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なりゆくままに  作者: 北野 いまに
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市壁内

 その日の夜は、うつぶせで寝た。ウッジが脅かした通り、あおむけで寝ると背中が痛かったんだ。寝返りが打てないのはつらい。アンがすかすかと気持ちよく寝息を立てているのを横目で見ながら、夜中じゅう体をもぞもぞ動かしていた。

 朝になると、マッツとパウルが、昨日の戦いの話を聞かせろと言ってやってきた。なおざりに傷の具合を聞くと、すぐに話せと俺をせっついた。聞かせたのは、昨日サラが決めた作り話だ。下水道に入って旧下水管理所から逃げ出すところまでは、事実の通りだ。アンが大砲を動かし始めたところからは、ちょっと脚色が入る。アンの大砲は、俺の大砲と同じように敵兵を押しやる程度の役にしか立っていなかったように説明した。

 話しながら、まずいことに気付いた。エーダン通りでの大破壊は、隠しようがない。市壁が封鎖されている間は大丈夫だろうが、戦意を失った神聖帝国がターケットから出ていくのも時間の問題だ。そうなったら、みんなが知るところになる。こんな嘘の説明がいつまでも通じるわけがない。その時には、俺がアンを守らなければならない。そのための方法を考えておかないといけないな。

「サラ殿は、すごいなあ。ぜひ見たかった」

 サラの礫の戦果を話すと、パウルが、腕組みをして呻いた。

「サラ殿の礫は、鉄砲より強力だな。サラ殿が何人かいれば、神聖帝国なんか敵じゃないかもしれないな」

 マッツもサラをべた褒めだ。ちょっと悔しい感じ。

「予備呪文をかけるのが間に合えばな。半日で礫を使い果たして、今は市壁内に戻ってんだぜ。また礫を使えるようになるまでに、何日もかかるんだ」

 あ、しまった。大人げなかったかな?

「おお、すまん。お前の大砲も結構なもんだ」

「まさか大砲が防御用の武器になるとは思わなかったぞ。弾を撃つばかりが能じゃないんだな。とても斬新だ」

 慌ててほめなくてもいいよ。確かに、サラの礫は、すごかった。礫を一瞬で思ったところに飛ばせるなんて思ってもみなかった。俺には到底できない。だが、気になることがある。

「サラは、普段は何をしてるんだ? あの礫が戦争以外に役立つとは思えないんだけど」

「熊でも退治してるんだろ。十分な威力だぜ」

 マッツは、パウルの当てずっぽうを否定した。

「違う。知らないのか? サラ殿は、王軍魔術師団から応援に来たんだ」

 俺は、びっくりして、話す言葉を失った。メッケルンの王軍魔術師といえば、若い魔術師のあこがれだ。腕に覚えのある連中がこぞって志願するが、王軍魔術師になれるのは千人に一人だと聞いている。先鋒を務めたターケットに送られるということは、王軍魔術師の中でも腕が立つということだろう。

 パウルも目を丸くした。

「王軍魔術師か? 道理でえらい実力だ」

「ああ、さすがは王軍魔術師だ。ターケットには攻撃の得意な魔術師がいないからと、領主様が応援をお願いした時、ぜひ実戦経験を積ませてくれと志願したという話だ」

 想像が外れた。王軍の中では、まだひよっこなのか。それでも、あの腕と度胸だ。ということは、他の王軍魔術師はどれほどすごいんだろう?

 呆気にとられている俺には気づかず、パウルとマッツは話し続けた。

「俺たちの魔術師部隊はどうしてる?」

「市内にいる敵兵の掃討に出てる。やっと出番だというので、張り切っているぞ。サラ殿ほど派手ではないが、礫で攻めたり、青銅板で動く防壁を作ったりしてくれている。おかげで、被害をほとんど出さずに駆逐できそうだ」

「くそ、俺も行きたいのに、怪我が治るまでここに留まれなんて命令されちまって」

「俺なんか、市壁の外に出てすらいないんだぞ。名誉の負傷で市壁内に戻ってきたお前は、まだましだ」

「ふん、怪我なんかしなきゃよかった」

 その後しばらく、この二人は、掃討戦に出られないことを悔しがって色々言っていた。武士の考え方は、俺には、相変わらずわからない。


 二日目の夜には眠れた。その代わり、悪夢を見た。体がつぶれた敵兵が迫ってくる夢だ。追い払おうと大砲を持ち上げたら、空中で人の足に変わってしまった。落ちてきたその足につぶされたところで目が覚めた。びっしょり汗をかいて飛び起きると、背中がひどく痛かった。その後、毎晩に一回はつぶれた敵兵が出てくる悪夢を見るようになった。


 数日たつと、アンが退屈し始めた。相変わらず物をまっすぐに持ち上げられないからその練習をさせてるんだが、そればかりやらせていると、やっぱり飽きてくる。もっと変化に富む練習をさせないといけないと思って、治療師に訓練を頼んでみたが、忙しくて時間を割けないと言われてしまった。仕方ないよな。俺も毎日傷を診てもらってるし、他にもけが人が大勢いる。無理は言えない。

 あんまり退屈がるから、同じ下宿の連中が泊まっている建物を調べてやった。ガキ大将のヒルマーや口の悪いスヴェンも一緒にいるようだからちょうどいい。男爵邸から少し歩いたところだ。背中の傷もだいぶ具合がよくなってきたことだし、連れて行ってやることにしよう。

 道は、込み合っていた。方々に武士や自警団員がいてトラブルが起きないように目を光らせている。食い物は、持ち込んだものが没収されてしまって、配給制になっているというし、結構窮屈な生活のようだ。

 だが、人々の顔は、明るかった。神聖帝国を追い出しつつあることが知れ渡っていたんだ。市壁内には攻撃が届かなかったけれど、きっと不安だっただろうな。その不安は、解消された。もうすぐ、耐乏生活も終わる。ただ、建物をだいぶ壊しちまったから、気を落とす奴も大勢いるだろうな。もし弁償を迫るなら、アンや俺じゃなくて、神聖帝国に言ってくれ。

「ありゃ、ムスタじゃないか。聞いたよ聞いたよ、あんたの活躍、有名になってるよ。大暴れだったっていうじゃないか」

 目的の建物に近づくと、ベアッテおばさんが俺を見つけて、走り寄ってきた。以前は、そういうおばさんを見ると地面が揺れるような気がしてたんだが、あの大破壊を見たあとでは、さほどでもない。

「おばさん、元気かい? 籠城生活は大変か?」

「何言ってんだい、別に大変じゃないよ。あんたが大砲を壊してくれたってんだから、気楽なもんさ。しかも、食べ物が乏しくなる前に神聖帝国を追い出してくれるっていうじゃないか。これで大変なんて言ったら、罰が当たるよ。おや、アンもいるね」

「おばさん、こんにちわ」

「よしよし、いい挨拶だ。あんたったら、いつの間にかいなくなっちまうから、みんな心配してたんだよ」

 アンは、ごめんなさいと頭を下げた。ベアッテおばさんは、その頭をなでて、子供たちを大声で呼んだ。

「アンが帰ってきたよ。遊んでおやり。ヒルマー、みんなを連れといで」

 アンは、寄ってきた子供たちと走って行った。ほっとけば、そこらで遊んでいるだろう。ベアッテおばさんや下宿の仲間と話し込んでいたら、俺の名前を聞き付けた連中が寄ってきた。ベアッテおばさんが言うとおり、俺は、有名人になっちまってるらしい。遠巻きにして噂話をしているので、どうにも居心地が悪くなってしまった。俺は、アンのことをベアッテおばさんに頼んで、早々に男爵邸に引き上げた。


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