― 光眼の伯爵令嬢 ―
あの騒乱から数日。
屋敷の屋根はまだ焦げ、紅茶の香りには微妙に火薬の残り香が混じっていた。
お姉ちゃんは、崩れたテラスで一人ティーカップを傾けながらぼんやり呟いた。
お姉ちゃん:「……アルベルト様が欲しがったわけじゃないのに爆発した。
でも……まぁ、コレはコレで良いかしら」
彼女の周りを小鳥が飛び、静かな風が吹き抜ける。
妹も両親も爆発後の片づけで忙しく、久々に訪れた静寂。
その静けさの中で、お姉ちゃんはふと天を見上げた。
お姉ちゃん:「ねぇ、女神様。次はもう、何も壊れないスキルが欲しいの」
空が光り、女神アモーレが姿を現した。
今回は妙に神妙な顔つきだった。
女神:「……あなた、本当に懲りないわね」
お姉ちゃん:「もう派手なのは要りません。ただ、落ち着いた力が欲しいんです」
女神:「ふむ……つまり、“穏やかで、シンプルで、絶対に暴走しないスキル”ね?」
お姉ちゃん:「はい!」
女神は長い溜め息をつき、杖を掲げた。
女神:「よろしい。あなたに授けましょう。
それは……《ルクス・オクルス(光る目)》」
お姉ちゃん:「……名前からして地味っぽいですね」
女神:「光るだけよ。ほんとに。ただ、ちょっとだけかっこいい。」
翌朝。
妹:「お姉ちゃん、今度はどんなスキルもらったの?」
お姉ちゃん:「見てなさい――《ルクス・オクルス》。」
ピカーッ
お姉ちゃんの目が淡い光を帯び、虹色に瞬いた。
特に何も起きない。
ただ、美しい。
妹:「……えっ、それだけ?」
お姉ちゃん:「ええ。それだけ。」
妹:「……(沈黙)……すっごくいい!」
それから数日。
お姉ちゃんが目を光らせると、なぜか周りの人の気持ちが少し穏やかになった。
執事:「不思議ですな……お嬢様が目を光らせると、仕事の手も止まって心が落ち着く……」
母:「私たちも、もう“譲りなさい”って叫ばなくなったわ」
父:「……ウホッ(小声)」
妹:「お姉ちゃんの光、あったかいね」
お姉ちゃん:「ええ……今度こそ、本当にこれでいいの」
夜。お姉ちゃんの夢に女神が現れた。
女神:「どう? 今回は爆発してないでしょ?」
お姉ちゃん:「はい。……それに、誰も傷つかない」
女神:「“光”はね、ただ照らすだけ。でも、それがいちばん人を導くの」
お姉ちゃん:「……ありがとうございます。ようやく、平和に暮らせそうです」
女神:「ふふ、そうね。でももし次にスキルを願うときは――」
お姉ちゃん:「また来てくれますか?」
女神:「……あなたが紅茶をこぼした時にでも、ね」
それから伯爵家は、静かな日々を取り戻した。
妹は少しずつ“ほひぃぃぃ”を卒業し、
両親は“譲りなさい”を“手伝いなさい”に変えた。
そしてお姉ちゃんは、今日も穏やかな光を灯しながら、
優しく微笑んでいる。
夜の廊下で、かすかに光る二つの瞳。
その輝きは――
爆発も、ゴリラも、時間加速すら越えた、真の平和の証だった。




