― 無限贈与の果て ―
《アンリミテッド・ギフト》が授けられてから、数週間。
伯爵家の倉庫は空になり、代わりに村と街が満たされた。
・ドレスは各地で咲くように並び、
・靴は街道を彩り、
・宝石は雨のように降り注ぎ、
・婚約者(複製体)は村の人気講師になっていた。
妹:「お姉ちゃん……もう配るもの、ないんじゃない?」
お姉ちゃん:「あるわ。――“幸せ”をまだ配ってないもの」
妹:「(たぶん一番危ないやつ……)」
お姉ちゃんは毎日、笑顔で誰かに何かを渡した。
渡すたび、光が彼女の指先から消えていく。
メイド:「お嬢様……その手が……透けております……!」
お姉ちゃん:「あら、少し軽くなっただけよ」
妹:「お姉ちゃん、やめて! もうあげなくていいの!」
お姉ちゃん:「だめよ。だって私が“あげたい”って思う限り――
このスキルは止まらないの」
女神アモーレが慌てて降臨。
今度は紅茶を持たず、真剣な表情だった。
女神:「お姉ちゃん……あなた、“自己存在の限界”に触れてるわ」
お姉ちゃん:「ええ、わかってるわ。
でも、与えるたびにみんなが笑うのよ。
それを見ると、もう止まれない」
女神:「あなたは今、“あげる側の神”になりかけてるの」
妹:「神になるってことは……消えるってこと?」
女神:「そう。“個”を超えるということだから」
お姉ちゃん:「……それなら、それも悪くないわね」
その夜、屋敷から静かな光が立ち上った。
お姉ちゃんが屋上に立ち、
両手を広げると、世界中の“欲しい”が集まってくる。
お姉ちゃん:「みんな――これが、私の最後の贈り物よ」
《アンリミテッド・ギフト――フル・ドネーション》
光が世界中を包み、
人々の手に温もりと幸福が生まれた。
・泣いていた子は笑い、
・戦っていた兵士は武器を下ろし、
・誰もが誰かに“ありがとう”を言った。
そして、
お姉ちゃんの姿は、風に溶けていった。
妹:「お姉ちゃんっ……!」
静寂の中。
妹:「どこに行ったの……?」
風:「ここにいるわ」
妹:「お姉ちゃん……?」
風:「見えないけど、私はいるの。
だって、“あげること”は、消えることじゃない。
“残ること”なのよ」
妹:「……じゃあ、もう寂しくないね」
風:「そう。あなたが誰かに優しくした時、
その中に、私はちゃんといるわ」
女神アモーレは空を見上げながら、神界日誌に記した。
“伯爵令嬢、お姉ちゃん。
無限贈与スキルを極め、存在を慈愛そのものに変換。
現在、風・紅茶・まつ毛に宿る。”
女神:「……やっぱりあなた、神より神ね」
妹:「女神様、私……いつかまたお姉ちゃんに会える?」
女神:「もちろん。与える心がある限り、彼女は戻ってくる」
妹:「……じゃあ、私もスキルをあげたいな」
女神:「あら、また始まったわね」
エピローグ ― 透明な微笑み
季節が巡り、春。
妹は庭で風を感じながら、そっと紅茶を差し出した。
妹:「お姉ちゃん、どうぞ」
風がふわりと吹き、紅茶の香りが優しく広がる。
その中に、確かに聞こえた。
お姉ちゃんの声:「ありがとう。……また“あげちゃった”わね」
妹:「うん。でも、今度は二人であげよう」
風:「ふふ……いい子ね」
空に光が差し、まつ毛のような柔らかな風が舞った。
スキルあげたい編
――完。




