表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/143

急に配信したいと、駄々をこねました

 その日の夕方。


 東京に戻った俺は、管理局が用意した超高級ホテルでようやく一息ついた。

 品川第七ふ頭ダンジョンに近い場所で、窓からダンジョン横の管理局事務所が見える。

 その手前にはレインボーブリッジがあり、今日は緑色のライトで照らされていた。

 

 「今日も今日とて超高級ホテルかぁ…」


 昨日宿泊したホテルはクラッシック調の格式がとても高いホテルだったが、今日のホテルはスタイリッシュさに全振りした超高級ラグジュアリーホテルだった。


 「シオ、部屋の中に2階があるぞ。追いかけっこしようか」


 シオは無反応で殻だけ揺らした。


 「…まぁやったら俺の全負けは確実だもんな」


 ダン博を通じてまた更に成長を遂げた我が相棒は、身体能力という部分においても俺を遥かに上回っていた。


 「失礼します。明日以降のスケジュールを打ち合わせさせてください」


 そう言って扉から管理局職員が入ってくる。


 「あ、どうぞ」


 大阪から俺を引率してくれた管理局職員は、新顔の2名を引き連れて部屋に来ると、タブレット端末を出してスケジュールの説明を始める。


 「……そういうことで、暫くは定期的に宿泊拠点を変えていきますので」


 「わかりました」


 細かく組み込まれたスケジュールに対して、俺は返事を返すと、ふと疑問が湧いてくる。


 「あの、面会したい人がいる場合はどうすれば」


 「面会、ですか? ちなみにどなたで」


 「榊さんにちょっと会いたいな、と」


 「榊…少々お待ちください」


 管理局職員は手元のタブレット端末で検索し始める。


 「確認が取れました。ダイブの榊さんでお間違いないでしょうか」


 「そうです。ダイブチャンネルを配信している榊さんです」


 「………少々時間を頂いてもよろしいですか?」


 「あ、はい。別に通話でもいいです」


 管理局職員は隣にいる新顔の職員へ頷くと、頷き返し部屋を後にする。

 そして数分後、


 「…本部から許可が下りました。いま榊さんの方へ連絡を取ってますので、結果をお待ちください」


 「ありがとうございます。でも人と会うだけでこの状況なんですね…」


 「申し訳ございません。安全を担保するには、どうしてもこのような対処が必要になってきます」


 あの怪しげな神父たちに狙われている(多分)俺は、むしろ政府が全力になって守ってくれているこの状況に感謝するべきなんだろう。


 「愚痴っぽいこといってすいません。皆さんのことはとても感謝してます」


 「ご理解いただきありがとうございます」


 それから少し経つと、榊から通話が来ているという連絡を受ける。

 スマホを差し出されると、すでに通話状態であった。


 『あ、もしも…』


 『真壁さぁぁぁぁぁん!!!!!!!』


 耳元から大声で聞こえてきて、思わずスマホを耳から遠ざけると、職員がスマホを受け取りスピーカーフォン状態に切り替えた。


 『生きていたんですねぇぇぇ……よかったぁぁぁぁ』


 『あ、はい。普通に生きてます』


 『なんでそんなにふつうなんですかぁぁぁ』


 それから榊と話をするに連れてようやく落ち着いてきたのか、ようやく会話として成立するようになった。


 『取り乱してすいませんでした。あの動画は勿論見てまして、それで最後のいい所で動画は中断したから、真壁さんが本当に生存していたのか、俺は本当に心配していて…』


 『大げさな…ってわけでもないか。俺も正直いってよく生きてたな、って思いますし。八咫烏の3人や……その、桐野さんが居なければ恐らく死んでたでしょう』


 『ほんと、あの人たち現場に居なかったら今頃、日本は緊急事態宣言が発令されたとこですよ。もっと多くの被害あったんだろうなぁ』


 『……そうですね』


 『さっきも管理局から連絡来たときは正直、嘘? って思いましたよ。いや真壁さんが生きてるってのは信じてたんですけど、ネットの情報が混乱してて、真壁さん死亡説も結構なレベルで信ぴょう性ありましたし。こうして本人と通話出来て、ようやく真壁さん生きてるんだなって思ったくらいです』


 『……死亡説??』


 『あれ? 知らないんですか?? Z界隈のSNS系は勿論、報道まで生死不明って出てたわけですし、一般の人はそこで死亡説に信ぴょう性が生まれたくらいですから』


 俺は管理局職員に目を向けると、露骨に目を逸らされる。


 『……なるほど。まぁ俺がちゃんと生存しているってあの時出てたら、それはそれで不利なことになってたでしょうし、それはまぁ仕方のないっていうか』


 『いやでも俺はこうやって直接真壁さんに連絡もらったから、こうして安心してますけど、世間一般の人は真壁さんが生きているっていうことを本人の口から聞いて、安心したいでしょうね』


 『そんなに俺の生死が世間は気になるんですかね』


 『そりゃそうですよ! 真壁さん、いま何て呼ばれてるか知ってますか?? ダン博の英雄、真壁遼ですよ!! 八咫烏の3人や桐野さんも同じく英雄として言われてますけど、その中で戦闘力を持たない鑑定士が、ダンジョンコアを命がけで止めたんですから! これを奇跡と言わずして、何を奇跡っていうんですか!! 真壁さんはこの奇跡を起こした張本人なんですよ!! もっと自覚してください!」


 周囲にいる管理局職員や護衛も、まるで合わせるかのように頷いた。


 『そう、なんですね。なんか榊さんの口から聞いてようやく実感したっていうか…』


 『そういうところが真壁さんらしいっていうか…』


 そして榊とは同じ調子で通話を続け、そして終了した。


 「ありがとうございます。なんかようやく自分が居た元の場所に戻れた気分です」


 「それは大変よかったです」


 そこで俺は少し考え込む。

 榊が言ったように、恐らく俺の認識と、世間の認識は違っていて、このダン博事件も違った視点で捉えて、そしてその結果も違って捉えている。


 鈍感な俺でもここまでされれば、自分がどのような立ち位置に居るかくらいは理解できる。

 そして、このダン博事件についても、当事者としてちゃんと幕を下ろさなければならない、そういう義務があるということも。


 「よし」


 俺の言葉に管理局職員が反応する。


 「どうかされましたか?」


 「あの、このあと1時間でもいいので、配信できないでしょうか」


 「え? 配信、ですか??」


 「はい、配信です」


 管理局職員は困惑した顔で、隣にいる職員に向けて視線を送る。


 「え、と。その配信ってのは今日のこと、ですか??」


 「まだ夕方ですし、このあと1時間だけでもいいので品川第七ふ頭ダンジョンのB1Fとかで、近況を伝えたいんです」


 俺の言葉に管理局職員は明らかな動揺を見せる。


 「い、いや、その真壁さん? 先ほどスケジュールの確認しましたよね? 予定では1週間後にテストを兼ねた配信を…」


 「それじゃ遅すぎると思います。榊さんと話して俺は大きな思い違いをしていたことを理解しました」


 「大きな思い違い?」


 「そうです。俺はダン博で起こったことが終わった、そう思ってました。だけど世間ではまだ終わってないんです。先の見えない後処理、犠牲になった方々、現場で今も頑張って復旧に尽力している方々、そういった人に俺はまだ、何も終わりを伝えていない」


 「終わり、ですか」


 「はい。まだ終わってないんです。ですけど、終わりの第一歩を俺はまだ示していない。これは…俺の義務だと思ってます。あのダン博事件で、俺はまだ何も示せていない」


 管理局職員は黙り込む。


 「ダン博の英雄? 鼻で笑ってしまいます。何が英雄だと。比較するところが間違っています。何と比較するのか、世間はみんな間違ってます。だから、俺が配信してそして終わりの第一歩を示すことが本当の意味で終わりの始まり、そうだと思ってます」


 俺の言葉に場は静まる。

 だが、不意にその静寂を破るものが現れた。


 「ははははっ! 英雄さまがこう言ってるんです。管理局職員がやることはきまっているでしょう?」


 俺の後ろで護衛をしている男が急に口を挟んだ。


 「……おい、お前ら。しっかりしろよ。何のためにそこにいるんだ? 真壁さんの言う通りだろうが。なにも終わってないんだよ。だから結末の道標をしめすって真壁さんが言ってんだろうが。この役目は1人を除いて、誰にでも出来ないことだろ。この国のトップでもできねぇ、そんなことだろうがよ」


 管理局職員は護衛を見て、そして一息ついた。


 「そう、ですね。その通りです。私たちは私たちの出来ることやる、そのためにここにいます」


 管理局職員は隣の職員に頷いた。


 「真壁さん、少しだけお時間下さい」


 「ありがとうございます。あ、でも、無理そうなら明日でも…」


 意を決したかのような顔つきで、管理局職員は俺を見つめた。


 「いえ、今から準備をすすめます。もしかすると深夜になるかもですが、それは大丈夫ですか?」


 「はい、それは勿論。そもそもですが、この配信は深夜からやってましたし」


 俺の言葉に笑みを浮かべた管理局職員は足早に立ち去った。


 「やっぱり、あんたはダン博の英雄だよ」


 「その、ダン博の英雄は…なんか恥ずかしいです」


 こうして俺の緊急配信を、関係者の阿鼻叫喚とともに実施することになった。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ