんの突撃から
あんな短時間で世界を書き換えることはできません。
情報管制担当のプライドと経験から断言します。そんなことは不可能です。
そう、普通の人なら。
でも、幻想電子空間への適性が極めて高く、
見つかれば世界を変えられると噂される『知性の火』の持ち主ならもしかしてって……)
(だから何だっていうんだ。
それはあくまでもお前の仮説だし、
そもそもそんな能力の持ち主、
誰も会ったことがないから噂話で終わってるんじゃないか。お前の勘違い、考えすぎだって!
まったく、なんで基地の場所まで教えたんだ。
しかも、これから一緒に働くってどういうことだよ)
マリーはしゃがみ込むと、俺の顔を覗き込んだ。
(確かにこの子は『知性の火』は持ってないかもしれません。
まあ、幻想世界狂としてはゾクゾクする話なので
ぜひ持っていてもらいたいんですが、それはそれとして……。
デュラハンとの戦闘開始時、私にジャミング仕掛けてきたの、この子なんです。
あんなすごいジャミング久々でした。
そんな子が、ちょっと押したら仲間になりそうだったんですから、声もかけるってもんですよ。
アオヤギさん、知ってました? うちって慢性的に人手不足なんですよ)
マリーは立ち上がると、不敵にほほ笑んだ。
(それに、言いましたよね? 絶対に、『ターゲットを傷つけちゃダメだ』って。
女の子にあそこまで言った以上、アオヤギさんには、
現実世界でも恋人を演じてもらわないといけません。
女の子のこころを傷つけたら、私が許しませんからね)
ああ? なんだって?
「というわけで、歓迎しますよ、ささらさん!
お腹すいたでしょ? すぐにご飯にしましょう!」
マリーは俺のことなど放っておいて、
新しく加わる仲間を食堂へと案内する。
ささらは俺に向かってウィンクしてから、嬉しそうにマリーについていった。
「あいつ最後になんて言った?
恋人を演じろって……マジで言ってるの?」
冗談じゃない。いますぐ追いついて、誤解を解いてやる。
そしてさっさと基地から帰ってもらうんだ。
俺は悲鳴を上げる身体を動かし、壁に手をつけて何とか立ち上がる。
「クソ……すぐに、追いついて……」
足を引きずり、俺は二人を追った。