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会社をクビになった俺、深夜ダンジョンでゴミ拾いしてたら【鑑定】が覚醒して配信界のトップになった  作者: 小狐


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6万円のハズレドロップ

 翌日の午前中、俺は品川駅近くの魔導品専門店の前に立っていた。


 昨夜の配信で発見した魔封袋を、ポケットから取り出す。

 くたびれた布の質感は相変わらずで、見た目だけなら捨てるのに一秒もかからない代物だ。


 「これの買い取りをお願いしたいんですが」


 「……少々お待ちください」


 受付のスタッフが袋を受け取り、奥の検品スペースへ消えた。

 しばらく待っていると、今度は別の人間が出てきた。

 この業界長そうな雰囲気をもった年配の女性で、眼鏡の奥の目がやけに鋭い。


 「お客様、これ、どちらで?」


 「ダンジョンの回収品です」


 「魔力遮断の構造が全部生きてますね。使用済みでここまで状態のいいものは珍しいですよ」


 「そうなんですか」


 「6万2千円でよろしいですか」


 俺は平静を保ったまま頷いた。


 6万2千円。

 昨夜のライブで『5万から8万』と言った。その通りになった。



 ◇



 店を出て、振り込みの通知を確認しながら駅へ向かった。


 鑑定スキルの精度は本物だということは最初から分かっていた。

 だが、他人が実際に値段をつけてくれて初めて、『本当に使える』という確信が骨まで染みる感じがある。


 査定したあの目が利く女性が「珍しい」と言ったということは、あの袋を見つけて価値を判断できた人間が、俺以外にほとんどいなかったということだ。


 昨夜の配信で俺がやったことは、ただそれをリアルタイムで見せただけに過ぎない。

 それだけで38人が見ていた。


 「続ける理由は十分だな」


 独り言を呟いてから、今夜の配信の段取りを考え始めた。



 ◇



 夜の11時半、配信ボタンを押す前にアプリを確認した。


 登録者数が24から31に増えている。

 昨夜の配信が終わってからも、誰かが見に来て登録していったらしい。

 たった7人だが、されど7人だ。

 この積み重ねが今の俺にとっては、とても大事なことである


 タイトルは【深夜ダンジョン回収屋 2回目】にした。

 捻りもないが、俺のキャラにも合うし、何よりも正直な方が性に合ってるような気がする。


 配信ボタンを押した。


 視聴者数:3。


 「……来てる」


 思わず声が出た。

 昨夜と全然違う。最初から視聴者がいる。


 『来たー』

 『昨日の人だ』

 『魔封袋どうだったの?』


 「ちょうどさっき結果が出ました。6万2千円でした」


 『マジか』

 『言った通りになったじゃん』

 『鑑定つよ』


 「本当になりました。俺も少し驚きました」


 正直に言うと、コメントが笑いで返ってきた。

 そして視聴者数が7人、10人と増えていく。

 昨夜より立ち上がりが明らかに早い。


 搬入口をくぐりながら、今夜の方針を決めた。

 できるだけ多くのものを鑑定して、結果は全部しゃべる。

 面白い発見があれば当然として、何もないときも正直に言う。

 盛らない、誤魔化さない。それだけでいい。



 ◇



 今夜のダンジョンは昨日より散らかっていた。


 どこかのクランが訓練でも入っていたのか、使い捨ての消耗品やハズレのドロップ品が通路のあちこちに放置されている。

 探索者たちにとっては本当に価値のないもの、持ち帰る手間をかけたくないものばかりだ。


 だが、俺の目には違う景色が見える。


 まず目についたのは、通路の脇にまとめて捨てられていた爪のようなドロップ品だった。

 色は茶色に変色していて、見た目は完全に劣化品。

 大きさがまちまちで、8本くらいある。

 普通の探索者なら一瞥して通り過ぎる品だ。


 「これ、魔獣の爪のドロップ品ですね。劣化してるから捨てられたんだと思いますが……」


 一本ずつ【鑑定】を向けていく。


 ――――――――――――――――――――

 魔獣爪・劣化品(灰毒蜥蜴)

 現在価値:極低

 備考:毒腺組織が変性、通常用途では使用不可

 ただし変性毒素は精製により結晶化可能

 精製後用途:麻痺付与薬の基礎材料

 推奨:精製業者、または錬金術師ギルドへ

 ――――――――――――――――――――


 「……あ、これ面白いかもしれないです」


 胸ポケットの画面にちらと視線を落とすと、視聴者数が24人まで増えていた。

 コメントの流れもさっきより少し早い。


 画面から目を戻して、手のひらの爪に視線を落とす。

 せっかくなら、ちゃんと説明したほうがいい。


 「劣化してるから普通なら価値ゼロなんですけど、毒素が変性してることが逆に使えるらしくて。精製すると麻痺付与薬の素材になるって出てます。これを8本まとめて持っていけば……」


 頭の中でざっくり計算する。


 「たぶん3万前後にはなると思います。一本一本はゴミ扱いされてたやつが、ですよ」


 『え待って』

 『全部捨てられてたやつじゃん』

 『拾ってるとこからずっと見てたけどそういうことか』

 『鑑定の使い方がうまい』


 視聴者が35人、40人と増えていく。


 俺は爪を1本ずつ布に包んで、ポケットへ入れた。

 見た目はどこからどう見てもゴミだ。

 だが俺の手の中では、計算のできる素材に変わっている。



 ◇



 それからさらに30分ほど、いくつかの発見と空振りを繰り返した。


 価値ゼロのものが出るたびに「これはゴミです」と言い、視聴者が「正直すぎる」と笑う。

 価値があるものが出ると視聴者が反応して、俺も声が少し弾む。

 そのリズムが思っていたより心地よくて、一時間が経つのが早かった。


 配信を締めたのは午前一時を過ぎたころだ。


 「今日はここまでにします。ありがとうございました」


 コメントが流れてくる。


 『お疲れ様』

 『また来ます』

 『爪の結果楽しみにしてる』

 『登録したわ』


 配信を閉じて、数字を確認した。

 ピーク時で124人。

 登録者は今見ると107人になっている。

 昨夜の24人から、一晩で四倍以上だ。


 「……早いな」


 スマホをしまいながら、ダンジョンの外へ出る。

 夜風が冷たかった。


 そのとき、通知が一件来た。

 榊からではなく、見覚えのないアカウント名だった。


 『回収屋さん、少しよろしいですか。探索系の配信をやっている者なんですが、鑑定スキルをどこで身につけたのか気になっていて』


 俺は少し考えてから、返信せずに画面を閉じた。


 誰かは分からない。

 良い方向に転ぶのか、面倒なことになるのか。


 まあ、どちらでもいい。

 今は爪を精製業者に持ち込む段取りを考える方が先だった。


読んでいただきありがとうございます。

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