鑑定結果が、業者を追い詰めた
鷹坂からの連絡に返事を出したのは翌日の朝だった。
『都合のいい日を教えてください』
一時間も経たずに返信が来た。
『明後日の午前中はいかがでしょうか』
速い。
前回より対応が丁寧で、急いでいる気配もある。
◇
指定されたのは今度も品川のビルだったが、前回の会議室より広い部屋だった。
テーブルの上に、護符が並んでいた。
10点以上ある。
「先日の件で、購入元の業者に問い合わせました」
と鷹坂が言った。
「業者側は最初、製造上の問題ではないと主張したんですが、うちがロットのリストを出したら態度が変わって。一旦、手持ちの在庫を全部引き上げることになりました」
「それが、これですか」
「12点あります。全部、同じ仕入れルートの護符です。一点一点見ていただけますか」
俺は頷いた。
最初の一点を手に取る。
――――――――――――――――――――
封護符・術式刻印型
希少度:B
現在価値:高
状態:良好
備考:特記事項なし
――――――――――――――――――――
「これは問題なし」
二点目。
異常なし。
三点目も。
四点目を手に取った瞬間、表示が変わった。
――――――――――――――――――――
封護符・術式刻印型(術式汚染)
希少度:B
現在価値:低
状態:要注意
備考:前回検出と同系統の術式混入を確認
汚染パターンが類似しており、同一の工程または素材由来の可能性あり
推奨:即時使用停止 / 専門機関への提出
――――――――――――――――――――
「これも出ました」
鷹坂の表情が、わずかに固くなった。
「同じ種類ですか」
「同系統、と出ています。偶然似たというより、同じところから来た感じの出方です」
次々と確認していく。
12点のうち、汚染があったのは4点だった。
「四点」と鷹坂は繰り返した。
「しかも同系統。一点だけなら見落としかもしれないですが、これだけ出ると……」
俺は少し迷ってから、思ったことを言った。
「意図的かどうかまでは鑑定では分かりません。ただ、バラバラに混入したにしては、パターンが揃いすぎている気がします」
鷹坂は黙って、スマホに何かを書き込んでいた。
「分かりました。この結果を文書でいただけますか。業者への対応に使います」
「構いません」
「真壁さん、正直にありがとうございます。報酬は前回と同じ5万円で。量が多いので、本来はもっとお支払いすべきなんですが」
「内容が分かって動けるなら、それで十分です」
◇
ビルを出て、少し歩いたところで、スマホに通知が来た。
送信者は「品川第七ふ頭ダンジョン管理局」だった。
「先日ご提出いただいた記録図について、内容を確認しました。一部の区画が未登録のルートに対応しており、資料として保存させていただきます。謝礼として20,000円をお振り込みしました」
さらに一行。
「貴重な資料でした。ありがとうございます」
俺はしばらく立ったまま通知を眺めた。
地図を見つけたのはあの日、配信中に壁の隅に引っかかっていたやつだ。
「ゴミかな」と言いながら拾った。
ゴミじゃなかった。
◇
夜、六回目の配信を始めた。
登録者数は2,180人になっていた。
「今日、配信の外で二つ動きがあったので報告します」
コメントがすぐ反応した。
『おっ』
『何があったの』
『管理局の地図の件?』
「一つは、以前から少し触れてた装備の問題の件です。名前は出せないですが、某クランから依頼があって、問題があると疑われていた護符を12点まとめて鑑定してきました。4点に汚染が出ました。しかも同じパターンで」
『え』
『4点も』
『それ偶然じゃないよな』
「偶然かどうかは俺には判断できません。ただ、見えたことは伝えました。あとは依頼主が動く話です」
『そういうとこ仕事人っぽい』
『回収屋さんの仕事はそこまでだもんな』
「もう一つは、管理局の件です。地図の謝礼が来ました。2万円」
『おお』
『ちゃんと認められた』
『あのとき拾った判断が正解だったじゃん』
「結果的には。拾った時点では分かってなかったです」
配信しながら、今夜はB3Fを進む。
通常の上層エリアだが、久しぶりに入る区画は見落としが出やすい。
視聴者も「何か出るかな」とコメントで期待している。
1時間ほど進んで、小さな成果がいくつかあった。
魔石の残骸、補修途中で放棄された装備品。まとめれば数千円にはなる。
「今日はこれくらいですかね」
配信を閉じる前に視聴者数を確認した。ピークは2,640人だった。
◇
帰り道、鷹坂から短いメッセージが来た。
「本日の査定結果を踏まえて、クランの上層部が真壁さんに直接お会いしたいと言っています。よろしければ日程を調整させてください」
「クランの上層部」。
鷹坂が窓口になっていた間は、外からの仕事という感覚で収まっていた。
でも上層部が出てくるなら、話が一段階変わる。
悪いことだとは思わない。ただ、何を求めてくるかは、まだ見えていない。
返信は、明日考えることにした。
読んでいただきありがとうございます。
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