お師匠選び……紫電のライラック
最近は、夜な夜な会いに来て緊急報告を欠かさず報告するように師匠に言われているため、今日も会いに来たんだ。
「ヨルの師匠のシロンだ………お前」
「ぁぃ?………わたし、ティファ」
師匠とティファが見つめ合って、どちらも動かない。
……天文学的な低確率ではあるが、本当は俺よりも先に、ティファが大魔女シロンに出会っていれば師弟関係になっていたかもしれない。
もしかしたら、師弟関係になっていたかもしれないな二人だ。運命的な何かを感じあっているのかもしれないな……そして、俺はティファに対する罪悪感で冷や汗が出ている。
「シロン……は……わたしのおししょう?」
「ん~……いや、違うな。残念だが、もう遅いな……数年早ければよかったが」
「遅いの?」
「あ、あぁ、大魔女は基本的に1人の弟子しか取れない約束だからな……私はティファよりも先にヨルの師匠になってしまっているから。お前を弟子に取ることはできないんだ。すまんな」
「………ざんねん。ママシショーほしかった」
師匠……シロンにそう告げられたティファが、涙目で落ち込み始めた。くそ、自分の中の罪悪感が凄まじい。だが、俺は破滅したくない。そのためにシロンに弟子にしてもらったんだ。
「ママシショー?……なんだ。もしかして、天涯孤独なのか?お前……可哀想にな」
シロン師匠が優しげな表情で、ティファの頭に手を乗せた。優しく撫でている、師匠は子供好きだからな。自然なことか……
(オーブ王国のために人質として、アルティミス皇国に迎え。ティファニー王子)
(飢饉の代償が、あんな幼い王子1人で済むなら安いものだ)
(これで、オーブ王国も暫くは安泰か)
(…………うええぇぇんん!!ぉかぁさまぁ!!どこぉぉぉ!!)
……この記憶は!?ティファの?……シロン師匠の力か?
「…………つっ!なんていう扱いを……受けてるんだ」
「ヨル君!!だぃじょぉぶ」
俺が苦しそうに頭を抑えているのを、ティファが、心配そうに俺のことを見ている。
まずい。謝らないと……勝手にティファの記憶を見てしまったことを。
「…………良いんだ。ティファニー、これは弟子への躾だ。人の人との出会いを奪った奴へのな」
「しつ?……でもぉ。ヨル君、くるしそぉ」
「優しい女の子だな。お前は……いや、4才なんだからこれからか。お前の人生は…………少しは反省したか?馬鹿弟子」
シロン師匠に睨みつけられている。俺のなにかに気づいているのだろう。
「………はい。勝手に《《介入》》して、申し訳ありませんでした」
「分かればいいんだ。馬鹿弟子……今後は、お前がこの娘を守れよ」
「はい………はい?いやいや、なにを勝手なことを言って……痛」
「ヨル君……だぃじょぅぶ?」
「あ、あぁ……ちゃんと守るから……安心していいから……ティファのことは守る」
「ヨル君?ぁたまいたいの?」
心配そうな顔で俺を見つめるティファ……頭の中が痛い。ティファの産まれてから幼少期の記憶が勝手に流されてくる。
シロン師匠は、《《俺が転生していること》》にでも気がついたのだろうか?いや、いくらこの世界で最高峰の大魔女だろうとあり得ない。大魔女シロンが、転生前の記憶まで見れる分けないんだ。
「お前が選んだ師匠に逆らうな。……さて、弟子へのお仕置きも済んだし。ティファニー、お前は何色が1番好きなんだ?」
「ぃろぉ?」
「なんだ。色の概念も知らないのか……4才児ならば仕方ないか。少し待っていろ宝石を並べて選ばせてやる」
「……シロン?」
頭の痛みが引いていく。どうやら、俺へのお仕置きは終わったみたいだ。頭、痛かった……いや、これも俺の自業自得か。
「今、フリーなのが……紅玉、青玉、黄紫玉、白黒玉……あぁ、綠玉もあったか。ティファニーは何色が好きなんだ。指差してみろ」
「……いぉ?」
「時間をかけて選んでいいぞ。これは、私の馬鹿弟子が犯した罪の償いだからな」
「ん――――!シロン!」
「私を指差すか……もう無理だ。早い者勝ちだからな」
「…………そぅ。ざんねん」
あれは……玉の選びか?まさか、ティファに付かせる気なのか?大魔女の誰かを。
「…………シロン。こりぇ!」
「ほう。黄紫玉を選ぶか!ティファニーの性格的には、青玉か綠玉がオススメだったが。いや、案外相性は良さそうかもな。少し待っていろ。連れてくる」
「〈テレポート〉」
シロン師匠が消えた……いや、転移したのか。ティファの師匠となる人を連れてくるために。
「………ヨル君」
「ん?なんだ。ティファ」
「ぉぃしきれい!」
「石……いや、それは石じゃなくてだな。ティファ……」
ティファが、石……じゃなく黄紫玉を俺に見せてきたので、師を選ぶための選定石について説明しようとした瞬間、シロン師匠は戻って来た。雷の音と共に。
バリッ!
「痛い!!……なんなんですか。シロン先輩。いきなり私を研究室から拉致して、情勢不安定真っ只中のアルティミス皇国に連れてくるなんて。訴えますよ!」
「黙れ。暇人!なにが研究室だ。魔法研究などサボってるくせに」
「ぐぅっ!それは……そうですけど」
黒のローブを羽織って、紫を基調とした魔女服を着た……『紫電の大魔女ライラック』が現れた。
ゲーム『アルティミス・オーブ』の世界で、師匠キャラの1人だ。
「…………シロン。このひとだれぇ?」
「ん?なんですか?この可愛い女の子は?」
ティファとライラックがお互いの顔を見つめ合い、なんだコイツは?みたいな顔をしている。
「ん?あぁ、ティファニーの乳母、ライラックママだ。これから沢山甘えて、色々なことを沢山教えてもらえ」
「ほあぁぁぁ!!ティファニーのママ?」
「あぁ、ママシショーだぞ。良かったな。ティファニー……ライラックは、魔法貴族出身だからな。王族の作法にも明るい。お前の師匠にはうってつけだな」
「ママシショー!嬉しい!!」
笑うシロン師匠に、大喜びするティファ。まずい、俺を破滅させるかもしれない原作主人公に、師匠キャラとの出会いイベントをやられてしまった。こんなの、ティファの強化イベントじゃないか。
「は?ちょっ!シロン先輩。なにを勝手なこと言っちゃってるんですか!私はまだOKなんて言って………ふがぁ!?」
「いい加減サボってないで、大魔女の義務を果たして弟子をとれ。そして、天涯孤独のこの娘を立派に育てろ。魔女会の穀潰し……いいな?」
「……あぃ。全力でやらせて頂きます。ボス」
「ママシショー~!よろしゅく!」
「……よろしくお願いします。マイデシー……ガグッ」
シロン師匠にライラックが片手で持ち上げられて、そのまま失神した。なんてことだ。紫電の大魔女がティファニーの正式な師匠になるなんて。なんて日なんだ、今日の夜は……
◇◇◇
シロン師匠に報告を終え、母様達の元へと帰ってきた次の日。
「ユキナママ!リンネ!コハクちゃん!このひと、ママシショー!」
「え~と。ティファさんの乳母になりました。ライラックです。よろしくお願いします」
紫電の大魔女ライラックが仲間になった。
「まぁ、タダ働き?ラッキーね。労働力が増えたわ」
「ティファのママ!!」
「うひゃあ~!私の後輩さんですか?野生にいたんですか?ティファニー様が捕まえてきてくれたんですか〜?」
母様達はなぜか大喜びしていた。たぶん、働く人材が増えて嬉しいんだろうな。
「な、なんなんですか?この人達は?」
「………俺の家族」
「みんななかよし~!」
「は、はぁ……そうなんですね……はぁ~、なんでこんなことに……あぁ、ティファさん。髪の毛ボサボサですよ。ブラシで整えてあげます。後、ブラシの使い方も教えなくちゃですね」
「……ママシショー、ぁんがとぅ」
「はいはい……可愛らしい笑顔ですね……はぁ~」
ライラックさん。なんだかんだと言いながらも、ティファの面倒を見始めたぞ。流石、『アルティミス・オーブ』でも、最良の良識人にして、温厚篤実の人気キャラだったことはあるな。
◇
旅の仲間に大魔女ライラックを加えた俺達は、いよいよ、俺の領地となった『レーヴァトス・ホール』内へと足を踏み入れた。
アルティミス皇国の南部にあり、豊潤なる地などと呼ばれているが。危険なモンスターや現地民族が暮らしている領地のため、アルティミス皇国が完全統治できていない、殆んど未開拓の領地となっている。
皇族や貴族の間では、罪人の流刑地とも呼ばれ。この地を訪れた人達は行方不明になるとか。
「『レーヴァトス・ホール』の端に着いたけど…………ここが領地内で1番栄えている都市レーヴァトス?……村よね、これ?リンネ」
「そ、そうですね……ユキナ様」
手に持つ地図の絵と村の光景をみくらべている。母様……とりあえず。俺の領地内に入ったし。殆んど廃れてはいるが、拠点にできる村にも着いたか。ライラックさんも、魂が抜けたような顔でボーッとしているし。安全そうだな。
「ライラックさん。母様のことをよろしくお願いします。俺はちょっと村を見て回ってくるので。」
「ヨル君!わたしもぉ!……がしっ!」
……なにかに服を掴まれてしまったが。一緒には転移してないだろう。たぶん。
「〈テレポート〉」
「へぁ!?なんですか?シロン先輩のお弟子君……て、あれ?居ない?ティファさんも!?」
◇◇◇
《最難関迷宮『ディープホール』 最下層》
「ん?………何か来るね?何だろう?……わざわざ殺されに来る気かな?………この気配はシロンかな?」
「それなら、我が確かめてこよう。大鎌の死神……ゼロ・ブレインズがな」




