― バッサバサの姉妹 ―
伯爵家の朝は、今日もいつものように始まった。
お姉ちゃんは鏡の前でまつ毛を整え、優雅に《ラッシュ・フリューゲル》を唱える。
お姉ちゃん:「今日も静かに過ごせますように……」
フワッ……
まつ毛が一筋、金色に輝いて空を舞った。
しかし、そのまつ毛は偶然、妹の寝顔に――ピトッ。
妹:「ん……なんか、チクッとした……」
翌朝。
妹:「お姉ちゃん……なんか、目の周りが重いの……」
お姉ちゃん:「えっ!? 目を見せて!」
妹が顔を上げた瞬間――
お姉ちゃん:「な、なにこれぇぇぇぇ!?!?」
妹のまつ毛が、庭の雑草のようにボリューム満点に伸びていた。
いや、もはや「まつ毛界の森」。
女神(空から覗く):「あー……多分、スキルの“癒し成分”が移植されたわね」
お姉ちゃん:「女神様!? まつ毛が進化してるんですけど!!」
女神:「自然現象よ。ほら、人も植物も、受粉みたいなもので」
お姉ちゃん:「まつ毛を花粉扱いしないでぇぇぇ!!」
妹:「……なんだか目が涼しい……風が、まつ毛で起きるの……」
お姉ちゃん:「それ物理的におかしいわ!」
妹:「ねぇお姉ちゃん……私も言ってみていい?」
お姉ちゃん:「まさか……!」
妹:「ラッシュ・フリューゲルッ!」
ビュオォォォォォォォ!!!
――屋敷全体に風が吹き荒れる。
カーテンが翻り、紅茶が渦を巻き、
両親のウィッグが飛んだ。
両親:「おおおおおぉぉぉ!?!?!?」
執事:「お嬢様、台風警報でございます!!」
お姉ちゃん:「妹っ! そのままじゃ屋敷が吹き飛ぶわ!」
妹:「ごめんなさい! でも止まらないの! まつ毛が勝手に羽ばたいてるのぉぉぉ!!」
お姉ちゃん:「……仕方ないわ。《ルクス・オクルス》!」
ピカーッ
光と風がぶつかり合い、伯爵家は幻想的な輝きに包まれた。
光の姉 vs 風の妹――まさかの姉妹まつ毛頂上決戦。
女神(上空で紅茶を飲みながら):「うん……芸術点は満点ね」
そして――風が止んだ。
屋敷の屋根が半分無くなり、庭の木々がすべて“ふさふさ”になっていた。
(※妹のまつ毛エネルギーが飛散した結果)
妹:「……ごめんなさい、お姉ちゃん……」
お姉ちゃん:「いいの。まつ毛なんて、いくらでも生えるわ」
妹:「でも……これからどうすれば……」
お姉ちゃんは微笑んで、妹の頭に手を置いた。
お姉ちゃん:「この世界でまつ毛が濃いのは、誇りの証よ」
女神:「(メモしながら)……“伯爵家まつ毛道”……いいタイトルね」
エピローグ ― 風のまつ毛伝説
数週間後。
妹のまつ毛は落ち着きを取り戻したものの、
ときおり風が吹くたび、バサッと鳴って蝶が逃げていく。
村の子どもたちは噂した。
「伯爵家の妹さん、まばたきで風を起こすらしいよ!」
お姉ちゃんは笑って言う。
「それでも静かになった方よ。……たぶんね」
女神(小声で):「次は、鼻毛にいかないことを祈るわ」




