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こゆるぎさんはゆるがない〜遺伝子でマッチングした推しの距離感がバグってる件〜  作者: 水月 灯花
第一章 推しと遺伝子マッチング!?

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6.こゆるぎさんはこんわくする②


「わー……」


 受付で書類と身分証を提示して、国立遺伝子適合センターの職員の方に案内された分館は、庁舎の裏手に建っていた。


(ヨーロッパの貴族のおうちって、こんな感じなのかなぁ……)


 実際はもっと違うだろうけれど、国外に出たことがない凪沙の感想はそこに落ち着く。

 表からは見えなかった、レンガ造りの瀟洒な外観に、歩きながら見惚れてしまう。

 その様子に、職員の方――適合管理課の野上さんと名乗られた――が、建物の由来を説明してくれた。いかにも仕事が出来ます、と言わんばかりの落ち着いた見た目の女性だ。

 三階建ての洋館のような建物は、明治の頃に建てられ、もとは銀行だったのだという。

 その後、進む老朽化によって、一度は解体する案が出たのだが、レトロで優美な見た目を残してほしいと望む声も多く、建て替えの際に外装を復元し、長い間私設美術館として使われてきたのだそうだ。


「内部もなるべく景観を損ねないように整えてあります。ただ、地震や火災対策で設置しなければならない現代の用品も多く、残念に思われる方もいらっしゃいますね」

「そうなんですか……」


 安全管理上、背に腹は変えられないことはある。

 維持費だってかかる。

 最終的に今は国営機関の分館になっているのだから、例えば長テーブルにパイプ椅子が並んでいても文句は言えないのではないかな、というのが凪沙の所感だ。


(まあ、色々文句をつける人はどこにでもいるんだよね……)


 素敵な所ですね、と言うと、野上さんは優しく微笑んでくれた。


(こういう場所でお見合い……みたいなことをするのか……)


 一般のマッチングを行ったこともない凪沙はやや身構えた。

 建物内は出入りが厳重に管理されており、入館者はIDチェックと荷物検査を行う。

 国営マッチングシステムの都合上、芸能人や要人も訪れやすいように配慮されているらしい。

 一連のチェックを済ませて足を踏み入れた先には、見慣れない内装が広がっていた。


(なんかすごい、VIP感……。結婚式場もこんな感じだったかも……)


 洋式で格調高い――といえばいいのだろうか。

 昔、親戚の結婚式に参列した時の式場を思い出す内装だ。

 この施設が何を目的としているかを考えれば、あながち間違いではないのかもしれない。場違いじゃないかな、と凪沙はやや気後れした。一応スーツでは来たが。


 派手ではない、落ち着いた上品な格調高い調度品が配置されていて、静かな重厚感がある。見るからにアンティークなミニテーブルや猫脚の椅子は心惹かれるものがあった。

 先刻言われた火災報知器なども一見見当たらず、気にはならなかった。

 建物内の色調を合わせるなどの工夫をされているのかもしれない。


「先日の面談でもこちらを使用する予定でしたが、生憎都合がつかず、申し訳ありませんでした」

「あ、いえ……そんな……」


 丁寧に頭を下げられ、凪沙は恐縮してしまう。


「こちらでお話させて頂きますね」


 硝子の曇り窓が美しいアンティークブラウンの扉をノックすると、中から応答があった。


(自動ドアじゃないのが、雰囲気出てるなぁ)


 そんなことを思いつつ、ドアをおさえてくれる野上さんに頭を下げ、開かれた扉の向こうに足を踏み入れて――うっ、と思わず手をかざした。


(ま……まぶしい……!)


 一気に鼓動が激しくなった。

 くらくらする。


「お待たせいたしました」


 いつの間にか扉を離れて隣にいた野上さんが、相手方に声をかけると、長椅子に座っていた人物が立ち上がった。

 反射的に凪沙も居住まいを正すが、心の中は大混乱だ。


(えっていうか待ってやっぱりアキだよね!?)


 グレーのジャケットとスラックス。

 白いシャツに落ち着いた柄のネクタイ。


(あぁぁスーツ似合う最高ぅぅ! 三割増どころか十割ぃぃ……!)


 シンプルながらきちんとした装いの推し――AKIがそこにいた。


「いいえ。本日はよろしくお願いいたします」


 AKIの隣で、いかにも事務職員といった出で立ちの、こちらもスーツ姿の男性が答え、AKIも会釈する。


「よろしくお願いします」

「……ヨロシクオネガイシマス……」


 軽く微笑んで挨拶されて、凪沙は蚊の鳴くような声で返事をした。

 社会人としてあるまじき姿だが、脳は既にオーバーヒートしそうである。

 思わず目線をそらした。


(……セクシーすぎる……写真集でネクタイゆるめてたのあったよね……でもかっちりした感じなのも禁欲的でいい……)


 着崩してないスーツ姿でしか得られない栄養がある。この建物も似合いすぎていた。洋風の建物にビシッと決めたスーツのAKI――スリーピースとか燕尾服とかも絶対良い。

 今度公式に要望を送ろう、などと心がどこか違う場所に行き始めた。現実逃避ともいう。


「先日の面談の際に挨拶されていると思いますが、改めてお互いに紹介させて頂きます」


 椅子に座るよう促されてから、硝子のテーブルを挟んでAKIと凪沙が向かい合うように長椅子に腰掛ける――この間凪沙は推しとの距離の近さに内心悶絶していた――と、事務職員二人も間を開けて、一声かけて着席した。


「本日の面談を担当させて頂きます、野上と申します。こちらは小動凪沙さんです」


 反射でぺこ、と目礼する。


「――小動さん、適合相手の風見暁良さんと、お仕事のマネージャーをされている田中さんです」


 そう紹介されて、目が潰れそうだ、と若干目をそらしながら相手側に目を向け――ふと、気付く。

 マネージャーさんは、初回の面談の際にも立ち会ってくれた人だ。

 事務職員ではなく、マネージャーだったとは……。

 自分はマッチングに相応しくないとつらつら言い募ったことを思い出して、少し青ざめた。


(アキのマネージャーさんだったなんて……! こないだかなり引かれてたよね……)

「本日は皆様、お忙しい中おいで頂きまして誠にありがとうございます」


 野上さんが静かに説明を始める。

 マネージャーが同席しているのは、芸能人であるアキの安全確保と、制度上の説明を一緒に確認するためだと告げられた。納得です。


「それでは、ご存じかとは思いますが、まず遺伝子適合診断事業《GeneLink》の概要から説明いたします。次に、本件の遺伝子適合検査における数値の開示、今後の流れや注意事項と進ませて頂きます」


 遺伝子適合診断事業――遺伝子マッチングとは、と淡々と説明が行われた。

 そして、硝子のテーブル上で見せられた端末には、凪沙と風見暁良氏との遺伝子マッチング検査の結果が表示されていた。


(99.982%の確率で、優秀な次世代が産まれる……)


 この間の話は、夢ではなかったのか。


 呆然としている間にも、制度の概要が語られていく。

 曰く、結婚や妊娠出産は強制ではないこと。

 双方が納得の上制度を利用する場合は補助金が出る場合があること。

 特定の要件を満たした場合には税の免除があること。

 お互いのやり取りには遺伝子適合センターは基本的に関与しないが、相談には随時応じること――などなど。


「まだ本システムが稼働してあまり経っておりませんが、既に何件ものカップルが成立されています。……ですが、お二方程数値が高いケースは初めてです。その為、本件を【優先度A】とトップケースに指定させて頂きました。私共としましては、出来れば是非仲を深めて頂ければと――」


 アキも凪沙も、説明の間特に口を挟むことはなく、田中さんが野上さんにいくつか質問をするなどと、事務方間でのやり取りに終始した。

 適合制度の概要、面談の意味、今後の手続き――すべてが現実味を帯びて迫る。


「――それでは、私共からの説明は以上になります。今後もお尋ねになりたいことがあれば、遠慮なくお気軽にお問い合わせください」


「はい」とAKIが答えた。

 それに頷き、野上さんは続ける。


「……よろしければ、お二人だけで少しお話をされてはいかがかと思いますが……」

「え……(ふ、た、り、っ、き、り!?)」


 それはたぶん心臓がもたない。


「規定のため、完全にお二人のみにはできませんので、ドアの向こうで待機させて頂きますが……」


 野上さんの言葉で凪沙は息を吹き返す。執行猶予を与えられた。

 アキのマネージャーの田中さんも、一礼して野上さんと部屋を出ていく。


「……暁良、くれぐれも失礼なことをしないようにな」

「しないって、変なこと言うなよー」


 マネージャーとの気心の知れたやり取り、尊い。


「……それでは小動さん、風見をよろしくお願いします」

「へ、ほ……ハイ……」


 退出寸前に声をかけられて、戸惑いながら変な声が出た。

 ――落ち着いた方がいい。

 ドアはあいたままで、視界にはいる範囲に事務方二人の姿が見える。


(でもどうやって落ち着くんだっけ!?)


 興奮でぐらぐら揺れる頭が頼りにならず困っていると、至高の声が紡がれた。


「――今日は来てくれて、ありがとう」


 アキは凪沙の目を見て、柔らかくそう言う。


「(ひぃっ! 顔がいい!)あ……っ、い、いえ……こちらこそ……」


 声が出た自分を褒めたい。

 だって、神様のように遠い人とほとんど二人きりなのだ。

 一度目も思ったが、もうこのまま天に召されてもいいかもしれない。

 先日の握手会を彷彿とさせる台詞に、夢なのか現実なのかはっきりさせようと、こっそりパンプスのヒールで反対の足の甲を踏んだ。かなり痛かった。

 ――それでもやっぱり、疑ってしまう。

 あまりにも自分に都合が良すぎるので。


 どうして、フィクションの世界のヒロイン達は、推しと対峙して平気でいられるのだろう。

 早鐘を打つ心臓に文句を言われながら、美しい瞳から目が離せなくなってしまう。

 推しと本当に目が合う瞬間なんて、全ファンの渇望が故に。


「この間、イベントに来てくれてたよな。撮影と握手も」

「お、覚えて……」

「俺、結構記憶力は良い方だし。お見合い相手を間違えたりしないよ」


 笑って言われた。

 お見合いって言った。お見合いって。


「ファンからの手紙も読む方なんだけど――君も時々くれてたよな?」

「か、神……」


 じーんと感動する。

 その情報知ってはいたれど、誇張されているのかと。

 凪沙は思いの丈が爆発しそうになると、学生の頃からファンレターをしたためていた。

 手書きが好きです、という推しの言葉を聞いてからは特に。

 忙しい中、ファンからの手紙に目を通してくれているなんて、とつい拝んでしまった。


「また拝んでるし……。癖なの?」

「すみません、つい……アキ、さんはファンにとって神様なので……」

「神って。俺も人間だよ」


 まあいいか、と苦笑する大らかさ、スキ〜!


「前回事務所に来てくれた時に言いそびれたけど、ファンレターありがとう。読みやすい文字だよな。手書き大変じゃない?」

「いえ……! こちらこそ、何か色々書いてすみません……!」

「いや面白いし、気に入ってくれた演出のことよく分析してくれてて、参考になるよ。だから気づいたのもあるかな、名前も含めて」


 先日から自分の名前に感謝するばかりな気がして、凪沙は今度両親とご先祖様に心から礼を言うことにした。


「この間も言ったけど、元気そうで良かった。――俺が見舞いの手紙書いたの、迷惑だった?」

「いいえ! 額縁に入れて大切に保管しています! 果物はあらゆる角度から撮影したあと、美味しく頂きました!」


 本当は保存しておきたかったが、食べ物を粗末にするなんてファンの風上にも置けない行為だ。


「撮影? 額縁……」


 くくっと笑う顔が愛しい――


「案外、俺たち似た者同士かもな」


 スマイルを浴びて溶けそうになっていたら、AKIはそう続けた。


「え?」


 にこっと笑みを深めて、更に言う。


「それじゃあ、どうして連絡くれなかったのかな?」


 あ。この笑顔――もしかして。


「あの……怒って、ますか……? すみませんでした」


 腰を折って頭を下げる。

 いちファンが神のご所望を無視するなんて、本当に申し訳ございません。

 土下座すれば良かった。

 心から謝りながらも、ようやく整った顔から目を逸らせてほっとする自分がいる。

 ――床にこんなに安心するなんて。


「AKI――さんの意向を無視するつもりはなかったんですが、私にはどうしても現実だとは思えず……!」


 机の横にどいて今度こそ土下座した。


「ちょっ、土下座しなくても……! 顔上げて」

「いいえ、本当に申し訳ありませんでした!」

「…………」


 ふう、と艷やかなため息の気配。

 ため息すら価値を持つのがすごすぎる。


「……なぁ、俺、土下座させて喜ぶ人だと思われてる?」


 どこか切なげに言われて、目を剥いた。


「いっ、いいえそんなことは……! ただ、不良の方々のお詫びは土下座が基本だと!」

「うわー……その情報どこから出た……。確かにデビュー前、ちょっとヤンチャしてたことはあるけど短期間だし、犯罪には関わってないし、すっぱり更生したんだけど……」


 ご本人はお気づきではないようですが、時々漏れ出る元ヤン感はファンにとってご褒美です、と言うのは差し控えた。


「とにかく――立ってくれる?」


 ぐい、と上半身が起こされた。

 前を見たら、至近距離で困ったような顔をしているAKI――


(ぎゃあああああああああ)


 即座に飛び退き、何度も何度も頭を下げる。


「すみませんありがとうございます! 今日も生きられます! ごめんなさいゴミとかついてませんか……なんかもう全部申し訳ありません!」

「いや、そこまで謝らなくても大丈夫だよ」

「いいえ! アキ――さんの手は尊さの具現! ファンがみだらに触れていいものではないのです!」

「……そんなに?」

「ええ! 前回の面談のあと夢なら握手してもらえば良かったって思いましたが、やはり公正な抽選を経て手に入れるべき権利だと先日痛感しました!」

「ふーん……。――夢ってよく言ってるけど、君の夢に俺出てくるの?」

「ええ時々! 抱き枕愛用してま、す……」


 しまった、推しを前にしてまた気持ち悪い発言を。


「あの、抱き枕の心地がほんとによくてその、寝付きが段違いでその……」

「――そんなに推してくれてるのに、見合い相手が俺じゃどうして駄目なわけ?」


 あたふたと言葉を重ねていたら、静かな眼差しでAKIが言う。


「アイドルじゃない風見暁良には、興味がない?」

「そんなことないです!!」


 思ったより大声が出てしまった。

 入口付近からこちらをうかがっている二人が見えて、思わず謝罪のポーズを取る。


「――私にとって、アキは理想の人です。アイドルじゃなくても絶対に推せます。でも、やっぱり……あなたの隣に立つには、私じゃ相応しくないと思うんです」


 だから、信じられなくて。

 どうしていいかわからなくて。


「人気絶頂の今、邪魔をすることはしたくないですし……遺伝子の相性がいいなんて言われても」


 何もかも、信じがたい。

 長椅子の側面を背に、屈み込んでしまった。

 これ以上、何て伝えたらいいだろう。

 AKIに文句なんて何一つない。

 原因は全部、凪沙自身にあるのだから。


「……あのさ、さっき、どうして俺が怒ってると思ったの?」

「えっ……」

「確かにちょっといい気分ではなかったけど、顔に出したつもりはなかったんだけど」


 あ、やっぱりイラッとしたんだ。本当にすみませんでした。

 下から見上げる静謐な眼差しのAKIも彫像みたいに美しい。


「気分を害してすみませんでした。何でわかったか、と言われましても……」



 ドラマで怒るシーンの雰囲気に似ていたからとか、目に宿る感情の色とか。


「――ずっと見ていたから、わかります」


 結局それに尽きる。

 芸能人だと、プライベートの感情を表に出さないようにするのは普通なのだろう。

 バラエティに出ている時の親しい人への眼差しと、苦手な人への感情のゆらぎ。

 多忙の中体調が優れないのではないかと心配したり、心から喜んでいる様子に自分も嬉しくなったり。

 どうしてかはわからないが……凪沙は、人の気持ちのゆらぎを捉えるのが、子どもの頃から割と得意なのだ。

 ――ずっと、アキだけを応援してきたから。

 だから、何となく気付いただけだ。

 でもきっと、他のファンだって出来ることだろう。


「いや、普通はわからないと思うけど……」


 くすくすと笑う推し、動画に撮りたい……!

 目で録画をしていると、すっとAKIが屈んで目を合わせてきた。


「ずっと応援してくれて、ありがとう」

「っ……!」 


 その言葉だけで、すべてが報われた。

 アイドルに貢ぐなんてなんの意味があるの、と言われることは多かったし、金銭管理に悩むこともあった。

 アキに相応しいファンの鑑のようになろうと努力してきたことは、無意味なんかじゃなかった。

 感無量だ。


「でもさ、俺ばっかり知られてるのは不公平じゃない?」

「へ……?」

「いきなりマッチングていっても考えられないなら、まずはお互いを知ることから始めようよ」

「ひゃい……?」

「連絡先、交換しよう」

「えぇ!?」

「――俺は教えたのに、そっちは教えてくれないわけ?」


 いつの間にか取り出された携帯。

 有無を言わせない笑顔の推し。

 え、え、と困惑していたら――助けが入った。


「暁良。粗相をするなと言っただろ」

「してないって。連絡先交換してってお願いしてたところ」

「ああ……」


 なんだ、まだそんな話をしていたのか、と田中さん。


「小動さん。大変申し訳ないのですが、風見は仕事の時間が迫っていまして……」

「仕事!? すみませんお時間をとらせて……! どうぞ行ってください!」

「ありがとうございます。――今後の為に、私もご連絡先をお伺いしてもよろしいですか?」

「え、あ……」

「まだ意見のすり合わせが終られていないのでしたら、何度もセンターを通して面会を設けるより、直接連絡を取らせて頂く方がありがたいのですが……」


 それはそうだ。相手は国民的アイドル。何度も日程を調整して出向いてもらうのも大変だ。

 色んな方の手間もかかるし――なんて納得していると、あれよあれよと言う間に、田中さんと連絡先を交換していた。

 そして、AKIとも。


(……あれ?)


「じゃあ、また」とにこやかに退室して行った推し。


「無事にお話が進んだようで良かったです。今後も何かございましたらご連絡ください。私共からもご案内することもあるかもしれません」


 そんなことを言われて野上さんに見送られ。


「あれ……? なんか、まるめこまれた……?」


 帰宅の途につきながら、携帯を見つめて呆然とする。

 トークアプリの画面には、AKIの名前と、夕暮れの空にかざしたコーヒーのアイコン。

 見切れているが、コーヒーを持つ指が推しのものだとすぐわかった。


 ――通知が来た。


『これからよろしく。少しずつ知り合っていきたいです』


 端的に送られた文字の最後には、『よろしくね』と小首をかしげる可愛い犬のスタンプ。


 推しのあざと可愛さに萌え苦しみながら、凪沙はその画面を保存した。


「どうしてこうなった……!?」


 自室で叫ぶ凪沙を見下ろすAKIのポスターが、してやったりと言っている気がした。


第一章終わりになります。

読んでいただけて本当に嬉しいです、ありがとうございます。

ブクマ評価感想頂けるとモチベーションがあがりますので、何卒よろしくお願いいたします。

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