中層の扉の前で、鑑定が止まった
榊からのメッセージに、翌朝返事を出した。
「情報提供は構いません。ただし条件が二つあります。一つ、記事や動画に俺のチャンネル名を必ず明記すること。二つ、公開前に内容の確認をさせてください」
三十分後に返信が来た。
「両方了解です。ありがとうございます。助かります」
思ったより早かった。
榊が本気で動いているのが伝わった。
◇
昼過ぎ、管理局の窓口に向かった。
担当者は三十代くらいの女性で、「浅田と申します」と名刺を渡してきた。
はっきりした話し方をする人だった。
「鑑定提供者として正式にご登録いただきます。有事の際に現地確認や資料提供をお願いする可能性があります」
「断ることはできますか」
「できます。強制ではありません」
「分かりました」
書面に署名した。
特別な待遇があるわけではないが、「正式に関わる人間」になった感じがした。
浅田が書類を整理しながら、少し声のトーンを変えて言った。
「呪詛護符の件ですが、現時点で管理局が確認した設置物は計5点になっています。B5Fだけじゃない可能性があります。お気をつけください」
「他の階でも?」
「詳細は言えませんが、注意していただければ」
情報の出し方が上手い人だ、と思った。
◇
夜、十回目の配信を始めた。
登録者は3,610人になっていた。
今夜はB5Fの奥まで進むつもりだった。
前回は呪詛護符を見つけて引き返したが、その先に何があるかまだ確認できていない。
「今日はB5Fの奥まで行ってみます。中層との境界付近です」
『おっ』
『境界まで行くの?』
『中層に入る気?』
「境界を確認するだけです。中層には許可なしには入れないので」
進みながら鑑定していく。
B5Fの奥は通路が細くなり、照明も少ない。
探索者の痕跡もほとんどない。
四十分ほど進んだところで、通路の突き当たりに重い扉が見えた。
鉄製で、サイズが大きい。
扉の横に板が取り付けてある。
「ここが層間境界ですね。扉と、警告板があります」
コメントが流れた。
『リアルで見るのか』
『中層ってここから?』
『怖い感じする』
扉の横に小型の受付端末がある。
本来ここに層間通行証をかざすと魔力施錠が解除される仕組みのはずだ。
端末に【鑑定】を向けた。
――――――――――――――――――――
層間通行証認証端末
設置年:8年前
現在状態:異常あり
備考:通行証の認証機能が無効化されている
現時点では通行証なしで誰でも扉を通過できる状態
正常時は有効な通行証をかざさない限り扉は開かない
推奨:即時管理局への報告
――――――――――――――――――――
俺は鑑定結果を三回読んだ。
「……認証端末が、無効化されてます」
コメントが一瞬止まった。
「本来ここは層間通行証っていうキーをかざさないと入れない仕組みなんですが、その認証機能が今は動いていない。キーを持っていない人でも扉を開けられる状態です」
『え』
『それって誰でも中層入れるってこと?』
『やば』
『いや入っちゃダメでしょ笑』
「入りません。これは管理局に報告する案件です」
『正解』
『でもこれ普通の探索者が知ったら入ろうとするやろ』
『回収屋さんが見つけてよかった』
扉に触れず、その場から離れた。
「今日はここまでです。この件は配信後に管理局に連絡します」
◇
配信を閉じたときの視聴者数は4,200人を超えていた。
境界の封鎖機構が失効しているという情報は、想定より広がった。
配信のクリップがSNSに出回って、『回収屋が中層の扉を発見』という形で拡散されていた。
管理局の浅田に報告の連絡を入れると、「確認します、ありがとうございます」という短い返信がすぐ来た。
スマホをポケットに入れながら、SNSを少し眺めた。
正体特定スレが更新されていた。
新しい書き込みがある。
『回収屋、管理局の非公式の協力者なんじゃないか。動くタイミングと管理局の動きが合いすぎてる』
外れてはいない。
でも正解でもない。
俺は『回収屋』のまま、どこにも属していない。
読んでいただきありがとうございます。
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