皇族教示
息子。アルティミス皇国の第二皇子ヨル・レーヴァトス・トルバトスが、追放されてから数時間後。私はとある人物と面会をしていた。
自室で引きこもっていた前皇帝エルヴィン……父上は、『皇帝の間』で、私……現皇帝ユリウスと面会をしていた。
「……して?父上。久しぶりに、私と面会したいとは……どうされたのですか?」
「ユリウス!貴様っ!!なぜ、わしの大切なユキナを『レーヴァトス・ホール』へと向かわせた。あれは、わしの物だ。あの世界一の美女はわしの物になるべき女なのだぞっ!……ハァ……ハァ……」
不快な者を見るような目で父上を見つめていた。あぁ、これがかつて威厳に満ち溢れていた父上の現在の姿とはな。心の内でそんなことを考える。この人はすっかり変わられてしまったようだ。
……そんな私の姿を、苛立ちながら父上は私を見つめていた。
「父上。一つ、お聞きしたいことがございます。よろしいでしょうか」
「なんだっ!それよりも、ワシの女を、早く連れ戻せっ!あの地は豊潤な地だとしても、死地なんだ……」
「なぜ、第一妃カトレアを利用して、私の息子であるヨルを殺そうと企てたのですか?」
「……な……に?なんのことだ?」
父上の身体中から大量の汗が流れ始める。本当の目的を実の息子に看破され焦り始めたのだろう。その弛みきった肉体から汗が出る。
そんな様子を冷ややかに見つめる私は、再び父上に同じ質問を投げかけた。
「知らばくれて………私の妻、ユキナを呼び出し。衛兵まで利用して、なぜ、私の息子であるヨルを殺そうとしたのです?」
「…………ユリウス。貴様が言っている意味が分からん。意味が分からん!」
「それほど、私とユキナとの子供が邪魔だったのですか?……才ある子供が憎いのですか?父上」
「…………あんな忌み子など知るか!それよりも、わしの迷惑だぞ。ユリウス!さっさと連れ戻せ!さっさと極東の姫ユキナ・クロフィールに寄越せと言っているんだ!」
ヨルは産まれた時から、才能が変わっていたのを知っている。赤子だというのに、あまり泣き叫びもせず。大図書館に引きこもって絵本などを静かに読んでいたとか。
それを臣下から聞いた私は、少し疑問に思いヨルの同行について調べさせたことがあった。
大図書館で読んでいるのは、絵本ではなく難しい歴史書や魔道書が多いと聞いた。
それを聞いて、少し驚くとともに面白いと思った。流石、ユキナの子……普通ではないんだなと。
ヨルは産まれながらに分かっていたのだ。このまま成長し、権力争いに勝っても前皇帝の操り人形……傀儡として、飼われる人生になるだけだと。産まれながらに知っていたんだろう。
「……フッ………フフフ」
「!?なにが可笑しい!!ユリウス!!気でも狂ったか?」
「あ、いえ……すみません、父上。今の状況があまりにも可笑しいものですから、笑ってしまいました」
「なんだとっ!貴様!!」
「父上は、私の大切にしている息子が恐ろしくて仕方なかったですよね。そして、ユキナも欲しかった。無理矢理にでも……貴方はずっとユキナを私から奪おうとしていましたものね。大切な僕とユキナの子を……自分の孫を殺そうとするなんて。狂いましたね。父上」
長年、父上に言いたかったことを言ってしまった。ヨルのことについて問いただしてしまった。父上の顔色を伺っていた私らしくもないな。
「ユリウスッ!貴様!!なんだ!その態度は、わしの息子のくせに生意気だぞっ!」
「…………もういいです。貴方の声も聞きたくない。衛兵!罪人をカリオスの塔へと連行しろ」
「「「はっ!」」」
「カリオスの塔だと!?ふ、ふざけるな。ユリウス!あそこは、犯罪者共が最後に行着く場所で……」
「第一妃カトレアとの毒殺事件への関与。現皇帝の第二皇子殺害の企て……他にも調べれば罪状など幾らでも出てくるのでしょう?貴方はやり過ぎました。終わりですよ……父上」
「ユリウス……そんな……わしはお前の父親なんだぞ!」
「……だからですよ。父上。自身が犯した罪とは向き合わなければなりません。私も……カトレアも」
実の父親に冷たく言い放ってしまった。これまで父上に言えなかった本音をぶちまけてしまったな。
……皇国を裏でまとめていた父上も失脚させてしまった。これからのアルティミス皇国の国内情勢は不安定化するが頑張ろう。
私はもう父上の顔色を伺う傀儡ではない。
息子のように……ヨルのように行動して現状を変えていくしかないんだ。
「ユリウス!助けろ!ユリウス!!」
「フフフ……壺を割っただけで、アルティミス皇国の長年の歪みを退かせてしまうとはね。我が子ながら、君は末恐ろしい子だよ。ヨル」
私は、遠く豊潤な南の領地へと旅立った、自慢の息子が旅しているであろう南方に向かって、そう告げた――――そして、この10年後、私は行方不明になるとは、思いもしなかった………
◇◇◇
アルティミス皇国内南部『ミッドナイト高原』。
「追えっ!追えっ!ユキナ様を捕らえろおぉ!禁則地に入られたら、手出しができなくなるぞ!」
「「「おおおぉおぉ!!」」」
「今夜も、俺達を追って来るとは、ご苦労様。〈メタファ・テレポート〉」
現在は夜。そして、俺の名前もヨルだ。
………………アルティミス皇都を出てから、早くも10日程たった。そして、アルティミス皇国内の南方の上空に浮いている。
「ユキナ様を捕らえれば、それ以外の者はなにをしてもいいそうだ!リファレンス公爵様のお墨付き……」
「な?リーグル将軍が消えた?……」
「いったいどこに!?……」
最近、自身の莫大な魔力で、自身に悪意を向けて迫ってくる人を、″大監獄カリオスの塔″に転移させるのが趣味になっている。
これも追手が多くて、ストレスが溜まっているからかもしれない。
「カリオスの塔には、嗜虐趣味の化物が沢山いるというのにな。物好きな反逆者達だな」
俺達を殺すために毎日、毎日。俺達を追いかけてやって来る。ずっと同じ場所に送り込むのも味気ないので、たまに趣向を変えて、アルティミス国内の雌しか住んでいない発情期のオークの集落や男を求めてさ迷う、大量の男好きインキュバスが住む砂漠などにも積極的に転移させて楽しんでもらっている。
彼等とはもう2度と会うことも関わることもないだろうな。大変無念だ。
「皇帝の寵愛を受ける第二妃の息子。その幼子の俺が辺境領主になれば。不穏分子がわんさか現れて、国内の大掃除ができると考えた人達がいるわけか。まったく……ストレス解消に下の連中には、雌のハイオークの集落に飛ばしてあげよう」
毎日、毎日数万人も、死地へと転移させるのは骨が折れるな。
「皆……消えていく……どこから攻撃が……」
「嫌だ!誰か助け……嫌だ……」
この日の夜、リファレンス公爵家の私兵数千人が行方不明になったと、数日後に知った。
◇
夜の掃除が終わった俺は、母様達が休んでいる場所へと空を飛んで戻って来た。
「…………追手、全然来ないわね。意外だわ。そう思わない?リンネ」
「え~!そうですか?静かでいいじゃないですか。無駄な戦いも起きませんし」
「私は久しぶりに戦いたいわね。腕が鈍ってるもの」
「いやいや、多勢に無勢ですよ。ユキナ様。私達、10人も居ないんですよ」
「………そうね」
簡易テントから、母様とメイドのリンネさんの声が聞こえてくる。
「ただいま。戻りました」
「あ~!ヨル様。遅い~!長いトイレでしたね。大ですか?」
「…………いや、違うけど」
このメイド。本当にデリカシーがない。俺を完全になめきっている。
「財、人材、立場、居場所の全て没収……辺境の地へ流刑。前皇帝と公爵貴族の娘をコケにして命があるだけありがたいわね。良かった良かった」
「いやいやいやいや。全然よくありませんけど。みんな、皆没収されちゃったじゃないですか!どうするんですか!ユキナ様」
「…………皇族使いの貴女が居るじゃない」
「いやいやいやいや。私はあのまま、お城に居ると殺されちゃうからですけど」
皇室から届いた手紙を見ながら、そう告げる母様にツッコミ続けるリンネさん。
「それに与えられた物もあるわよ。領地とか……ヨルにだけど」
「流刑の地ですよね?豊穣の地とかいわれてますけど、人外魔境の禁則地ですよね?これから私達が行く領地って?殆んど人が住んでいませんよね?ユキナ様」
「…………」
「なんで、無言なんですか?ユキナ様」
「どうにかなるわよ。きっと……ヨルがどうにかするわ。多分……お休み」
「多分ってなんです?私のお給料ってちゃんと支払われるんですよね?ユキナ様~!」
母様が眠っている妹のコハクの頭を優しく撫でながら、横になり眠り始めた。そして、うるさいリンネさん。最近の日常風景だ。
……俺も眠いし。あの人に会いに行ったらさっさと寝よ
「がしっ!」
「ん?がしっ?……て、なんだ。ティファか」
いきなり服を握られてびっくりしたと思えば、ティファだった。なぜか涙目だ。
「……ヨル君。どごぉぃってたの?」
「散歩だけど……なんで泣いてる?」
「……だって、ヨル君とティファはいつも一緒なの」
「…………そう」
ティファに泣かれてしまった。いつものことだがどうしたものか。
「仕方ない。一緒に連れていくか」
「……ぁぃ?」
「〈テレポート〉」
「ユキナ様~!お給料~!」
騒ぐリンネさんを放っておいて。俺は、とある人に会うために転移した。
「師匠」
「…………ん?……おや、珍しい。お前が人と一緒に来るとはな」
「真っ白白………だれ?」
俺とティファは、師匠。大魔女シロンの元へと転移した。




