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第三話 哀戦世界3




「……で、なんでこうなった?」


「さぁ?」


 俺と裕也は、ドッジボールコートの真ん中で向かい合っていた。二人の隣では先生がボールを持ち、今まさに上にあげてのジャンプボールでゲームが始まろうとしている。


「用意はいいかね?」


「ちょっと待てよ先生!」


 合図を出そうとする先生を裕也が止めた。


二人が揉めている間に、俺は今一度自コートを確認する。そこには、男子もいるが、女子もいる。男女混成チーム……。花音も二分の一の確率だったが、俺と同チームになっていた。


「だから! 男と女に分かれなきゃ意味ねーだろーがよー」


「仕方ないでしょう……。二つに割っての争いは禁止されているんだから。混合チームならOKなんだよ」


 裕也は先生の胸ぐらを掴んでがくんがくんと前後に揺すっている。


 仮想教師相手と言えど、少しやり過ぎな気がするが裕也の気持ちは理解出来る。いや、ここにいる全員が分かっている。


 だが……先生の言い分も一部正しいのだ。


 最初、当然俺達は男と女に分かれたのだが、プログラムエラーと空中に表示が出たと同時にボールとコートが消えてしまった。どうやら争いの火種となる作業はプロテクトがかかって実行できないようだった。


それに対して、先生が提案したのが今のチーム分け。確かに試合は可能だが、俺達はドッジボールがどうしてもしたかった訳ではない。まさに本末転倒だ。


 裕也に揺すられて薄い頭髪が右に左になっている先生の横で、俺が思案に暮れているとそこに正人がやってきた。


「待ってください。チームとかは別に関係無くないですか? 要は、女子にボールをぶつけて痛い目に合わせたらいいんでしょ?」


「……そうか。女子を全てコートの外に出したら男の勝利。その後、ゆっくりとドッジボールを男だけで楽しめば良いのか」


 俺が正人の意見に頷くと、裕也も先生の胸倉をぱっと離して言う。


「なーんだ、そうか。なら始めようぜ。俺は法次のチームの女を狙って…」


「俺は裕也のチームの女を一掃する」


 裕也と俺は、そこで視線を合わせて含み笑いをした。


「ごほっ…ごほん。では始めますよ」


 先生の合図と共にボールが空中に投げられた。俺と裕也はボールめがけてジャンプするが、ジャストタイミングで飛んだ裕也の指先が先にボールに触れた。ボールは裕也コートに落ち、それを正人が掴んで裕也に渡す。


「いっくぜぇ! 女ども!」


 裕也は遠慮なく、軍事訓練時のように全力で投げた。いや、いつもより目が血走っているか? ボールは唸りを上げて花音に迫る。


―スッ―


[バコッ!]


 花音はワンステップでかわし、ボールはその後ろにいた男子のみぞおちに突き刺さる。くの字姿勢で後ろに数メートル滑ったそいつは、ぱったりと横に倒れた。


「た…田辺……」


 田辺は白目を剥きながらも地面を転がるボールを押さえ、近寄って声をかけた俺にそれを渡してから息絶えた。……コートから出て行った。


「す……すまん!」


 敵コートで手を上げて裕也が謝ってくる。戦場で流れ弾が当たるなんて事故の一つ、俺も全く気にしない。


「じゃあこっちも行くぞっ!」


 俺も大きく足を振り上げ、全力でボールを投げた。


生身で戦う兵士として体を鍛え、多少の筋肉増強剤(ステロイド)とホルモン剤により肉体強化をされている俺が投げたボールは、砲弾のように一直線に沙織に向かった。


―フッ―


「ぐぇっ!」


 沙織は獣のような速さで身をかがめ、彼女の長い髪が舞っている中を突き抜けたボールは……正人の顔面にぶち当たった。


「なっ…何するんだよ法次! 正人の眼鏡が木っ端微塵じゃねーかよー。鼻血もじゃぶじゃぶ出てるし!」


 裕也がコートの真ん中まで出てきて俺に訴えてきた。あまりに凄惨な映像だったからか、正人は今、顔に『夢想モザイク』がかかった状態でぐったりと寝ころんでいる。


「す…すまん。わざとじゃないんだ」


「本当かぁ? たまに正人は『僕は法次君に嫌われいるかも』って俺に漏らしてたけど、積年の癇癪でも爆発したんじゃねーのぉ?」


「せ…積年? そんな事は無い。それに、裕也だって俺のチームの田辺に当てただろ?」


「ダメージが違うだろぉ。法次のは憎しみがこもってた!」


「バカなっ! それは俺とお前の能力の違い、肩の強さの違いだろ!」


「あぁ! 隊長さんは俺達平隊員を足手まといだって考えてんだろぅ!」


「そ…そんな事はないっ!」


 いつの間にか俺もコートの真ん中に寄り、裕也と二人で言い合っていた。


「なら、ドッジボールで勝負を付けようじゃねーの。どうせバスケで勝負をつけようと思ってたところだったしよぉ」


「望むところだ。なぜ俺が隊長を任せられているか示してやろう」


「確かに頭を使う事なら法次だけど、実際……」


 裕也はそこで口を閉じ、小脇に抱えていたボールを指先で回しながら俺から距離をとった。論ずることより産むが易し。男らしく、実力で決めようと誘っている。俺も首を鳴らしながら後ろに下がった。


「いくぞぉ野郎どもぉ! 法次のチーム全員ぶっ倒すぞぉ!」


 裕也の声で後ろの六人の男子達が腕を突き上げた。


敵は裕也を含めて男七名、それに対してこちらは俺を含めて残り六人。しかし、ややこしい事に敵に七人、味方に八人の女子が加わる。女子達をも討ち取りながら、更に裕也チームにも勝たなければならない。

 

 外野は、スタンダードな後方のみ配置型。初期配置の外野は一回の交代を使い切り、今は田辺と正人が配置されている。当てられた内野はコート外に出て外野の人員として加わるが、勝負を早く決めるために、外野の生き返りは無しのルールだ。


作戦を立てようにも、女子の能力が未知数だし、コートには小要塞(トーチカ)や塹壕などの遮蔽物がなく、工夫のしようが無い。力と力のぶつかり…


「――っ!?」


 俺の頭の中で警報が鳴った。まるで、森で敵や猛獣と出会った時のように。


[ビュンッ!]


 目の端で捉えた影を、頭を振って寸前でかわした。俺をかすめて飛んで行った物体は、数メートル後ろにいた女子の肩を直撃して真上に跳ね上がった。


「ゆ…裕也、きさま……」


「敵はどこから来るか分からないから、いつなん時も油断するなって隊長はおっしゃってましたよねぇ?」


 裕也は右肩を回しながらにやついている。


確かにドッジボールはすでに始まっていたし、試合は止まっていたがタイムを挟んでいた訳では無い。……やるじゃないか。だが、


「殺る時は一発で決めろと俺は教えたよな?」


「今のは挨拶代りって奴だって…」


 裕也がそう返した瞬間、奴の顔は引きつった。そして、慌てて身を屈めると、その上をボールが通過し、奥にいた男子の足に当たった。


 横を見ると、「おっしい!」と指を鳴らす花音がいた。相変わらず目が合うと顔を背ける花音だったが、その位置は内野でもかなり前よりで、やる気十分のようだ。……むしろ、ドッジボールを楽しんでいるような様子だが……まあ気のせいだろう。


 俺は裕也に向き直り、奴を指差した。


「覚悟しろ。とりあえずお前との勝負をつける。女の球に顔を歪めるお前が勝てるかな?」


「へ…へぇ。筋肉増強剤(ステロイド)も使ってないのに、大した威力でボールを投げる奴がいるもんだ……」


 裕也も鼻の下を指で擦り、俺を見ながら笑った。


 かくして、男vs女、男vs男、女同士は味方、複雑怪奇なドッジボールが始まった。




 十分後。


さすがに兵士として訓練を積んでいる男女なので、中々内野の人数が減らなかった。避ける動作は日常茶飯事なのだが、投擲は殆どしたことが無い。つまり、回避能力は高いのに命中率が低いからだ。


それでも二十分も経つとさすがに体力が無くなり集中力が切れ始めた。スタミナに自信があったはずの俺も、汗が顔を伝わって地面に落ちる。運動量が高く、試合時間が長い。


なんせ、女に負けないのが第一で、敵チームの男からの攻撃も避けなければいけない。要するに、女優先して当てて、後の事を考えて男も削っていく。付け足すと、味方チームの女は敵チームの男を狙うだけで協力などしない。 


今残っているのは、俺のチームは俺と花音、そして女子もう一人。裕也チームは、裕也と沙織、男子が一人だ。


機動装甲の性能だけで戦っていると思っていた女子達だったが、中身の方の訓練も抜かりないようで男と能力はそれほど変わらない。俺と裕也のチームは五分五分で、男と女の戦いも同じ五分五分だ。


花音に体力があるのは分かっていたが、相手チームの沙織もそれに勝るとも劣らないようで驚いた。第一印象とまるで違う。

 

俺は、額の汗を拭っている裕也に言う。


「どうした? 俺の目を盗んで訓練をさぼっていたのか?」


「へっ……このざまじゃあ、否定しても説得力が無いなぁ。でも、訓練外にしていた雑談でコミュニケーションはバッチリだぜ」


 裕也は右手を掲げて指をぱちんと鳴らした。すると、俺の後ろにいる六人の外野が三人ずつの二列となり、内野も裕也を前にし、後ろのもう一人がルーズボールを処理する見事な陣形を作り上げた。

 

 なるほど。ここで俺との勝負を先につけ、二対二で女子と決着をつける気か。裕也チームの女子一人を俺に倒してもらいたい所だろうが、その前にこれ以上戦力を削られてしまうのを嫌ったのか。しかし……


 ボールを振りかぶった裕也の動きを俺は頭に写しこむ。奴の視線、筋肉の動き、関節の方向……違和感がある。裕也の顔は俺に向けられているが、狙いはやはり別だ!


「きゃぁっ!」


 裕也の目は完全に俺を見ていた。しかし、ボールは奴の視線から約三十度右外へと投げられる。完全に油断していた俺のチームの女子に当たり、跳ね返ったボールは裕也の元へと返った。


 やはりそう来たか。ここで隠し技を使い、俺のチームを男一人女一人とする。俺と花音は協力することは無いので、実質裕也達二人と俺一人、裕也達二人と花音一人となる。するとここは確率から言って、次に狙うのは……


 裕也はボールを放った。その剛球は、俺めがけて飛んで来る。


 ボールの軌道を確認した花音は、大丈夫だと思ったのかボールを当てられて転んでしまった女子の傍にしゃがみ込んだ。


―ググッ―


 ボールは俺の3メートル手前で変化した。鋭く曲がり、右下に急降下する。これはどこかで聞いたことがある。カーブとかスライダーとか言う変化球だ。もう一つ奥の手を残しているとは裕也の奴……


「――っ!」


 花音の目が開かれた。ボールはもう花音の眼前、これでは神でもかわしようが無い。


[バシッ!]


 ボールは勢いを無くした。


完全に花音に当たっていたはずのボールだが、俺が真横に伸ばした右の手の中で回転を止める。阻止……してしまった。

 

 辺りは静まり返っていた。もちろん、女子も男子もだ。


「ちゃ…チャンス!」


 俺は振りかぶり、ボールを投げる。唖然として突っ立っていた男子に当たり、跳ね返ったボールがその隣の女子にも当たった。ダブルアウト。これで残りは裕也だけだ。


 ……いつかも同じような事があった。花音に飛んで行った物を、俺は体を張って防いだ。あの時は、花音だから体が勝手に動いた。今回も、花音だからだ。


「くっそぉ! 虚をつく作戦かよぉ!」


 ルーズボールを押さえた裕也だが、そのまま頭を抱えて悶絶している。


 これで、残りは裕也一人。こちらは俺と花音。裕也は男子が勝つために花音を狙わなくてはならず、もし逆に花音に当てられれでもすれば俺のチームが勝ち、その時は男子と女子の決着はつかないが、俺が自動的に裕也に勝利する。当然裕也もその事態に気が付いているために焦っているのだ。


 ようやく裕也は深いため息と共に腕をおろし、ボールをバスケのドリブルのように突きながら俺に言う。


「不利な状況から一転、勝利目前まで戦況を変える。さすが法次だぜ……」


 いつもそのように俺は心がけている。しかし、今回は完全に裕也の見誤りだ。今の俺は、後先考えずに花音を助け、今は屁理屈で自分を取り繕ったにしかない。だが、その取り繕いの中にこの裕也のお喋りは含まれている。こいつは、やばい状況になると、とにかく喋って時間を稼ぐ癖があるんだ。


「だけどなっ! 法次! 俺はお前のチームの女を仕留めた後、お前と一対一の勝負に勝って見せるっ!」


 ちっ…ちっ…ちっ…ちっと、俺の中のメトロノームが刻む音と、裕也の言葉が調和して時が進む。計算通りだ。


[キーンコーンカーンコーン]


「ああぁぁっ!」


 裕也が振り返って校舎の時計を見る。最初チーム分けのために20分程揉めて浪費したので、見事今が授業終了のチャイムの時間だ。


「勝負は持越しだな」


 俺は、口をあんぐりと開けている裕也の目の前でコートを出た。他の生徒もぞろぞろと校舎へ向かう。


 裕也は、帰るクラスメートに向かって声を張り上げた。


「でもよっ! 生き残ったのは俺と法次、あと女が一人。男子と女子の勝負は、俺達男の勝ちじゃね?」


「そうですね。後、法次君と裕也君の勝負は、決着がつかなかったとは言え、僕は法次君の判定勝ちだと思いますね。それを口に出さない所に、法次君の器の大きさを感じます」


 正人に肩を叩かれてそう言われた裕也は、ドッチボールのボールを思いっきり蹴り上げた。


「ちくしょぉぉ! いっつも、あとちょっとの所に法次に届かないんだよなぁっ!」


 俺は、ぶつぶつ言いながら付いて来る裕也を笑う。


 いや、裕也。今回はかなり良い線を行っていた。特に、奥の手を二つも隠し持っていたなんて俺は予想出来なかった。本当に、頼もしい奴だ。


 だからって、褒めてやる必要は無い。教室に入る頃には、気分が切り替わった裕也がうるさいくらい話しかけてくるからだ。





 女子達がクラスに加わり二日目が終わろうとしている。まるでお互い縄張りに入って来た異物のように威嚇し合っていた男女だったが、ドッジボールの件で多少のガス抜きが出来たのか、戻った後は静かなものだった。もちろん、仲良く話しをしたりはしないが、お互い無関心を貫いている。



 俺は、五時間目後の休憩時間にトイレに来ていた。むろん、仮想生理現象だ。トイレから出たとき、教室から廊下を歩いて来る花音を見つけた。一人だ。隣には沙織とかいう長い黒髪の女や、美樹とかいう茶髪の女はいない。


 花音に焦点を合わすことなく、俺は前を見ながら歩いた。花音からも視線を感じる事は無い。このまま歩けば正面からぶつかりそうだ、そう思っていた時、視界の中の花音は右に曲がって階段の方へ進む。女達が道を譲る事は無いと思っていたので、他に用事があるのだと考え、俺はそのまま教室に向かって真っすぐに歩く。


 しかし……花音の足音が消えた。歩くのをやめ、そこに留まった気がする。俺も足を止めてなぜか立ち止まる。丁度俺達は、廊下の角を挟んで90度の位置にいるはずだ。手を伸ばせば届くだろう距離だが、姿は見えない。


「法次、覚えてる?」


 花音の声だ。教室にいる時よりも、トーンを落としている。昔、花音が真面目な話をする時はこの声だった気がする。


「何をだ?」


「子供の頃、二人で崖の下で遊んでいた時、落石があった事」


「……もちろん覚えている。俺が右腕を怪我したんだったな」


「違うっ! 怪我をするはずだったのは私。法次は……自分の腕を犠牲にして私を助けた」


 十一歳の時だったと思う。俺と花音が中立コミュニティで一緒に暮らしていた頃だ。


 男軍にも女軍にも属さないコミュニティなので、それは山深い場所に隠れるようにあった。


 ある雨上がりの日、花音は崖下で綺麗な花を見つけた。花音はかがんで花を見つめ、採って帰っても良いか俺に相談する。好きにしろと言う俺と、まだためらう花音。


 その時、俺は小さな石ころが自分の頬に当たったのを感じ、上を見上げた。すると、直径50センチはある岩が、山肌を跳ねながら俺達の方へ転がり落ちてくる所だった。正確には、花音の真上、頭めがけて落ちてきた。


 俺が躊躇無く腕を振りかぶるのと、花音が岩に気が付くのは同時だった。


 花音の眼前に迫った岩に、俺は右腕を杭のように打ち込む。骨が砕ける音が俺の体を伝わり、腕、肩と、順に破裂していくような痛みがした。火事場の馬鹿力とでも言うのか、俺は構わず押し切り、腕を振り抜く。


 気が付けば、花音が俺の腕を抱きしめながらわんわん泣いていた。一人しかいない女の子と言うことで男子にからかわれる事が多かった花音だが、後にも先にも涙を見たのはその時だけだ。


「そう……だったか? 昔の事だから……忘れたな」


「嘘っ! 再生治療が必要な程、腕が砕かれたくせに!」


 確かに、あの後は少し不自由な生活だった。俺の右腕は使い物にならなくなり、根元から切り落とされた。そして、人工骨を埋め込んでの再生治療。元のように右腕が使えるようになったのは一ヶ月後だったかな。


「……懐かしいな。あの時の傷……消したか?」


「当たり前でしょ」


 声が聞こえる方向が変わった。振り返ると、花音はいつの間にか真後ろに立っている。そして、手で前髪をかきあげ、自分の額を俺に見せた。何もない、綺麗な額だった。


 俺が腕を犠牲にして岩の軌道を変えた時、直撃こそは避けたが岩は花音の額をかすめた。傷が残ったものの、今の時代そんなのはすぐに跡形も無く消せる。だが、簡単に消せると言うのに、なぜか昔の花音は頑なに消そうとしなかったんだ。


 久しぶりに真正面から見る花音の姿に、俺は、一緒に遊んでいた幼い頃の花音を重ねた。


「親父さん……元気にしてるか?」


 花音とその父親は仲が良かった。中立コミュニティには子供を持つ家族がいくつかあったのだが、その中でも群を抜いて仲睦まじい親子だった。


 なぜ、女性の親がいないのか、そして中学生以上の女の子がいないのかは……


「お父さん? そんな人、とっくに殺したよ」


「そうか……」


 女は、女子から女性へと変わる第二成長期に……男に対しての殺戮者と変わる。野生本能が芽生えるのだ。ライオンは、どんなに小さな頃から育てても、何かをきっかけに人に牙を剥く猛獣。女も、同じように男を殺す衝動に駆られるのだ。


 それでも、背中を見せて廊下を歩いていく花音に、また俺は昔の花音の姿を重ねた。十二歳のある日、親父さんに腕を引かれて、何度も振り返りながらコミュニティを出て行く花音の姿を……。



 男は、自らの身を守るために……女を殲滅する。良心の呵責を持たない女と違って、心に悲しみを背負ったまま。





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