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底なし沼1

嫌なことがあると良く見る夢がある。

底なし沼の辺に立って、ぼんやり沼面に映っている自分をジッと観ている。

暫くすると髷を結って、木綿の着物をきた女性が後ろからあらわれ自分に重なり、一つとなってしまう。

その女性はううっと唸ると赤い顔をして涙をホロホロ流してしまう。

ある日、私はその女性に尋ねてみた。

その女性と一つに重なっているのにどうやって尋ねるかと疑問に思うが、それは夢であるから自在にできるのだ。

「あなたはどうして泣いておられるのです」

「夫を亡くしてしまったからです」と声も絶え絶えで女は答えた。

「それは、それは、ご愁傷様です」と私は言った。

それからも、女は泣きじゃくるばかりなので、私は

「あの、尋ねても宜しいでしょうか?」と尋ねてみた。

「ええ、夫はこの沼に沈んでしまい、二度と出られなくなりました。村の伝承によると、この沼は底なし沼で一度足を入れてしまうと、ずんずんと引き込まれてしまうんです」と女は俯き、声を枯らしながら言った。

「なぜ、旦那様はこのような危ないところに足を入れてしまったのでしょうか?」

「ええ、実はと言うと、私が突き落としてしまったんです。そして村の伝承どおりに、あれよあれよと夫は沼の奥深くに沈んでいきました。そして、私も後を追おうとして足を踏み入れたのです」と言うと女はさらにさめざめと泣くのであった。

「ええ」と私は驚きながらも尋ねる。

「しかし、どうしてでしょう?私は一向に沈まない。膝ぐらいの深さまでしか行けないのです。それで未練がましく、ここで夫の供養をしているわけでございます」と女は言った

「そうなのですか」と私は返すこともなく頷くことしかできない。

「いつしか、私も寿命がきて、この世を去りました。しかし、新しい世に生まれ変わっても、夫のことが忘れられず、こうして夢の中で供養をしているわけです」と女は気を取り直したように、気丈な口調で話した。

「と、いうと?」と私は尋ねた。

「そう、私は貴方に生まれ変わってもなお、夢の中で夫を追い続けているわけです」と女は言った。どうやら私はこの女の生まれ変わりらしい。

「しかし、旦那様もきっと生まれ変わっておられるでしょう?もうそろそろ良いのではないでしょうか?」と私は女を慰めようと精一杯に言った。

「いえ、未練があり、まだ魂がさまよっている事でしょう」とめそめそ泣き止まず、私は声をかけられず、明け方早くに目が覚めるのである。


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