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ヒーローの作り方  作者: 広森千林
第三章 朱い世界の戦い方
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七月④ 悲鳴

「ねねね、ここ面白そうじゃない?」 

 ハイロー九尾店を出てしばらくアーケード街を歩いていると、おもむろにしゅうちゃんが立ち止まる。

 そこは、色々なスポーツやアミューズメントの融合施設だった。九十分、三時間、一日フリータイムから遊ぶ時間を選択できるらしい。

 パターゴルフ、フットサル、テニス、卓球、バッティング、ピッチング、ローラースケート、ビリヤード、ダーツ等々、時間内ならどれでも好きなだけ遊べるようだ。

 運動は好きなので、面白そうではあるが……問題がひとつ。

 今日は満月だ。

 ゆえに、日が沈む前に朱ちゃんを寮まで送らないといけない。

 前みたいに声が聞こえたのが寮の近くなら問題は無いのだけど、さすがにここから寮まで一人で帰らせるわけにはいかない。瞬間移動が出来る朱ちゃんのことだから心配は無いのだけど、それを知っているのはエッジであってはつきではない。

 時計を見ると、六時前だった。一番短い九十分を選んでも、七時半になってしまう。

 時間を確認したところで、このまま帰路につくためのいい口実が思いついた。

「面白そうだけど、今からだと寮の門限に間に合わないな。たしか八時だったよね?」

「フッフッフ」

 朱ちゃんが腰に手を当てて不敵に笑う。

「こんなこともあろうかと! 門限延長願いを出してきたわ! これで十時まで大丈夫!」

 なんだと……! そんなものがあるのか!

「外泊届けなんてものもあるのよ。ちゃんと事前に出しておけば、わりと自由なの」

 これは困った。それならば、次の手だ。

「悪い、そういえば今日はパフェ代しか持ってないんだった」

 必殺、お金がない作戦。

「パフェご馳走になったし、ここは私が出すね!」

 あっけなく撃沈。

「いや、でも二人合わせたら結構な金額になるぞ? 金欠だって言ってたろ」

「貯金は困った時のためにあるのよ! 今がその時」

「別に遊べないからって困らないと思うんだけど……」

「わ、私は……困る!」

 本当に今日の押しの強さはなんなんだか。有耶あやに余計な入れ知恵でもされたのだろうか。

 断る理由が他に思いつかなかったので、僕は降参した。

 こうなってしまっては、今夜何も起こらない事を祈るのみだ。

「じゃあ、遠慮なく……」

 お金がないと嘘をついてしまった以上、いまさら出すとも言えず、おごってもらうことになった。今度別の形でお返ししよう。

 僕達はエレベーターで三階に向かい、そこで受付を済ませて奥にある別のエレベーターからさらに上に向かった。

 一番上の階でバッティングをしたあとは一階ずつ下に降り、それぞれの階の施設を二十分ずつ遊んだ。八十分が経過し、残り十分をどうしようかと考えていると、朱ちゃんがアミューズメントコーナーを指さす。

「プリクラ発見!」

「嫌ってほど三人で撮っただろうに」

「でも二人は初めてだよ?」

「まあ……そうだな」

 二人と三人でどれほどの差があるのかよく分からないが、朱ちゃんが撮りたいというのであれば、素直に従おう。

「見て見て! コスプレも出来るんだって! 服がいっぱいあるよ!」

 朱ちゃんは興奮気味に衣装が並ぶ一角ではしゃいでいる。

「ちゃんと更衣室もあるのか。金かかってるなぁ」

「ほんとだね。どうしよっかな〜制服のままがいいか、それとも着替えるか……」

 朱ちゃんは衣装とにらめっこしながら悩み出す。

「よし、決めた!」

 朱ちゃんは赤いドレスを手のとり、自分の体にあてて僕に見せる。

「どうかな?」

「いいんじゃないか」

 僕の軽い返事に朱ちゃんは頬を膨らます。

「なんか適当に言ってる〜!」

「いやまあ、実際に着てみないと分からないしさ」

「じゃあ、空門くんも……」

 そういいながら、再び物色を始める。僕もどんな衣装があるのかと別の列をみていると、

「空門くんは……エッジ君の格好とか、どうかな?」

 そんな朱ちゃんの言葉に僕は凍り付く。

「……え?」

 今、なんと言った? エッジ君……そう聞こえた。まさか……電車の中で見たブレスレットでばれたのか?

 僕は冷や汗が出るのを感じながらゆっくりと振り向き、朱ちゃんを見る。その手には、エッジの姿を模したコスチュームが握られていた。

「なに……それ……?」

「ん? ほら、前に話題になったじゃない。ビルから落ちる女の子を助けたって。そのあとも何度か目撃されてるみたいよ? ほら、先々週あたりにもニュースが出てたじゃない。火事になった家からお年寄りを助けたって」

 どうやら正体がバレていた訳ではないようだ。僕はほっと胸をなで下ろす。

「いやまあ、それは知ってるけど……なんでそんなのがあるんだよっていう……」

「早いよね。話題になってからまだ一ヶ月くらいしかたってないのに」

 ほんとにどこのメーカーだよ……寿命が縮んだぞ。

「けっこう似合うかもよ?」

「似合うかどうかはともかく……さすがに顔の部分は無いか……」

「顔まで隠しちゃったら誰かわからなくなっちゃうもんね」

 朱ちゃんから手渡されたエッジのコスチュームを軽くチェックする。なかなかの再現度だ。サーコート部分の裏側なんて、ぱっと見は分からないはずなのに、そこも見事に再現されている。

 さらにチェックを続けてみると、裏地についているラベル部分にラストリゾートという文字を見つけ、再現度の高さの理由が分かった。

 あの男か! こんなところにまで宣伝ぽい事をしていたのか!

「これは却下だ」

 僕は朱ちゃんに突き返す。

「えー、けっこう再現度高いから似合うと思ったのにぃ」

「再現度が高いって……本物に会った事でもあるのか?」

 少しいじわるな質問をしてみた。しかし朱ちゃんは意にも介さず自然と切り返す。

「あるかもね〜。えっへへ」

 これ以上この会話を続けると墓穴を掘りそうなので、このへんで終わらせよう。

「てか着替えてる時間ないんじゃないか?」

 僕の言葉に朱ちゃんはあわてて時計を確認する。

「いっけない、悩みすぎた! うーん、しょうがないか……制服で我慢だね」

 結局制服のまま撮影し、終わったところで丁度時間切れになった。適当に落書きした写真を二人で分け、急いで受付に向かった。

「いろいろと球技をやったけど、私にはどれも向いてないことが分かったわ……」

 会計を済ませ、下に降りるエレベーターに乗ったところで朱ちゃんがそんな感想を述べる。

「朱ちゃんてさ、なにか得意なのってあったっけ? 部活何もしてないよな?」

「な、縄跳びは得意……だよ!」

 また地味なものを選んでくるな……コメントがしにくいぞ。

 エレベーターを降り、建物を出て空を見上げると外はすっかり暗くなっていた。しかし、そこはさすが繁華街。アーケードの中に入ると、昼間さながらに明るかった。

 僕達は駅に向かって歩き出す。

「空門くんはボウリング場でバイトしてただけあって、ボウリングうまかったよね」

「んー、まあ社員さんがプロだったから、けっこうスパルタ気味に教えてもらえたしな」

「そっか。そういえばバイト変えたとか言ってたけど、今は何してるんだっけ?」

 説明しにくいから、あえて言わなかったのだが、聞かれてしまったら答えないわけにはいかないし、困った。

「た……探偵事務所みたいなところで助手みたいなのをちょっとね……」

 嘘にならない程度に曖昧に答える。

「えっ、すごい! そんなバイトあるんだ!?」

 朱ちゃんは驚きの声を上げる。

 アーケードが途切れ、四車線ある大きな道路で僕達は立ち止まる。ちょうど信号が赤に変わったところだ。

「ん……まあ、めったに仕事無いんだけ……ど──」

 どこまで説明できるだろうか、そんな事を考えていたその時だった。

 全身に悪寒が走り、血に染まった場所のイメージと複数の声が僕の中を通りすぎていった。それは、今までのような助けを求める声ではなく、苦しみに満ちた『悲鳴』だった。

「空門くん……?」

 おかしい。今までと何かが違う。今見えたのは、事故の後のような惨状だった。今まで見えてきたのは途中のイメージだ。この違いの意味するところは何だ?

 他にも気になる点がある。今見えたイメージには時計が映っていた。その時計が指し示している時刻は、今から二分後の『未来』。未来からの悲鳴だとでもいうのか……? それとも時計が狂っているだけ?

 もうひとつ不可解な事は、その現場と思われる場所は、僕が今立っている目の前の道路だということだ。都合が良すぎないか? これではまるで僕自身が災厄を招いているみたいじゃないか。

 僕は頭を振り、雑念を振り払う。

 今考えるべきことはそこじゃない。今の僕には大きな問題がある。

 今現在僕一人だったならば、人目のつかない所に移動してステルスモードに変身し、ここに戻ってくる事も可能だ。しかし、今は隣に朱ちゃんがいる。

 まずい。

 どうする?

 どうやってエッジになる?

「汗がひどいよ……大丈夫?」

 朱ちゃんは僕の額にハンカチを沿えて汗を拭ってくれる。

 もう時間がない。たとえ怪しまれても、今は人命のほうが優先だ。近くの建物に駆け込んでステルスモードに──そう考えた瞬間、

「あ、はっつき〜見〜っけ!」

 突然明るい声で僕を呼ぶ声が背後から聞こえた。

 振り向くと、そこにいたのはシキナだった。

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