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第二皇子ヨルの乱 


「おはようございます~!ヨル様~!朝ですよ~!」


「………ん……おはよう。リンネ」


「はい~!おはようございます~!」


 昨日のお茶会の現場に居なかったリンネさんが、にこやかな笑顔で俺へと朝の挨拶をしてくる。


「…………リンネさん。昨日はどこに居たの?」

「はい~!大図書館でサボってましたよ。熟睡です」

「……給料泥棒」

「ん~?なにがですか?」


 この屈託のない笑顔、本当みたいだな。リンネさんが嘘をつく時は、汗をダラダラと流しながらふたてふためくから。嘘はついてない。


「母様に、リンネさんがサボってたって言うから」

「え~!それは困りますぅ……それよりも許嫁さんを起こしてあげなくていいんですか?まだ、お眠みたいですけど」

「…………許嫁さん?」


 誰のことだろうか?アルティミス皇国の第二皇子 ヨル・レーヴァトス・トルバトスには、たしかに許嫁である悪役令嬢役がいるのが。


 その娘と出会うのは、まだまだ先の話のはず。


「…………ふぁ……ヨル君……おはぉ」

「…………ティファニー王子?なんで、この部屋に?」

「あらら、ユキナ様に、昨日お願いされたことを、もう忘れちゃったですか?」

「母様からのお願い?」

「そうですよ~!ティファニー王子が、アルティミス皇国内にいる間は、ずっと側に居てあげてって言われてたじゃないですか」

「…………は?」

「…………ヨル君。よろしゅくぅ」


 ティファニー王子に両手を強く握られて、よろしくされてしまった。


「あらあら、もう仲良しさんですね~!良かった、良かった~!」

「ヨル君と仲良し」

「……いや、違うけど?」

「…………ちがわなぃ」


 なぜ、自身の将来を破滅させられるかもしれない相手と、よろしくしないといけないんだろか。こんな状況……いつ死んでも可笑しくないぞ。


 寝巻きから普段着に着替えた後、ティファニー王子の着替えを手伝うとかで、リンネさんに部屋から追い出された。まぁ、4才で人質として来させたられたんだ。


 この国のことは何も知らないだろうし、生活に慣れるまでは専属のメイドさんは付くのは当然か。……それで、今後の俺の世話役は誰がやるのだろうか?少し気になる。


 ティファニー王子の着替えが終わると、皆で母様が仕事をしている部屋へとやって来た。


「………母様。ご相談があります」


「あら?なによ、不服そうじゃない。凄まじい回復魔法を使えることを黙っている代わりに、ティファニーちゃんのボディーガード兼お友達になるって言っていたのはヨルじゃない」


 いや、そんな約束を母様とした覚えはない一切ない。俺の命を何だと思っているんだろうか?この母は。


「…………母様が勝手に決めただけです」

「あっそう。それじゃあ、皇帝陛下に早速、昨日の毒殺事件で皆を救ったのは、私の自慢の息子と報告するわ。良かったわね。これで、ヨルは次の皇位継承権第一になれるわよ。その代わり、今後は暗殺に怯えながらの生活になるわ。命が幾つあっても足らないわね。可哀想に」


 極東貿易と書かれた紙の書類を見つめながら、俺とは目も合わせてくれない。澄ました顔をしているぞ。この人。


「納得いきません」

「あら、納得なんて難しい言葉をもう覚えたのね。ヨルは、すごいすごい……偉いわね。納得いかないなら別にいいわよ。貴方の手柄を皆にバラして第一皇位継承権を得てもらうだけだもの。そうすれば、私もこの国で動きやすくなるものね」

「ぐぅ……脅す気ですか?可愛い息子を?」

「違うは、これは取引よ……貴方、そのくらいのことはもうできるのでしょう?」

「…………」


 揺さぶられている……もしかして母様は、俺が転生者だと気づいているのか?分からない……分からないが。このまま、昨日の毒殺事件を俺が解決したことを周囲にバラされるわけにはいかない。


 なんたって、第一妃カトレアの息子、第一皇子は愚鈍ぐどんで嫉妬深いんだ。俺も関わりたくないから、王城内ではなるべく関わろうとしていない。


 そもそも、アルティミス皇族主催のお茶会で起きた毒殺事件は、犯人は第一妃カトレアの腹心の仕業だと露見ろけんした。


 そして、皆の毒殺から救ったのは、母様ということにしてもらった。


 そういう風になるように俺が母様に頼んだ。俺は、まだまだ幼子で弱い。変に目立ちたくない。そもそも、皇位継承権なんてものに興味もないし、皇国の政略に関われば、暗殺される危険性だって出てくる。


 歴代の皇子で、皇帝の座を目指すと皆の前で発言した瞬間、呪いをかけられて死んだ皇子もいるんだ。迂闊な行動は控えて、地味に無能を演じるのがアルティミス皇国での長生きの秘訣だ。


「ヨルは、その若さで色々なことを知っていて、できるみたいだし。素晴らしい皇帝になりそうよね……今からでも、なれる器としては完成しているようだし。頑張ったわね。ヨル」


 にっこりと俺を見つめる母様。やっぱり、なにか勘づかれているのか?


 仕方ない。ここは素直にティファニー王子の面倒をみるか……隠している実力を回りにバレたくないしな。


「………買い被り過ぎですよ、母様。それよりも、ティファニー王子の件。引き受けさせて頂きます」

「まぁ?そう?嬉しいわ。ありがとう。ヨル~!」


 棒読みじゃないか。ニヤニヤと笑って、計算通りという顔をしているぞ。この人。


「…………はい」

「ティファニーちゃんは、私の親友の子でね。オーブ王国が謎の大飢饉で食料不足で困ったから、アルティミス皇国で援助することになったのよ。それでその人質に、この皇国に1人で住むことになった可哀想な子なのよ」

「………はぁ、そうなんですね。知ってます」


 主人公《ティファニー王子》は『アルティミス・オーブ』のゲームでは、その後、十数年をアルティミス皇国で過ごしながら、皇族の子供達や貴族酷いいじめを受ける。


 そして、アルティミス皇国に恨みを持ったティファニー王子は復讐ふくしゅうを誓い。アルティミス皇国打倒を掲げるんだ。


「そう、それなら良かったわ……ティファニーちゃんは、まだまだ4才児だから何も知らないの。だから、《《色々なことを知っている》》ヨルが、ティファニーちゃんに色々と教えてあげなさい。母命令よ。お願いね」

「…………はい」

「間が空いた良い返事ね。ヨル」


 丸投げされてしまった。相手は、俺を殺すかもしれない宿敵だというのに、ティファニー王子の教育を丸投げされてしまった。この世界では同い年だというのにだ。


ガチャッ!


「あっ!勝手に扉を開けては駄目ですよ。ティファニー様~!」

「ユキナ様。ヨル君とのおはなしわり?」


 母様の仕事部屋の扉が開いたと思えば、ティファニー王子がひょっこと扉から顔を出してきた。


「ティファニーちゃん……ええ、終わった。ヨルと仲良く遊んで来なさい」


 優しげな微笑みをティファニー王子へと向ける母様。なんて、優しそうな微笑みだろうか。そんな微笑み、昨日の毒殺現場の以降、俺には見せてくれないくせに。


「ぁぃ……ヨル君。遊んで~!」

「へ?いや、ちょっと……」

「バラして、玉座に付かせるわよ。ヨル」

「ぐぅ!!……行こう。ティファニー王子」

「そのいいかたやぁ!ティファって呼ぶの、もしくはティー」


 ……なんだ、この我がままな王子は。


「…………行こう。ティファ、大図書館で遊ぼう」

「ぅん」 


 嬉しそうに両手を握ってきた…………なんで、こんなに好かれているんだろうか?


 こうして俺は、母様の策略により。宿敵であるはずのティファニー王子の、お世話係兼友達になってしまった。どうしてこうなった?


◇◇◇


 次の日。俺、母様、妹のコハク、ティファニー王子は、皇帝の間へと急遽きゅうきょ呼び出された。皇帝の間では、玉座に座る皇帝と……前皇帝エルヴィンと第一妃のカトレアが立っている。


 それと第一皇子……カトレアの息子が鼻水を垂らしてティファニー王子を見つめているな。ニタニタと笑ってどうしたのだろうか?


「……お呼びでしょうか?陛下」


 皇妃らしく、上品に皇帝へとお辞儀をする母様。普段の気だるげが一切ない大陸一の美女の振る舞いをしている。目はしっかりと夫である皇帝を睨み付けているが。


「あ、あぁ……僕じゃなくてね。ユキナ」


 ギロッと睨み付けられて、あわて始める父様。


「まぁっ!皇帝陛下にむかって、なんですかその目つきは?身分を弁えなさい。極東の蛮族姫」

「まぁまぁ……カトレアよ。そう怒るな。よいではないか。気品に満ちた高貴なる振る舞い。最高ではないか」

「まぁっ!お義父様!また、そのように贔屓ひいきするのですか?パパに相談しますよ!」

「い、いや、そんなことはしておらんではないか。わしは落ち着けと言いたくてだな」

(うぅぅ……勘弁してくれ。ユキナの前だぞ。二人とも)


 玉座に座る父様を挟んで、前皇帝エルヴィンと第一妃カトレアが、なにか言い合っている。うるさい人達だな。


「ちっ!うるさい人達ね……皇帝陛下。本日はどのようなご用件で私達は呼ばれたのでしょうか?」


 『皇帝の間』全体に聞こえる程の舌打ちをする母様。無敵か?この人……いや、それにしても。なんで、皇帝の間に兵士や大臣……貴族達すら居ないんだ?無防備過ぎるだろう。


「あ、いや……ユキナ。それはだな……それは……」

「ハハハ!!皇帝陛下か自らの口では言いづらいですかな?ならば、わしが代わりに話してやろう」

「は?何を言ってるのですか。父上……うぉ!?カトレア……なにをする?私から離れろ」

「フフフ。離しませんよ。だって、あの忌々《いまあま》しい女の最後が見れるんですもの」


 第一妃カトレアが父上を拘束した?それを見ながら、前皇帝エルヴィンが気持ち悪い笑みで母様を見つめている。


「大陸一の美女にして、現皇帝ユリウスの第二妃ユキナよ。昨日のお茶会……いや、毒殺事件の褒美を取らせよう」

「褒美?……ですか。いえ、結構です……それでは失礼します。行くわよ皆……」

「待てっ!極東の姫ユキナ・クロフィール!!勝手な行動は、この前皇帝エルヴィン・レーヴァトス・トルバトスが許さぬ」

「……………つっ!」

「いやはや、昨日の毒殺事件解決の褒美を取らせようと思っただけだ。極上の褒美をな」


 前皇帝エルヴィンが嬉しそうにそう告げた。その態度を見て、母様は嫌な予感を感じ取ったのだろう。皇帝の間から退席しようとして呼び止められてしまった。


「父上。それはあまりにも横暴な……ぐあぁ!?」

「黙れ。ユリウス!……グヒヒ、喜べ。ユキナよ。今日でお前の第一妃の任を解いてやる」

「は?……なにを勝手なことを……」

「そして、今日の夜に、わしの新たな嫁として嫁がせて」

「……………は?」


 前皇帝エルヴィンの話を聞いた母様がフリーズした。


 それを見て、顔を歪ませる父上と……正反対に、嬉しそうにニヤニヤと笑う。エルヴィンとカトレア。


 ……失敗した。これは母様をめるために呼び出された罠だったのか。


 まさか、あの毒殺事件を逆手に取られるとは思わなかった。前皇帝エルヴィンは俺が産まれる前から母様を妻に迎えたがっていた。


 そして、第一妃カトレアは、父上の愛を独り占めする母様を邪魔者扱いしていたんだ。


 エルヴィン、カトレア……この二人が、昨日の母様の功績を利用して結託したんだな。


「グヒヒ……こんな軟弱な息子よりも。前皇帝のわしの方が、極東の姫君の夫に相応しいわ。挙式は今日の夜に挙げようぞ。ユキナよ~!衛兵達よっ!!」

「くっ!……だから!何を勝手な……私が本気で愛しているのは、ユリウスだけよっ!」


 前皇帝エルヴィンが叫ぶと、完全武装した皇国の精鋭部隊が俺達を囲い始めた。


「貴方達……」

「……ユキナ様、申し訳ありません。私達にも、守るべき家族がいるのです」

「申し訳ありません。元先輩にこんなこと……」


 大ピンチになってしまった。このままだと、母様が父様の目の前で、前皇帝に寝取られてしまう。そんなの絶対に嫌だ。


【それなら、神獣たる。ウチを解放するのですわ】

「………えっと?……頭の中に声?」


 いや、違う……壺だ。皇帝の間の奥に、前皇帝エルヴィンが、大切にしている一番宝物で、自分で勝手にアルティミス皇国の国宝認定している可笑しな壺。


 そして、その壺の本当の正体も知っている。『アルティミス・オーブ』の裏ボスの1人大厄災『シルヴィア』が封印されている。


【緊急事態なのでしょう?さっさとウチと契約して、パートナーになるのですわ。壺を割るのですわ】


 また、頭の中に声が聞こえてくる。シルヴィアと契約は嫌だが……母様のためだ。


「………仕方ないかぁ!」

「ヨル君?……なになげて……」


 俺は首に巻いていたブローチを引きちぎると、壺目掛けておもいっきり投げ込んだ。


「ヨル?貴方、何をして……!……貴方。あの壺はっ!?」


 バリンッ!と皇帝の間に響き渡り。


「は?…………はぁ?ま、待てっ!あれはわしが一番に気に入っていた。お気に入りだぞ!己、ユリウスとユキナのいみみ子が!!貴様!!わしがわざと無視していれば調子にのりおってっ!」


 前皇帝エルヴィンは、怒髪天を突いていた。ものすごい怒りの表情を浮かべて、俺へと接近してきたが……


【ウチの新しい主様になにをする気なのですわ?皇帝気取りの簒奪者よ】

「ぐっぐるじい!?なんだ?この力は!!貴様の仕業か!悪魔の子があああぁぁ!!」


 黒色のもやのようなものが現れたと思えば、それに纏わりつかれ捕まった。


【……ウチの言葉を復唱するのですわ】


【「止めろおぉ!!頭が割れる~!アルティミス皇国の第二皇子 ヨル・レーヴァトス・トルバトス。貴様を辺境の地『レーヴァトス・ホール』へと追放し、そこの領主任命する………」】


「…………なに?」 


「そして、第二皇子に連なる母、妹、ティファニー王子も追放とする。家族揃って辺境で頑張って暮らすといい」


「……追放に領主?」


 前皇帝エルヴィンが俺を睨みながら叫んだ。


 は?…………どうしてこうなった?


 集団毒殺事件から一夜が明けた日。俺の新たな運命が、突然決まってしまった。

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