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ヨルの使い魔


 壺を割っただけなのに、アルティミス皇国の第二皇子 ヨル・レーヴァトス・トルバトスの名声と悪行は、『アルティミス・オーブ』の世界中に広まった。


 前皇帝の悪政権を割り砕いた子。

 母を守りし御子みこ

 世界の秩序を乱す悪皇子。

 辺境に追放されし、哀れな忌み子。


 などなど。良くも悪くも、俺に対する噂や憶測が世界中で噂になっていると、リンネさんから教えられた。


 知るか。俺はただ、大切な母様や家族……ティファを守るために行動を起こしただけなんだ。


「……あの後、前皇帝は廃人と化し、隠居。二週間前に起きた毒殺事件は、第一妃カトレア派が仕組んだことが分かり。カトレアは、謹慎部屋行きと……どこまで計算だったの?ヨル。私によく似て腹黒い子ね」

「いや……俺は母様を助けるために必死だっただけです」

「にぃ~!にぃ~!」「ヨル君!ヨル君!」【キュゥ!】


 二週間振りに自室での謹慎が解かれたと思えば、母様の仕事部屋に急いで来るように言われたため、来てみれば。


 妹、ティファ、知らない金色の狐みたいな小動物のお守りをさせられている。騒ぎを起こした罰だそうだ。


「……またまた謙遜けんそんしなくてもいいわよ」

「いや、謙遜って……なんです?」

「ん~?フフフ、ヨルにはまだ、難しい言葉ね………今回、突発的に起きた毒殺事件と第二皇子壺割り事件で、アルティミス皇国は変わらざるを得なくなったわ」

「……変わるですか?それって、父様と離婚ですか?」


 そうか、遂に実家《極東》に帰るのか。いつも父様の愚痴を言っていたからな。

母様堪忍袋のが遂に切れてしまったか。残念だ。


「ユリウスとはラブラブよっ!……離婚なんて難しい言葉、どこで覚えたのかしら?この子はっ!まったくもうっ!」

「………あむぁ!?ひぁいれす。母様」


 母様が赤面しながら照れている。父様とはラブラブらしい……そして、俺は両頬を母様に引っ張られてお仕置きされている。悲しい。


「にぃ~!にぃ~!」「ヨル君!ヨル君!」【キュゥ!】


 ついでに小動物達にも、髪や服を引っ張られて遊ばれている。俺は玩具か。


「あっ!それでね。ヨル」

「ふぁい?」

「私も、前皇帝エルヴィン…様に言われた通り。貴方が領主になった『レーヴァトス・ホール』に一緒に付いて行って、一緒に暮らすからよろしくね」

「…………ふぁい?」


◇◇◇


『アルティミス皇国機密報告書 抜粋』


皇歴こうれき2222年2月2日。連続重大事件が起きる。


オーブ王国の王子を招いてのお茶会が開かれたが。現皇帝ユリウス殿下の第一妃カトレア・レーヴァトス・トルバトスの側近達による、アルティミス皇族およびオーブ王国の毒殺行為が発覚。


その後、集団食中毒が発生。だが、それを察した世界一の美女にして、ユリウス殿下の第二妃であるユキナ・レーヴァトス・トルバトス様が会場内の人々を回復魔法でお救いになられた。流石は世界一の美女、ユキナ様である。


そして、次の日。毒殺事件を解決されたユキナ様への褒美を取らせると呼びつけた、クソ爺……ではなく、前皇帝エルヴィン・レーヴァトス・トルバトスは、自身の権力を暴走させ、現皇帝ユリウス殿下から、自身の妻になるように強要し。第一妃カトレアと結託して城の衛兵をユリウス殿下の許可なく動かした。


その後、ユキナ様は衛兵に取り囲まれてしまったが。ユキナ様の第一子であるクソガ…ヨル・レーヴァトス・トルバトス様が前皇帝エルヴィンの大切な壺を突然破壊した。流石は噂通りの悪皇子である。


それに激怒した前皇帝エルヴィンは、突然現れたもやに身体を包まれると、大人しくなり。ユキナ様の息子……クソガ……ヨル様を、荒れた辺境の領地『レーヴァトス・ホール』の領主へと任命し、気絶した。


その後、前皇帝エルヴィンと第一妃カトレアの謀略の数々が判明。現在も両方の関係性と罪状を調べている最中である。また、前皇帝エルヴィンは隠居、第一妃カトレアは謹慎という形で大人しくしている様子だ。

時が経ち、内情が分かり次第投獄される可能性も出てくるとユリウス殿下は、各皇族や貴族達に説明……これは私のただの憶測だが。

現在のユリウス殿下では、各領地の大貴族をまとめあげられないための処置だと思われる。反乱を恐れての現状維持だろう。


……それにしても、なんとも奇怪な大事件のため、アルティミス皇国機密機関である『クレイモア』部隊は、慎重に今回起きた事件を調査をしていきたいと思う。そうすれば、ユキナ様に、私を認識してもらえるだろう。………記録司書クロツバキ』


 私欲に満ち満ちた機密報告書をそっと閉じる。どんだけ、俺の母様のファンなんだ。


「………読むのに疲れた。これから、旅立ちだっていうのにな」

「にぃにぃ……」「ヨル君」


 妹のコハクとティファニー王子が、俺の膝の上で眠っている。


「ヒヒヒンン!!」


 現在、アルティミス皇国の辺境にして秘境である『レーヴァトス・ホール』領地へと向かうための馬車の中に居る。


「ユキナお姉さま。行かないで下さい!」

「ユキナ様が居なくなった。私、どうすればいいんですか?」

「よしよし。リリア、ミリアーラ。ユリウスのことを宜しく頼むわね」


  外では、大勢の人達が集まっていた。母様は、第三妃のリリア様と、第五妃のミリアーラ様と最後の別れの挨拶をしているようだ。第四妃は……来るわけないか。


 身分に関係なく沢山の人達が集まってる。俺……というよりも、母様の旅立ちを見送るために皇国中から人が、アルティミス皇都に集結したとか。相変わらず俺と違って人気者だな。母様は……俺なんて、一部から最近、厄災を生む子なんて言われているのにな。


「ユキナ!君が居なくなったら、僕はどうすればいいんだ?」

「皇帝なんだから自分で決めなさいよ。なんでも私に相談しないでくれるかしら。ユリウス。あのエロ爺は隠居したんだし。これからの皇国のことは、貴方が決めなさいよ」

「そ、そんなあぁぁ!!」


 父様が情けない顔で母様に抱き付いている。息子としては、父親の情けない姿は見たくなかった。


「……クノン……いえ、私の側近の子達は残していくから。なにかあったら連絡してきなさいよ。これでいい?ユリウス」

「………………今度はいつ会えるかな?いや、僕から会いに行くよ!ユキナ!だって僕は君を愛しているから!」

「…………ユリウス。おバカさんね///」


 良い雰囲気だった。母様と父様は両想いとは本当だったんだな。


 今まで権力を握っていた前皇帝エルヴィンと第一妃カトレアが政界から退しりぞいたことで、今後は、現皇帝の父様と、第三妃と第五妃の貴族派閥が中心となって、アルティミス皇国の政権は回っていくことになる。


 第三妃と第五妃の貴族派閥は穏健派で、平和的な国政が行われていくことになると、俺は勝手に予想している。


「それで?お前はいったい何なんだ?大厄災シルヴィア」


 そんなことを考えつつ、馬車の中で、外の様子を眺めている黄金狐……自称俺の使い魔に話しかけた。


【ヨル様にお仕えするんですわ。壺を割って頂いたお礼ですわ】

「……いや、お仕えされなくていいんだが」

【ガーン!酷いですわ。あんまりなのですわ。頑張ってお世話するので、側に置いてほしいですわ。ヨル様】


 ですわ口調の黄金狐……俺が壺を割った後、頭の上にずっと乗っていた謎の物体だ。


 いや、この生物のことを詳しく知ってはいるが。まさか使い魔になるとは思ってもみなかった。


「……いや、いいって。お前……」

【シルちゃんですわ】

「シルヴィアは、ずっと壺の中に閉じ込められていたんだろう?怨んでる奴の所にでも行って、恨みを晴らしてくればいいだろう」

【それならば、アルティミス皇国に沢山沢山恨みがあるので、ちりも残さず滅ぼしますわ】


 ニコニコしながら、なにをとんでもないこと言ってんだ?この厄災狐は。


 九つの尾ひれを持つ〖厄災のシルヴィア〗。『アルティミス・オーブ』のゲーム世界では、裏ボス的存在で。最強キャラの1体だ。


「おい!止めろ!……お前ならできるだろうが。止めろ」

【それならば、この先ずっと。シルヴィアをヨル様の使い魔にするんですわ。じゃないと滅ぼしますわ】


 可愛い顔でとんでもないこと言ってるぞ。こいつ、原作通りヤバイ奴だ。


「…………分かった。これからよろしく頼む。厄災狐」

【勿論ですわ!任せるですわですわ~!】

「とんでもない奴を使い魔にしてしまった……」


 厄災のシルヴィアがヨルの使い魔になった。


 そして、これから俺が領主として向かう領地『レーヴァトス・ホール』の地にはあれがある………………ゲーム『アルティミス・オーブ』の裏ステージ・最難関迷宮『ディープホール』。


 俺はそこに行き、迷宮攻略を成し遂げて、認められないといけない。『ディープホール』に住む、厄災シルヴィアのような最強で最悪の隠しキャラ達に。


 というか、俺を殺すかもしれないティファニー王子の同行。厄災の使い魔。最難関迷宮の攻略。


 どんどん状況が高難易度化してないか?俺の新しい人生……


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