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探索者クランが、俺に頭を下げに来た

 朝、スマホを確認すると精製業者から通知が来ていた。


 『灰毒蜥蜴の爪・精製完了のお知らせです。受け取り可能になりましたのでご来店ください。買い取り金額は27,500円となります』


 数日前に精製業者に預けた魔獣の爪だ。

 鑑定では3万前後と出ていたので、若干の下振れだが想定の範囲内だった。

 配信で「たぶん3万前後になります」と言った手前、結果を報告しないといけない。


 それより今日、別の用事がある。


 クラン《灰鉄の牙》への返信を、昨夜ようやく送った。


 「お話は聞きます。場所と時間を指定していただければ」


 一行だけ。

 相手がどういう意図で接触してきたのか、まだ分からない。

 乗り気なわけでもないが、無視するほど慎重な理由もない。

 とりあえず話を聞いてみる。それだけだ。



   ◇



 指定された場所は、品川駅近くのビルの一室だった。

 クランの事務所らしく、入口にロゴが入ったプレートが貼ってある。

 フードは被ったまま入った。

 受付の女性が少し目を丸くしたが、特に何も言わなかった。


 通されたのは小さな会議室だ。

 テーブルを挟んで待っていたのは、三十代半ばくらいの男だった。

 背が高く、落ち着いた印象がある。

 スーツではなく、動きやすそうな探索者向けのジャケットを着ていた。


 「回収屋さん、お時間いただきありがとうございます。《灰鉄の牙》で渉外を担当しております、鷹坂と申します」


 「真壁です」


 思わず本名を言ってしまって、少し後悔した。

 だが鷹坂は特に反応せず、「よろしくお願いします」と頭を下げた。


 「今日お願いしたいのは、装備品の簡易査定です」


 単刀直入だった。


 「先日の配信を拝見して、鑑定スキルの精度に興味を持ちました。実は弊クランで先月、複数の装備品を業者から一括購入したのですが……どうも一部に不具合があるようで」


 「不具合、ですか」


 「使用した団員から、調子が悪いという報告が複数来ています。ただ、外見上は問題ないように見えるので、通常の査定では引っかからない。鑑定スキルがあれば分かるかもしれないと思って」


 俺は少し考えた。


 依頼の内容は分かる。

 断る理由も特にない。

 ただ、一つだけ確認しておきたいことがあった。


 「鑑定結果はそのまま伝えます。都合の悪いことが出ても、結果を変えるつもりはありません」


 「それでお願いしたいんです」


 鷹坂は迷わず答えた。その返し方が、思ったより誠実だった。



   ◇



 テーブルに装備品が三点並べられた。


 軽装向けの短剣。腕輪。小型の護符。

 どれも見た目は綺麗で、高級品の雰囲気がある。外見だけなら、問題があるようには見えない。


 「三点、鑑定してみます」


 まず短剣に視線を向ける。


 ――――――――――――――――――――

 魔鋼短剣・軽量型

 希少度:B

 現在価値:高

 状態:良好

 備考:特記事項なし

 ――――――――――――――――――――


 「短剣は問題ないです。品質も良好、特記事項なし」


 次に腕輪。


 ――――――――――――――――――――

 魔力補助腕輪・二重刻印型

 希少度:B

 現在価値:中

 状態:良好

 備考:特記事項なし

 ――――――――――――――――――――


 「腕輪も問題なし」


 最後に護符。


 手に取った瞬間、表示が出るより先に、わずかな違和感があった。

 重さが、均一じゃない気がする。


 ――――――――――――――――――――

 封護符・術式刻印型(術式汚染)

 希少度:B

 現在価値:低

 状態:要注意

 備考:刻印の一部に異質な術式が混入している

 長期使用により所持者の魔力循環に干渉する恐れあり

 推奨:即時使用停止 / 専門機関への提出

 ――――――――――――――――――――


 俺は護符を静かにテーブルに置いた。


 「これは使用を止めた方がいいです」


 鷹坂の表情が、わずかに変わった。


 「……どういうことでしょうか」


 「刻印に異質な術式が混入しています。長期使用すると、持ち主の魔力循環に干渉するかもしれないと出ています。調子が悪いと報告してきた団員の方、この護符を使っていましたか」


 鷹坂はしばらく黙っていた。何かを確認するようにスマホを操作して、顔を上げた。


 「……三名です。全員、このロットの護符を使用しています」


 「早めに専門機関に持ち込んだ方がいいと思います」


 「分かりました」


 静かな声だったが、目が険しくなっていた。

 購入元の業者への怒りなのか、自分たちの確認不足への苛立ちなのか、おそらく両方だろうと思った。


 「真壁さん、正直に言っていただいてありがとうございます。これがただの不具合で済まなかった可能性もある」


 「見えたことを伝えただけです」


 「それが難しいんですよ、普通は」


 鷹坂は小さく息をついて、封筒をテーブルに置いた。


 「査定料です。金額は5万円。こちらの落ち度を考えると、安すぎるとは思っていますが、まず今日のお礼として」


 「受け取ります」


 迷わず答えた。

 仕事をしたなら、対価は受け取る。

 それだけの話だ。



   ◇



 帰り際、鷹坂が立ち上がりながら言った。


 「真壁さん、またお願いできますか。弊クランでは今後も装備品の調達が続きますし、今日みたいなことが起きないとも限らない。定期的に見ていただける方がいると、非常に助かります」


 「内容によりますが、断らないつもりです」


 「それで十分です」


 握手をして、会議室を出た。


 エレベーターを待ちながら、今日あったことを整理する。

 外部からの仕事が一つ生まれた。

 配信じゃない、直接の依頼だ。

 金額も査定一回で5万円。悪くない。


 ただ、今日の護符の件は少し引っかかっていた。


 あれは本当に業者側の見落としだったのか。

 それとも、意図的に混入させた術式だったのか。

 鑑定では「混入」とだけ出て、経緯までは分からない。


 深く考えすぎかもしれない。

 でも、同じことが上層の回収品に紛れ込んでいたら、もっと広い範囲に影響が出ていた可能性もある。


 そのことは、報告した方がいいかもしれなかった。



   ◇



 精製業者に寄って、爪の代金を受け取った。27,500円。配信で「3万前後」と言っていた数字に近い。


 次は魔核石の欠片と魔核晶の処理だ。

 業者に連絡を入れると、『欠片の再圧縮は三日ほどかかります』と言われた。

 魔核晶の方は専門オークションへの出品を勧められたが、手数料や日程を確認してから判断することにした。


 「今週中には動きが出るな」


 独り言を言いながら、帰路についた。


 今日だけで、査定料5万円と精製代金27,500円が手に入った。

 配信を一本も回さない日に、だ。


 それがじわりと、現実感を持って響いた。


 俺は「回収屋」という名前で配信をしている。

 でも気がつけば、配信の外でも動いている。

 ダンジョンで拾って売るだけじゃなく、クランの依頼に応じて、装備の問題を見つけている。


 どこに向かっているのか、まだ全部は見えていない。


 ただ、会社をクビになった一か月前の自分には、今日みたいな一日は想像もできなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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