第7章
領事館の建物が、まばゆい朝日に照らされている。
ザラとイリーナは、領事館の屋上に出ていた。街の風景が広がり、遠くには川が輝いている。ザラは夫が命を落としたアフガニスタンでの出来事について、イリーナに尋ねた。
「アフガニスタンで何が?」
イリーナは顔を曇らせ、語り始める。
「2日目の夜に襲われた。ヘリコプターが来た時には、皆死んでた。私以外の皆がね」
ザラはイリーナの言葉に、衝撃を受ける。それは、ザラの夫が命を落とした奇襲と同じ状況だったのだ。
「ジョシュも」ザラは小さく呟いた。夫の死の真相が、目の前で明らかにされようとしていた。
イリーナはタブレットをザラに見せた。画面には、監視カメラの映像を解析した男の顔が映し出されている。
「これが写真よ」
ザラの目が、男の顔に釘付けになる。見覚えのある顔。
「キンチはどう関与を?」
ザラは、キンチが夫の死に深く関わっていることを確信した。
イリーナがその男の身元を明かす。
「この男は誰?」
イリーナは、その男が夫の死に関わっていた人物であると告げた。ザラの脳裏に、戦場の光景が鮮明に蘇る。倒れ伏した仲間たち、血の海。そして、その中に横たわる夫の姿。
「敵が倒れた」。
ザラの顔に、怒りと悲しみが入り混じった表情が浮かんだ。キンチが裏切り、夫は殺されたのだ。そして、その報復として、ジョシュが誘拐された。ザラは、この領事館に巣食う闇の深さに震える。
ザラとイリーナは、領事館の地下にある広大な倉庫に辿り着いた。そこには無数の段ボール箱が積み上げられ、薄暗い空間にいくつものトラックが停まっている。キンチは過去の罪を隠すため、必死に工作をしていた。
ザラはイリーナに、夫が命を落としたアフガニスタンでの奇襲の真実を打ち明けた。イリーナもまた、その事件に関わっていたことを告白した。
イリーナとの別れの時が来た。
「電車でフランスへ。そこからアメリカに入れる」
イリーナはザラに、自らの脱出経路を教える。しかし、ザラの目は、別の場所を捉えていた。
「あのトラックはもう出発する」
ザラは、ジョシュがこのトラックの中にいると確信していた。
「荷台に隠れるの」
ザラはイリーナに指示を出す。
イリーナは躊躇うが、ザラの強い意志に押され、荷台へと向かう。
「あなたは逃げて」
ザラはイリーナの背中を押した。
「心配しないで」
イリーナは振り返り、ザラの目を見た。言葉なく、二人の間には深い理解が生まれた。イリーナはトラックの荷台へと乗り込み、ザラは彼女を見送った。
ザラは廊下を駆け抜け、プール施設の入り口に辿り着いた。彼女は迷わず中へ飛び込む。目の前には、青く広がるプールが広がっていた。ザラはプールサイドを走り、ロッカールームへと向かう。
ロッカールームに入ると、ザラは追ってきた警備員と鉢合わせになった。男はザラに飛びかかってくる。ザラは素早く身をかわし、男の腕を掴んだ。そして、彼の体をロッカールームの壁に叩きつける。男はうめき声を上げ、よろめいた。ザラは間髪入れずに男の顔面に強烈なパンチを叩き込んだ。男は意識を失い、床に倒れ込んだ。
ザラは荒い息を整えながら、周囲を見回した。プールサイドには、他にも警備員が数名いるのが見えた。彼女は迷うことなく、プールへと飛び込んだ。冷たい水が、彼女の火照った体を包み込む。ザラは水中で素早く移動し、警備員たちの目を欺く。彼女は水面下から警備員の一人の足首を掴み、力強く引きずり込んだ。男は驚いて水中に沈む。ザラは水中で男に接近し、その首を絞め上げた。男はもがき苦しみ、泡を吹く。ザラの腕は、まるで機械のように正確で、冷酷だった。男の体が痙攣し、やがて動きを止めた。
ザラは水面から顔を出し、大きく息を吸い込んだ。彼女の目は、獲物を捉えた獣のように鋭く光っていた。
ザラはプールを後にし、領事館の内部へと戻った。彼女は新しい服装に着替え、再びジョシュの居場所を探し始めた。廊下にはアメリカ国家安全保障局(NSA)の大きなエンブレムが描かれている。ザラは、この巨大な組織がジョシュの誘拐に関わっていることを確信していた。
ザラは、キンチから奪い取ったキーカードを使い、厳重にロックされた部屋へと入った。そこは、まるで研究室のような場所だった。様々な薬品が並び、実験器具が置かれている。ザラは、この場所で何が行われているのかを理解しようと、周囲を警戒しながら進んだ。
やがて、ザラは部屋の奥で、見慣れない機械と大量のプラスチック容器を発見した。彼女は容器を手に取り、中身を確認する。液体。ザラの脳裏に、イリーナが持っていたバッグの中身がフラッシュバックした。これらは、全て薬物だ。そして、これらの薬物は、ジョシュの誘拐と深く結びついている。ザラは、この場所で、何らかの実験が行われていることを察した。そして、その実験には、ジョシュも巻き込まれている可能性が高い。




