表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/8

愛を、愛を……この不幸なる幼子に愛の手を


 ティファのプロフィール説明欄にはこう書かれていた。


 〖ゲーム『アルティミス・オーブ』の主人公。ティファニー・オーブ・アルティシア。

 アルティミス皇国の《《属国》》オーブ王国の第一王子(女の子)。


 オーブ王国内起きた不自然な大飢饉により、アルティミス皇国がオーブ王国に対して食料支援を引き換えに、ティファニー王子を人質にされ、天涯孤独の身で幼少期はアルティミス皇国内でしいたげられながら過ごすことになる。


 ティファニーのアルティミス皇国での暮らしは、虐待の日々であった。皇族、貴族、果ては国民からも罵声や虐待を受け続ける。その中でも、悪辣で有名な第二皇子ヨル・レーヴァトス・トルバトスには執拗しつよういじめられ続けた。


 …………これが、ゲームでの主人公………ティファニーの《《記録》》だった。


 

 それなら、ゲームではない。現実のティファニーの…………純粋無垢な小さい幼子の《《記憶》》で見たらどうなるだろうか?


 シロンによって、意図的に見せられたティファニーが生身で体験した心が傷つけられる記憶を――――



「かぁさま……やだぁ!!」


「王よ!ティファニーはまだ、幼子です!どうかご慈悲をっ!」


「王の子供など、政略の道具のために産んだようなものではないか。ましてや、男の子でもない、偽りの王子などいらんわ。子供など、また産めばよいしな。その交渉材料《ティファニー王子》を連れていけっ!」


「「「はっ!」」」


「かぁさまぁ!?……やぁっ!!かぁさまぁ!?たすけてぇ!!」


「ティファニー待ってっ!私の子供を返して!ティファニー!ティファニー!!……あぁぁああ!!王よ!貴方は悪魔です!!年端もいかない……幼子を……自分の子供を政治の道具に使うなど!!最低の王です!!」


「……ふんっ!これで、国の大飢饉が救われるならば安いものだろう。まぁ、それでティファニーがどうなろうと知ったことではないからな。フハハハ!!」


「つっ!……ティファニーを……私の娘を返して下さい!!王よっ!」


「……もう遅いわ。どうせ、あの偽りの王子は、アルティミス皇国で非情な扱いを受けて死ぬのだからな」


「……そんな……私のティファニー」


「うえぇええん!!ぉがぁざまぁ!!ダズゲディェェ!!」


 邪悪に笑い、娘を犠牲にして自国の危機が過ぎ去るのを喜ぶオーブ王国の王。


 連れていかれる大切な娘を見つめながら、茫然ぼうぜんとする娘の母。


 唯一心を許し、甘えていた母から遠ざけられ。無力に泣き叫びながら母へと助けを求める王子の役を押し付けられた、可哀想な幼い女の子。



 ……………………ティファのオーブ王国での記憶だ。


 けして他人《俺》が見てはいけない記憶。ティファが見てほしくない記憶だろう。


 それを無理矢理とはいえ見せられてしまった。見てしまったんだ。俺は……これから、あの娘とどうすればいいんだ?


 どう向き合えばいいんだろうか?こんな過去を持つあの娘。無防備で非力な女の子であるティファを遠ざけて、破滅回避をしようなんて考えられるのだろうか?


◇◇◇


《最難関迷宮『ディープホール』》


「ヨル君!……ヨル君」


「……………………涙」


 を流していた暗い場所で。倒れ込んで涙を流していたようだ。


 そして、俺を心配そうに見つめるティファニー…………泣きじゃくっている。さっきまで見ていたこのティファニーの記憶の時のように。


 あぁ、この顔。前世の彼女と同じだ。俺を心の底から心配する時の顔。


「ティファ……」


「ヨル君っ!」


「悪い……全部誤解していたんだ」


「?……ヨル君?」


「今までの俺は……君を……ティファニーを記録データとしか思ってなかった。だけど違ったんだ」


 そう違った。全て違った。


「………ティファ。むずかぃはなしぃわかんなぃ」


「……だよな」


 当たり前だ。分かるはずがない。ティファニー・オーブ・アルティシアは、まだ4才。


 自身で善悪も考えることがままなならない幼子じゃないか。そんな娘に世界は試練を与えている。


 なんで誰も守ってあげないんだ?


「ヨル君……なぃてるぅのぉ?」


「あぁ、泣いているよ。世界が残酷過ぎて泣いてる……破滅回避とか、宿敵とか……馬鹿らしくなるくらい可笑しくて、くだらないこの理不尽な世界に泣いてる」


 この娘は、これからも酷い人生を送っていくんだろう。そんなこの娘の人生を俺は知っている。この娘にとって、一番の障害になることも。


 そして、この娘はそれに耐えて、少しずつゆがんで成長していくんだろう。この先がバットエンドになることを知らずに進んで行くんだ。


 それを俺は知っている。


「………ヨル君?」


「…………………」


 ならどうする?この世界の役に徹すればいいだろうか?憎たらしい悪役皇子を演じて、この娘に殺されればいいだろうか?


 それとも、今、この娘を置いていこうか。身をくらまして、知らない土地で寿命まで静かに暮らせばいい。そして、安らかに死ぬか?


 ……………どちらも違うだろう。


 そうじゃない。そうじゃないだろう……俺はティファニーのゲームの記録じゃない。


 この娘の記憶を……悲しい記憶を知ったんだ。そして、今後、彼女に起きる悲惨な未来も知っている。


 なら、救ってあげなければいけないんじゃないのか?……生前に人を救っていたように。


 人生の最後、彼女を救うことができたように。


 このティファニーを救おう。俺よ……俺が悪役だろうと救ってあげよう。


 それが真良義しんらぎよるの人生だったのだから。


「ヨル君?だぃじょぅぶぅ?」


「あぁ、大丈夫だよ。ティファ」


 ティファの喋り方がつたなかったのも、この娘の記憶を知ってようやく分かった。オーブ王国の王から虐待されていたからだ。


 栄養価の低い食事の日々、不衛生な生活環境で、何度も病気になり死の淵をさ迷っていた。


 普通の子供よりも脳や身体の発達が遅れてしまっていたんだ。王子という役をやらせていたくせに、ティファの父親たる王は、自身の子供に十分な教育をほどこさなかった。


「…………これからは良い人生にしよう。ティファ、俺も君も」


「?……わがぁった」


 つたない返事。それも仕方ない、まともな教育を受けてないんだから、喋る相手だった……ティファを愛してくれていた母親とも離ればなれにされたのなら仕方ない。


 だが、これからは俺がいる。


【話は終わりか?侵入者共……終わったのなら、我に殺されよ】


「ひぅ!?……だれぇ?こわぃ」


 暗闇から、薄汚れた黒いフードを被った骸骨が姿を現した。両手に大鎌とは、正体の推測が分かりやすい奴だな。


 今、俺達がいる場所は、この世界でもっとも危険な最難関迷宮『ディープホール』。その地下10階のステージボスか……


「大鎌の死神……ゼロ・ブレインズ」


【ほう。我の名を知るか。ならば即刻死ぬといい。〈『死神舞踏サン・サークス


 死神が大鎌を振り下ろした瞬間。俺の右腕が宙を舞った。


 切られたみたいだ。一瞬だけ激痛が走る。左腕は、今、現時点で起きている光景をティファに見せないように……この娘にこれ以上悲しい思いや怖い思いをさせないように、彼女の両目を隠すために使っている。


「ヨル君んぅ」


「大丈夫……左腕の痛みより。今は、心の痛みの方があるから……大丈夫。それに……〈ゼンオール・ヒーリング〉……と、〈修羅の太刀〉」


【……なんだ。その異様な回復魔法は?貴様。なにをして……る?】


 今、俺は右手に大鎌を持ってたたずんでいる。


 死神から密かに奪った大鎌で、 死神の頭の中心点から大鎌を振り下ろして真っ二つに切り裂いた。


 一瞬の出来事だったため、消滅の間際の死神も驚愕の表情を浮かべている。


【はぁぇ?……なぜ、我が切られ………小僧っ!!きさ……ま……】


 数回、大鎌振り下ろして死神を完全に倒す。右腕も、さっき発動した回復魔法によりくっ付いている。


〖『ディープホール』地上から地下10階の支配者が消滅。『ディープホール』の開閉の権利と地下10階までの支配権利は勝利者に受け継がれました〗


 迷宮内が明るくなり、アナウンスが聞こえてきた。ゲームシステムかなにかだろうか。


「………静かになった」


「……なったぁのぉ?」


「あぁ……ティファ」


「あぃ?」


 俺は優しい声で、この世界の主人公……これから酷い人生を送るかもしれない女の子に話かける。


「ここから、始めよう」


「はじめるぅ?」


「うん。ここからだ。俺達の良い人生は……ここから、俺と君の破滅回避をリスタートさせよう」


「……?ヨル君?」


 俺の言っていることが分かってないみたいだ。それも仕方ない。彼女は転生者でもなんでもないか弱い女の子なんだから。


「君は俺が守るよ……だって俺は、君の過去を知ってしまった罪人だもの。君を幸せに導く。それが悪役の第二皇子だとしてもね」


 俺は優しく微笑み。彼女ティファの両手を握りしめて、そう誓った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ