― 優雅なる時間の奔流 ―
エレガント・スキル《グラース・エテルネル》が広がった伯爵家では、
時が止まったかのように完璧なマナーが保たれていた。
ティーカップを傾ける角度、
笑う時の呼吸、
すべてがまるで舞踏会の機械仕掛け。
お姉ちゃん(ため息):「……もう限界だわ。
誰も笑わない、誰も動かない、紅茶は冷めない……息苦しすぎる……!」
妹:「お姉さま……私ももう“ウホ”が恋しいですわ……」
夜。お姉ちゃんは天に向かって祈った。
お姉ちゃん:「女神様! お願い、もうエレガントじゃなくていいです!
普通の、ちょっとドタバタした日常に戻してください!」
光が揺れ、女神アモーレが現れる。
女神:「あら、せっかく洗練されたのにもったいないわねぇ。
……でも、しょうがないわ。戻すには“時の流れ”を少し動かす必要があるの」
お姉ちゃん:「動かす? どうやって?」
女神:「あなたが心の底から“時を戻したい”と思えばいいのよ」
お姉ちゃん(目を閉じて):「お願い……時よ、戻れ――!」
その瞬間、部屋中が淡く光に包まれた。
だが、どこかがおかしい。
風が吹き抜け、壁の時計が高速回転を始める。
妹:「お姉さま!? これ……戻ってません! むしろ進んでますぅぅぅ!!!」
お姉ちゃん:「えっ!? ちょ、ちょっと待って、なにこれ!?」
女神(あわてて巻き戻しの呪文を読みながら):「まさか……“戻れ”と“進め”のスペル、逆に詠んでる!?!?」
庭の花が一瞬で咲いて枯れ、
太陽が空を駆け抜け、
伯爵家の壁紙が勝手にリニューアルしていく。
妹:「あぁぁぁぁぁっ!! 紅茶が蒸発して再補充されてる!!」
お姉ちゃん:「家具が進化してる!? 椅子が勝手に学習してるぅぅぅ!!」
一日が一秒で過ぎ、
一年が十秒で巡る。
エレガントなはずの空間が、
上品すぎる超速社会へと変貌していった。
十年が一瞬で流れ、
家族は“完璧な礼儀ロボット”のように自動化されていった。
妹:「お姉さま……人々のマナーが……速すぎて見えませんわ……」
お姉ちゃん:「これもう、優雅じゃなくて相対性理論の世界よ!!!」
女神:「止めるには、“本当の気持ち”を言うのよ!」
お姉ちゃん:「えっ!?」
女神:「あなたが何を本当に欲しいのか、言葉にして!!」
お姉ちゃん(息を呑み):「私が欲しいのは――
妹と、普通に喧嘩して、笑って、ティーカップ割って怒られる、そんな日常よ!!!」
その言葉に、
止まっていた心が動き、
暴走していた時間が静かに収束した。
光が消え、屋敷はふたたび穏やかに。
妹は笑いながら紅茶をこぼした。
妹:「あーあ、またテーブル汚しちゃった!」
お姉ちゃん:「ふふ……それでいいのよ」
女神(満足そうに):「ようやく“本来の時”を取り戻したのね」
エピローグ ― “ちょうどいい時間”
翌朝。
紅茶はちゃんと冷め、風はゆるやかに流れていた。
妹は欲しい病を少しだけ克服し、
両親は相変わらずおかしなことを言っているが、もう笑って済ませられる。
お姉ちゃん:「ねぇ女神様、もう次は“普通のスキル”でお願いしますね」
女神:「ふふっ、でもね……“普通”っていうのも、けっこう難しいのよ?」
お姉ちゃん:「……たしかに」
そう言って、紅茶を一口。
いつもより、ちょっとだけ甘く感じた。
時の加速編
――完。




