0,犬の王
森を焼かれ、仲間を討たれ、そして俺自身、もう満身創痍だ。
逃げ込んだ洞窟の奥地で、伏せて、最後の時を待つ。
もう、そうする事しかできなかった。
何で、俺達がこんな目に遭わなきゃならないんだ。
「哀れな犬よ」
何で、俺達が奪われなきゃならないんだ。
「人間が、憎いか?」
そうだ、人間に全てを奪われた。
憎いに決まってる。
……でも、俺は覚えてる。
昔の俺に、未来を……今を与えてくれたのも、人間だ。
人間は、1種じゃない。色んな人間がいるんだ。
だから俺は、人間が憎い訳じゃない。
この理不尽が、憎いんだ。理不尽を振りまく人間だけが、憎い。
「良い答えである」
こんな理不尽に、負けたくない。
「ならば力が欲しいか?」
…………ところで、さっきからあんたは誰だ?
「細かい事は気にするな。で、力が欲しいか、犬よ」
俺の名前は犬じゃない。
イヌキングだ。あの人間にもらった立派な名前がある。
「……センス酷いな、お前の名付け親」
放っとけ。噛み殺すぞコラ。
「いや、だってイヌキングってお前……」
しつけぇな、俺が満足してっから良いんだよ。
「まぁ良い……とにかくだ。お前と我輩の利害は一致する。お前に我輩の力を授けよう」
利害?
「お前は生き永らえ、『大いなる犬の力』を得る。そして我輩は、この退屈な洞窟から解き放たれる」
どういう事だ?
「我が名はドッグオー。『十二神獣』が1匹。その力の強大さ故に、媒介無くしては世に関わる事も憚られる、不自由な存在だ」
……ドッグオーて。よくもまぁ俺の名付け親を馬鹿にできたな。
「うるさい。そこは触れるな。とにかくだ。世に混乱を招かぬためとは言え、此処にこの身を封じて悠久の年月が過ぎた。いい加減に暇なのだ。お前、我輩の意識をその身に宿してどこかへ連れてってくれ」
成程……十二神獣ってのがどういうモノか、よくわかんねぇけど……
あんたは俺を助けられる力があって、その見返りに、俺に取り憑いて世界を旅したい、と。
「取り憑くと言う表現はいささか引っかかるが……まぁそんな感じだ。お互いにギブアンドテイクだろう?」
確かに、悪い話じゃない。
このまま死ぬなんて、絶対に嫌だ。
俺は、生きていたい。生物なんだ、当然だろう。
更に、話の通りなら理不尽に抗う力までもらえる。
どうせ故郷はもう焼け野原だし、世界中を旅すると言うのも良いだろう。
悪いどころか、最高の話ではないか。
「では、決まりだな。では早速……」
ん? 何このチュィィィィィンって音? 初めて聞く音なんだけど。
「いわゆるドリルだ。自然界ではまず聞く事は無い音だな」
どり……はぁ? それで何する気だよ?
「とりあえず、我輩の意識を搭載できる様にお前を色々改造する」
え、改造ってちょ……
「それに旅をするには人間の形に近い方が何かと便利だろう。人型と犬型の可変機構も組み込んでいく方向で弄るぞ」
ま、待て、言葉の意味はよくわからんけど嫌な予感しかしな……アッ―――




