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底なし沼6

「という事実が分かったのよ。それが原因で夫を沼に突き落としてしまったのかしら。それに武州のはずれの村というのは私の生まれた町のことだと思うの。やっぱりあの沼に違いないわ」と私はヒロに夢の内容を報告した。

「なんだか時代劇に出てきそうな話だな。前の日にテレビとか小説とか読まなかったかい?」とヒロは少し呆れ顔で言った。

「私は時代劇も見ないし、時代小説も読まないもの。関係ないわ」と少しいらっとして言った。

私がいらっとしたのが伝わったのか、ヒロは取り繕うように

「まあ、続きを楽しみにしているよ。また夢を見たら報告頂戴よ」と笑いながら言った。

 しばらくしてまた同じ夢を見た。

 「貴方は旦那様のことを愛していたのですね」と私は慰めるように尋ねてみた。

 「ええ、初恋の人でございましたから」と答え、「旦那様との出会いをお話しましょう」と言った。


お寺には小さな沼がございました。寺の裏山から流れる湧き水が流れ込み、表面には浮き草が生え、色は沼の深さを予想させるかのように、黒っぽくにごっておりました。春先にはおたまじゃくしが泳ぎ、夏にはかえるがけたたましく鳴いておりました。

私がまだ娘のころ、この沼のほとりでたたずむのが好きでした。お寺には大きな杉の木が何本もありまして、絶えず小鳥がさえずっておりました。そして樹木の枝々の合間から、光が幾筋にもなって差し込んで沼を照らし、景色がとても綺麗でした。

私はこの静かで落ち着いた感じがとても好きでした。

いつも通り、私が沼のほとりで、鼻歌を歌っていると、

「こんにちは」

と声をかけてきた若い男がいました。

「こんにちは」

と私も挨拶をしました。

さて、その男。真っ黒に日焼けしており、体が大きく、おおらかな声をしておりました。服装からみて、どうやら炭の運搬業をしていると思われました。

「ここは、静かですね。心が洗われるようです」

男は、ぽつりと言いました。

その言い方が何だか老人の老成しているように思え、私はついおかしくて笑ってしまいました。

男はその様子に気づいたのか、

「何か、おかしいでしょうか?」

と尋ねてきました。美代は、

「いいえ」と笑った。

すると男も相好を崩して笑いました。

その後もお寺で何度か男と偶然出くわし、たわいのないことを話し、楽しかったことを思い出します。


この男こそが今の旦那様です。旦那様は山の木こりの四男坊で、炭の運搬業をしていた父の元で働いていたそうです。なかなか頭が切れる男だと、今は亡き父が婿にどうかとある日突然、連れてきたのです。

 私は驚きました。きっと旦那様もそうでしょう。婚儀の後で、二人は元々ご縁があったのだと言い合いました。

それからは仲睦まじく、何不自由なく暮していたのです。


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