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第4章

ザラはダクトの中を這い、薄暗い通路へと脱出した。彼女の頭の中は、ただジョシュのことでいっぱいだった。領事館のどこかに閉じ込められている息子を、一刻も早く見つけ出す。その一心で、彼女はひたすら進んだ。


通路は迷路のように入り組み、どこへ向かえばいいのかも分からない。壁には「避難経路図」が掲げられていたが、今はそれを見る余裕もない。焦燥感に駆られ、彼女はさらに奥へと足を進める。その途中、ゲストルームらしき部屋で、ザラは謎の女性と遭遇する。彼女は何かを察したようにザラを見つめていたが、ザラは立ち止まることなく先を急いだ。


しかし、行く手はすぐに閉ざされた。目の前に現れたのは、頑丈なドア。開かない。ザラは周囲を見回した。唯一の脱出ルートは、窓しかない。彼女は窓枠に手をかけ、器用に体を押し出した。ガラス張りのビルを、ザラは外壁伝いに移動し始めた。足場は狭く、一歩間違えれば転落死する危険を伴う。しかし、恐怖は彼女の脳裏にはなかった。ただ、息子を救うという使命感だけが、彼女を突き動かす。


ザラは冷たい外壁を這い、時に通気口の突起を利用しながら、建物の側面を横断していく。その姿は、まるで壁を這う蜘蛛のようだった。彼女は危険を冒して、建物内を移動し続けた。


ようやく辿り着いた通路は、薄暗く、埃っぽい。ザラは警戒しながら進む。「ジョシュ?」彼女は小さな声で呼びかけるが、返事はない。彼女は忙しく動き回るが、この建物の中はあまりにも広すぎた。どこを探せばいいのか、見当もつかない。


ザラはダクトを抜け出し、客室へとたどり着いた。薄暗い部屋の中に、人影が見える。彼女は迷わずドアを開け、中へと飛び込んだ。


部屋には、一人の女性がいた。ザラは即座にその女性に詰め寄る。

「男の子を見た?このぐらいで黒髪の子」

ザラは必死にジョシュの特徴を伝えようとする。女性は驚いたようにザラを見つめ、何かのビニール袋を隠すようにソファに押し込めた。しかし、ザラの目はその動きを見逃さなかった。透明な袋の中には、きらめく宝石のようなものが透けて見える。


ザラは鋭い視線で女性を見据え、問い詰める。

「あなたは誰?ここで何を?」

女性は怯えたように目を泳がせる。

「男の子って何の話?」

彼女はしらを切ろうとするが、ザラはすでに彼女が何かを隠していることを確信していた。

「警備に話したら?」女性はさらに追及するザラに、慌ててそう提案した。

しかし、ザラは首を振った。

「領事館の誰かが関与してる」

彼女の言葉には、確固たる信念が込められていた。この女性も、間違いなくジョシュの誘拐に関わっている。


ザラは容赦なく女性に迫る。女性は逃げようとするが、ザラは素早い動きで彼女の腕を掴み、壁に押し付けた。女性は悲鳴を上げようとするが、ザラは咄嗟に彼女の口を右手で塞いだ。もがく女性の腕を左手で完璧に封じ込め、逃げ場をなくす。ザラの目は、獲物を捉えた獣のように鋭く光っていた。彼女は容赦なく女性を床に引き倒し、その背中に膝を乗せて動きを完全に封じた。女性は必死にもがくが、ザラの圧倒的な力の前では無力だった。


ザラは客室で掴まえた女性に、激しい怒りをぶつけていた。女性は怯えながらも、ザラに懇願する。

「私を脱走させてくれたら」

ザラは疑いの目を向けたまま、問い詰める。

「あなたは誰?スパイ?」

女性は顔を歪ませ、観念したように答えた。「私はザラ」。ザラは驚いて目を見開く。自分と同じ名前。しかし、次の瞬間、女性はさらに衝撃的な事実を告白した。

「キンチは不当な容疑で監禁されていた」

ザラは困惑する。キンチ警備長が…?


その頃、キンチはザラの行動を監視し、タブレットを持つ同僚の女性と話していた。画面にはザラの詳細な個人情報が表示されている。

「彼女は特殊部隊に?」キンチが尋ねる。

同僚の女性は頷きながら、タブレットを操作する。

「近接戦の訓練を受けてる。隠密行動、潜入、脱出の訓練を受けています」

キンチの顔に、驚きと焦りの色が浮かんだ。彼はまさか、ザラがこれほどの能力を持つ元兵士だとは予想していなかったのだ。



ザラは客室で掴まえた女性に、キンチが不当な容疑で監禁されているという事実を聞かされた。混乱しながらも、ザラは女性の目を見た。

「取引は成立?」

ザラは、彼女の提案に乗ることにした。お互いの目的のために手を取り合う二人。女性は小さく頷き、決意の表情で言った。

「じゃあ倉庫に行こう」

ザラはグラスの水を一気に飲み干し、決意を固めた。「行きましょう」。


二人は客室を出て、薄暗い廊下を進む。

「女はこの建物に入った」ザラが言うと、女性は頷き、カードリーダーを示した。

「キーカードがいると言った」


その瞬間、ザラの背後から一人の男が襲いかかった。彼は警備員の一人だった。男はザラに「おい!」と叫びながら、その腕を掴もうとする。ザラは反射的に体を捻り、男の腕をかわした。そして、素早く右の拳を振り抜き、男の顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。男はバランスを崩し、よろめいた。ザラは間髪入れずに左足で男の膝裏を蹴り上げ、体勢を崩させると、そのまま背負い投げの要領で床に叩きつけた。鈍い衝撃音が廊下に響き渡る。


ザラは倒れた男の胸ぐらを掴み、その顔を覗き込んだ。

「ウソでしょ?殺したの?」

傍らに立つ女性が怯えたように尋ねる。

ザラは荒い息を整えながら、男の意識を確認した。彼は呻き声を上げ、すぐに目を覚ます気配を見せた。ザラは男の胸から手を離すと、女性に目配せをした。


ザラと謎の女性は、倒れた警備員からキーカードを奪い取り、次の扉へと急いだ。扉が開き、薄暗く埃っぽい通路が姿を現す。

「簡単すぎるわ」

ザラは警戒を緩めなかった。あまりにもあっけない。その直感はすぐに現実となる。

「捜索隊に出口の封鎖」キンチの声が、どこからともなく響き渡る。

ザラと女性は顔を見合わせる。

「何かおかしい」ザラは眉をひそめた。


ザラとイリーナは、キンチの追跡をかわしながら、領事館の奥深くにある監視室へと潜入していた。ザラの表情は真剣そのものだった。彼女は、息子がイリーナの持つバッグのせいで誘拐されたと確信していた。


監視室の中は、複数のモニターが並び、領事館のあらゆる場所が映し出されていた。ザラは手早くモニターを操作し、ジョシュの手がかりを探す。イリーナが不安げに尋ねる。

「私の脱走は?」

ザラは彼女の言葉を遮るように答える。

「次の出発は1時間後ね。ここにいなきゃ」

その言葉に、イリーナは不満そうな顔をするが、反論はしなかった。


ザラは捜索を続ける。壁にはロッカーが並び、その一つに「GLENVALE UNIVERSITY」と書かれた見覚えのあるマークを見つけた。ザラの顔に驚きの表情が浮かぶ。なぜ、こんな場所に大学のマークが?その時、イリーナが持っていたバッグから、ビニール袋に入った何かが見えた。ザラはそれを抜き取ると、中身を確認する。それは、薬物だった。

「そういうことね。クスリよ」

ザラは呆れたように呟く。イリーナは目を逸らす。



「あなたの話は筋が通らない」

ザラはイリーナをじっと見つめ、問いただす。

「本当に彼は来たの?」

イリーナは戸惑った様子で、答えに詰まる。ザラはポケットから、ジョシュのおもちゃを取り出した。それは、彼がいつも肌身離さず持っていた、黒いレゴブロックでできた小さなフィギュアだった。

「ジョシュのおもちゃよ」

ザラの目には、確信の色が宿っていた。ジョシュは確かにここにいたのだ。


イリーナは動揺を隠せない。

「あなたは正気じゃない」

彼女はザラを狂人扱いし、自分から距離を取ろうとする。

「どうかしてる」

しかし、ザラの追及は止まらない。

「誰?」

ザラは、ジョシュを誘拐した真の黒幕の情報を引き出そうとする。イリーナは何も語ろうとせず、ただ怯えたように後ずさりした。


その時、ドアが勢いよく開いた。キンチの手下たちが、部屋になだれ込んでくる。

「何するの?やめて」

イリーナが叫ぶが、ザラはすでに戦闘態勢に入っていた。彼女は部屋に飛び込んできた最初の手下に向かって、迷わず突進した。ザラの動きは素早く、電光石火の早業で相手の腕を掴むと、そのままねじり上げて壁に叩きつける。男はうめき声を上げながら床に崩れ落ちた。


しかし、次々と現れる敵に、ザラは一人で立ち向かわなければならなかった。別の男が、ザラの背後から飛びかかってくる。ザラは素早く身をかわし、男の脇腹に強烈な蹴りを入れた。男は痛みに顔を歪め、後ずさりする。その隙に、ザラは近くにあった椅子の脚を掴み、振り回して周囲の敵を牽制する。


部屋の中は、一瞬にして混沌とした戦場と化した。ザラは、かつて特殊部隊で培った戦闘技術を遺憾なく発揮する。彼女は敵の攻撃を冷静に見極め、最小限の動きで相手を制圧していく。パンチ、キック、関節技。流れるようなコンビネーションで、次々と敵を倒していく。床には、意識を失った男たちが横たわっていた。


ザラとイリーナは、イリーナの隠れ家でキンチの手下たちとの激しい戦いを繰り広げていた。ザラの攻撃は正確で容赦なく、次々と敵を無力化していく。男たちは呻き声を上げ、次々と床に倒れていった。


しかし、敵は次から次へと現れる。ザラは部屋を飛び交い、カウンターや家具を盾にしながら、敵の攻撃をかわし、反撃を繰り出す。男の一人がザラに飛びかかってきた。ザラは冷静にその攻撃を受け流し、男の腕を掴んで捻り上げると、そのまま浴室へと引きずり込んだ。タイル張りの床に男を叩きつけ、浴槽に頭から突っ込ませた。男はもがき苦しむが、ザラは一切の躊躇なく、男の頭を浴槽に何度も打ち付ける。鈍い音が響き渡り、やがて男の動きが止まった。


その頃、別の場所では、海兵隊員がキンチに報告していた。

「負傷者が2人いる。女性を拉致…」

キンチの表情は険しい。ザラが予想以上の手練れであることに、彼は焦りを募らせていた。


ザラは浴槽から男を引きずり出し、意識を失った男をその場に残して、再び部屋に戻った。イリーナが怯えたようにザラを見つめる。

「殺されかけたわ!」

イリーナの震える声に、ザラは冷徹な目で答えた。

「拉致が目的よ。ここから逃げなきゃ」

ザラは、彼女たちがただ捕らえられるだけではないことを悟っていた。彼らの真の目的は、ザラをどこかへ連れ去ることなのだ。


その時、ついにキンチ自身が部屋に現れた。彼の目は、ザラを捉えて離さない。ザラは戦闘態勢に入るが、キンチの動きは予想以上に素早かった。キンチはザラの隙を突き、背後から彼女の首に腕を回して絞め上げた。ザラは苦悶の表情を浮かべ、もがき苦しむ。キンチの腕は鋼のように固く、ザラの意識は朦朧としていく。


「ついに、ザラはキンチに制圧されてしまいます」。ナレーションが冷徹に語りかける。ザラは息ができない。視界がかすみ、体の力が抜けていく。彼女は抵抗しようとするが、キンチの力は圧倒的だった。やがて、ザラの体はぐったりと力なく垂れ下がった。キンチは勝利の笑みを浮かべ、意識を失ったザラをその場に横たわらせた。イリーナは、その光景をただ呆然と見つめることしかできなかった。










































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