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真良義《しんらぎ》夜《よる》の人生短


 家族はいない。


 俺、真良義しんらぎよるが幼い時、大切な家族が交通事故で死んだから。


 その後は、親戚中をたらい回しになって、親が残してくれた財産を殆んど騙し取られたんだっけ?


 小さかったから、あまり覚えてない。


 親戚中から悪ガキだの、気味悪い呪い子なんて言われ続けて。最後は悪辣で評判の養護施設に無理やり入れられてたんだよな。


 養護施設も、そりゃあ酷い場所だった。毎日唾を顔面に吐かれ、殴られ、上下関係を……社会の常識を叩き込まれたな。


 そんな最悪な日々が続けば心もすさむと思っていたが、そんなことはなかった。


 どうやら、俺の心は大切な両親や兄妹が目の前で死んでいく様を見てから可笑しくなってたみたいだ。


 そう、俺の心はとっくの昔に死んでいた。そりゃあ、夜も上手く眠れず。どれだけ攻撃されて痛くても……痛くても耐えられるわけだ。


 俺の心は、ハンマーで割られたガラス細工のように壊れていたからだ。


 ……それも遠い日の思い出だ。


 悪辣な環境でも、学校には通うことができた。

 また、勉強が普通の人よりは少しはできた。そして、最悪な環境で暮らしていても、努力した……普通の人よりも努力して勉強してきた。


 学校に朝早く行き勉強した。


 昼休みも勉強した。


 放課後は帰りたくない養護施設から逃げるように図書室で黙々と勉強した。


 休みの日も、養護施設で一緒に暮らすガキ大将達から逃げるように図書館に行って勉強した。


 本能だったのだろう……自分をこれ以上殺さないための生存本能が勉強しろと訴えてきたのかもしれない。


 そのお陰で、学業の成績も良くなった。毎日のように通っていた図書館で知り合いも沢山できた。


 友人。なんでも教えてくれる師匠みたいな人。好きな女の子も。


 そして、養護施設での暮らしを、皆に相談した。すると俺の人生は一変した。


 環境が悪辣な養護施設に国の調査が入り、違法な施設運営が発覚して、連日テレビのニュースで取り上げられ。施設は封鎖。


 住んでいた子供には、一部の不良だった子供達以外は国からの支援金が与えられ。


 国が用意したアパートでの暮らし、一定の学力があり、厳しい審査を通った子供は、大学進学までの無償の援助金が出た。


 俺は、その厳しい審査を通って大学に進学できた。図書館で知り合った好きな女の子とも大学で再会し、 今は養護施設も出て大学生として、《《彼女》》と一緒に2人暮らすようになった。


 彼女のお陰で、壊れていた自分の心に光が……いや、暖かい灯心がともった気がした。彼女と共に過ごす間に、俺の壊れていたはずの心は溶かされていた。


 熱せられて、綺麗なガラス細工のように作りかえられていたみたいだった。


 楽しい日々が続いていたんだ。一緒にゲーム研究部に入って、大学生活の4年間をフルダイブ型オープンワールド型RPGゲーム『アルティミス・オーブ』を始めとしたゲームを……色々な種類のゲームを楽しんでいた。


 昔とは違う。薔薇色の大学生活を送っているつもりでいた。あの時までは――――


「それじゃあ、アパート帰るわ……『アルティミス・オーブ』。借りてくから」


「うぃす~!カオリ氏によろしくでそうろう。ヨル氏~!」


「はいよ……カオリからも早く帰って来るように連絡来てたわ」


「ほほう。相変わらず。熱々ですな~!お二人は、拙者は男装王女ティファニーたんにお熱ですがな。ハァハァ」


「……そりゃあ、楽しそうでなによりだ……ん?カオリからの連続通知?」


ピロン……ピロン……ピロン……


「早く帰ってきてとは……本当に熱々ですな。最近は、ここら辺で通り魔が徘徊しているらしいので、気をつけるのですぞ」


「いや……それにしては、通知が連続過ぎないか?」


 嫌な予感がした。ゾワッと……身体に悪寒が走るような、嫌な予感が。


「ヨル氏?」


「カネモリ、悪いけど。ちょっと一緒に付いてきてくれ。アパートに付いたら、少し離れた場所に隠れていてくれ。俺かカオリに何かあったら警察と救急車を呼んでくれ」


「警察と救急車……いつもの嫌な予感ですかな?ヨル氏」


「……アパートに行けば分かる。頼めるか?」


「勿論……カオリ氏はゲームの同胞ゆえに」


「カネモリ……ありがとう」



 直感。第六感とも言うが。俺はそういう《《感を察する》》ことに敏感だった。


 嫌な直感。それで、俺以外の家族が死んだ交通事故も、大怪我を負って死にかけたが一命を取り留めた。


 嫌な予感がする……嫌な予感がする。嫌な予感がする。嫌な予感がする。嫌な予感がする。


 頭の中に最悪の未来シナリオが、浮かんでくる。


 〖最近は、ここら辺で通り魔が徘徊しているらしいので、気をつけるのですぞ〗


 さっき、ゲーム研究部の部室から出る際に、親友のカネモリから言われた一言が、言霊ことだまのように頭に響く。


 ………俺の嫌な予感は高確率で当たるんだ。



 カオリと一緒に住んでいるアパートに着いた。階段を登って奥の部屋が俺達が住んでいる部屋だ。


「ハァ……ハァ……血の痕?」


「ハァハァ……新しいですな。階段に続いてますぞ」


「カオリ!……つっ!」


「待つでござる、ヨル氏。念のため、警察を呼んでから部屋の中に向かいましょう」


「それじゃあっ!カオリがどうなってるか分からないだろう!カオリ!!」


「ちょっ!待つでござるよ。ヨル氏!!……くっ!……もしもし、警察でしょうか!緊急で……」


 カネモリが警察に電話してくれてる。これで何か起こっても対処できる。


 カオリ……カオリ……カオリ。無事でいてくれ。カオリ。


 俺は、自分が住むアパートの二階へと急いで上がった。


「扉が開いてる?……血の痕も……部屋の中に!?カオリ!!」


 もう……嫌な予感しかしなかった。


 しなくて……


 しなくて……部屋に飛び込んで。最悪な光景を見てしまった。


「ヨル……君……逃げて……」


「よぉ!久しぶりだな。ヨルよう。お前、養護施設を出てから。こんな良い女と暮らしてたのかよ?許せねえよなぁ?」


「カオリ!!……お前。ヨシキか?」


 部屋の中に飛び込んで……見た光景。


 彼女カオリの腹部に、包丁が深く深く刺さっていた倒れ込んでいた。それを、養護施設の頃に俺をいじめていたヨシキが嬉しそうな顔で見上げている。手には赤色に染まった包丁を持っている。


「お前……お前……俺の彼女になにやってんだ!!」


「おいおい。そんなに怒るなよ。たかだか、お前の女を刺しただけだろう?俺の好みじゃねえから。襲ってねえけどな。ガハハハ!」


 不衛生な服に、抜け歯が多い……いや、そもそも全然残っていない。とういうか、なんでこんな状況で大爆笑してるんだ。こいつは?


「ヨシキ……お前!!!」


「あ?やんのか?ヨル……お前が俺ちゃんに勝てると思って……ごはっ!?」


 ヨシキが包丁を振り上げながら、襲って来た。ヨシキの動きは大振りで、目の焦点が合ってないため簡単にかわし。顔面をおもっきり殴ってやった。


 そして、うめき声を上げて床へと転がり落ちた。


 大学に入ってから、カオリに付き合わされて空手研究部に入って習っていたかいがあった。


「ハァ……ハァ……昔の俺とは違うんだよ。ヨシキ……カオリ!!大丈夫か!?」


 ヨシキが気を失ったことを確認すると。床に倒れ込んでいるカオリの元へと、急いで向かう。


「……ヨル君……あの人、いきなり追いかけて……来たの……そしたら、刺されちゃった……ごめんなさい……」


「……分かったから。もう喋らないで……血が出る……カオリが死んじゃう……ううぅ……」


 床一面に広がる血……痛がるカオリの姿を見て、つい片言になってしまった。


「………そんならよう。お前も逝けや。ヨル……死にさらせえぇやああ!!」


 後ろから声がした。雄叫びに近い声だ。その雄叫びを上げているヨシキは、口から泡を噴いている……白目しろめを剥いている。普通じゃない。何かの薬をやってるんじゃないかと思った。


「ヨシキ……お前……まだ立て……ガハァ!?」


 勢い良く、俺へと突っ込んできたヨシキに腹部を刺された。カオリと同じ場所だ。


 貫通して、刃先がお腹辺りに見える。鮮血が噴き出して床一面に俺の血が広がっていく。


「ヨル氏!カオリ氏!大丈夫でござるか!?……これは?……何やってんだ!!てめえぇ!!」

 

「あ……ひぃ~ひ………気持ち良いね……ガアアァ!?」


 玄関口からカネモリの叫ぶ声が聞こえた。


 それから……それから……カネモリがヨシキの後頭部を手に持っていたコンクリートのブロックで殴り付けて。


 ヨシキはぶっ倒れて。


「ヨル氏!カオリ氏!しっかりするでござるよ!!救急車も、もう直ぐ来るでござる!!」


「……ヨル君……私よりも傷……深……い……よ……救急車……救急車さん……早く……私の恋人……なんです……」 


「………あ…………ぅ?…………」


 カネモリ。助けに来てくれてありがとう。カオリ……動かないで……あれ?……俺だけ声が出ない?……何で?


 だんだん意識が薄れていく………


「お願いします!親友なんです!!ヨル氏を助けてあげて下さい!!」


「分かったから下がって!落ち着いて下さい!!緊急搬送!!このままだと彼は持たないぞ!!」


「……ヨル君……意識……戻して……お願い」


 ……え?……俺が死ぬ? 何で? 俺……悪いことしたっけ?


「傷口が酷い……出血が酷すぎるぞ。血が足りない!!このままだと2人とも死ぬ!!輸血パック急いで持ってきて……早く!!」


「………………」


 ……病院に着いたのか?……血が足りない?……カオリの血液型がA型。俺もA型だったな。


「…………先生」


「!?君、意識を取り戻したのかい?喋らないで!傷口に障るから!」


 俺のために緊急手術をしてくれてたのか?先生の手術服……血だらけだ。


「カオリ……は?」


「隣の部屋で緊急手術中だよ……輸血パックが届き次第、君もだよ」


 虚ろな目で、俺は血だらけの先生を見る。そして、さとる……俺はもう死ぬと。


「…………先生……俺……と……カオリ………同じ……A型……だから……俺の血……カオリ……に……ゆけ……つ……し…て…」


 言葉が途切れ途切れになる……あぁ、もう事切れる前だ。


「待ってくれ!なんでそんなこと……」


「先生!!真良義しんらぎさんの脈拍が急激に低下しています……」


「……そんな!!つっ!これじゃあ、助からないじゃないか……急いで彼を隣の彼女さんの部屋に連れて行く……彼の最後の願いだ。彼女さんに輸血して助ける!」


「先生!そんな……突然過ぎます!」


「じゃないと!彼がむくわれないだろう。彼の目を見ろ!」


「目?……つっ!」


「…………あ……り……がと……う……」


 俺の血をカオリに輸血すれば、彼女は助かる。そう安堵あんどして一瞬だけ意識が切れて……切れて……一瞬で起きて元気になったんだっけ?


「…………お……れ……」


「ヨル君……」


「カオリ?……なんで、血まみれで…………」


「うん……ヨル君の……お陰で……私だけ……助かっちゃうよ……ごめん……ごめんなさい……ごめんね」


「……そうか……カオリが……助かって……良かった……よ……」


 カオリが隣に横たわっていた。血塗れのベッドに……そして、俺もか……俺は……もうすぐ死ぬんだな。人間が死ぬ寸前のなんたら現象ってやつだろうか?


「あぁ……これで……思い残す……こと……ないな…………」


 ブツンッ!……俺の中で何かが。太い精神的な何かが切れた瞬間だった。


 それが切れた瞬間……俺は本当に死んだ。


 死んだ後……どうなるんだっけ?




「…………オギャ……オギャオギャ」


「お産まれになりましたよ。やりましたね!お妃様!」


「こんにちは……私の赤ちゃん」

 

 あれ?俺は死んだんじゃないのか?


 それに俺を見つめている女の子。あのメイド服の女の子。たしか、なんかのゲームで見たことあ………る?名前は……リンネだったか?


 ……………いや、なんで俺はそんなこと知っているんだ? 


 しばらくの間頭は混乱していた。そしてその数分後、この世界の母に名前を呼ばれて自分の正体を知ることになる。


 俺は1度死に……とあるゲーム世界の悪役皇子へと転生したのだと。


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