ひと握りの砂が切ない
海に来ている。
季節が来れば毎年のようにメディアに上る地名の場所だ。今は夕暮れ時だからだろう、ボードを持っている人もいない。ここから見えるのは暗い雲の上の星空だけだ。
夜更けて潮風が冷たい中、たった一人。堤防から海を見ている。
海が滲んで見える。
泣いてなんかいない。
泣いてなんか、いないったら。
誰に言うともなく吐き出した言葉が、波の音に吸い込まれていく。
ざらざらとした堤防のコンクリートに両手を着いて立ち上がると、強い風が背中を押した。
やめてよ、誰も助けてなんかくれないのに。
こんなところで波の中に落ちたら、洒落にもならない。それっぽっちの理性くらいは働くから、たぶん、まだ私は生きたいんだろう。
掌の中には、あの人からの最後の手紙がある。私は歩きながら、また泣いているのかもしれない。握りしめる手指が震えているのは感じるから。
てくてく歩いていくと堤防が切れて、砂浜に降りる場所がある。無愛想な温もりの鉄の梯子を降りると足元が暗いせいか、よろけてしまう。捻挫をするよりも転んだ方がいいのかもしれないと思う、下卑た根性が顔を出す。
「あ」
声を上げて堤防の内側、砂の中に膝を埋める。両の掌も砂の上についてしまう。これでいい。手も足も、捻挫だけはしなかったから。
私は立ち上がれない。
誰も見ていないことをいいことに、このままずっと泣いていたい。
200字ぴったりは難しいですね、収めたかったんですが。