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与える姉と、欲しがる妹の終わらない朝  作者: はるかに及ばない


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14/24

― シュレディンガーのまつ毛 ―

風もない穏やかな午後。

空を支配した妹は、バルコニーでじっと自分のまつ毛を見つめていた。


お姉ちゃん:「また鏡の前でなにしてるの?」

妹:「……ねぇ、お姉ちゃん。私、気づいちゃったの」

お姉ちゃん:「いやな予感しかしない」


妹:「このまつ毛はね……飛んでいるのか、飛んでいないのか、観測するまで定まっていないのよ。」


お姉ちゃん:「……また変なこと言い出した。」



妹はノートを広げ、複雑な数式と毛の落書きを描きながら説明した。


妹:「もし私が目を閉じている間、このまつ毛が風に乗って漂っていたとしたら――

 それは“飛んでいる状態”でもあり、“飛んでいない状態”でもある。

 つまり私のまつ毛は、量子的重ね合わせにあるの!」


お姉ちゃん:「いや、それ、飛んでるんじゃないの?」

妹:「ちがうの! 観測されるまで結果は確定しないの!

 だから私のまつ毛は、見られた瞬間に決まるのよ!!」



その理論を証明するため、妹はまつ毛観測実験を始めた。


執事:「……お嬢様方、屋敷の屋根で双眼鏡を覗くのはやめてください」

妹:「静かに! いま“観測者”を導入してるの!」

お姉ちゃん:「いやもう完全に訳が分からないわ……」


妹:「……見えた! あっ、でも見た瞬間に動きが止まった!

 ほらね! 観測によって状態が崩壊したの!」

お姉ちゃん:「……それ多分、風が止んだだけ」



夜。妹は空を見上げながら語った。


妹:「でもね、お姉ちゃん。私、思うの。

 この世界の“欲しい”も“あげたい”も、観測するまでは決まってないのかもしれない」

お姉ちゃん:「……つまり、欲望にも波動関数があると?」

妹:「そう。私が“欲しい”と観測した瞬間、世界が変わる。

 でももし、私が観測しなければ――何も壊れない。」


お姉ちゃん:「……それ、ちょっと泣けるわ」


女神(遠くで紅茶を飲みながら):「あら、哲学が始まったわね。まつ毛から量子論に進化とは……人類もやるじゃない」



翌朝。

妹の姿が見えなかった。


お姉ちゃん:「妹? どこ行ったの?」

執事:「お嬢様……妹君の部屋に、これが」


机の上には一枚のメモ。


『私は観測されないために、まつ毛の波の中にいます。

 見ようとしなければ、いつもそばにいる。

           ――妹より』


お姉ちゃん:「……観測できない妹って、なんか怖いのよね」



エピローグ ― 観測者の微笑み


夜。

お姉ちゃんがふと窓を開けると、風が優しく頬を撫でた。


その風の中に、かすかな声が響いた。


妹の声:「お姉ちゃん……いま、私を見た?」

お姉ちゃん:「ええ。……今、ちゃんと観測したわ」


その瞬間、夜空にふわりと金色のまつ毛が光った。


妹:「……じゃあ、今日は飛んでるってことにしてね」

お姉ちゃん:「うん。おやすみ、量子まつ毛」


風が止まり、まつ毛が星のようにきらめいた。



量子まつ毛編

――完。

まさかのまつ毛で4話使ってしまった。

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