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ゼノスとの模擬戦後、エルは学院側から厳重な注意を受けた。その常識外れの魔力と行動は、学院に大きな波紋を広げたのだ。これからは、目立たぬよう細々と生活しようと彼は決意する。孤独に、しかし着実に、彼は現代魔法の利点を取り入れながら自身の古代魔法と融合させ、さらなる高みを目指そうとしていた。

そんなエルの思惑をよそに、魔法の高みを目指すリリア・ヴァルハイトが彼に詰め寄る。彼女はエルの持つ未知の魔法に魅せられ、その力を手に入れたいと願っていた。

「お願い、エル! 魔法を教えてほしいの!」

リリアは真剣な眼差しでエルを見つめ、懇願した。

「ヴァルハイト家では、次期当主の座をかけた魔法対決があるの。だから、あなたの魔法が必要なのよ!」


リリアは真剣な眼差しでエルを見つめ、懇願した。

「ヴァルハイト家では、次期当主の座をかけた魔法対決があるの。それで、その…ルールがあって、当主候補は婚約者か、婚約者候補を連れて戦ってもいいことになっているのよ。だから、エルに私の婚約者のふりをしてほしいの!」



リリアの突飛な頼みに、エルは即座に首を横に振った。

「…断る。俺は目立ちたくないし、それに…そんな厄介事に巻き込まれる筋合いはない」

彼の言葉は、リリアの懇願を冷たく突き放す。しかし、リリアも簡単に諦めるような少女ではなかった。彼女はエルの表情をじっと見つめ、彼の心を動かす「何か」を懸命に探る。そして、閃いたかのように、ある提案を口にした。

「わかったわ、エル。ただでとは言わない。もし協力してくれるなら、あなたにとって魅力的な報酬をあげる」

リリアは一歩踏み出し、真剣な眼差しでエルを見つめた。

「ヴァルハイト家の書庫、その奥には滅多に足を踏み入れることを許されない『禁書区画』がある。そこには、失われたとされる古代魔法の文献や、この時代では理解不能な魔術書が眠っていると聞いているわ。もしあなたが私に協力してくれるなら、その『禁書区画』への立ち入りと、自由に研究する権利を約束する! 学院の図書館にある資料とは比べ物にならない、真の古代魔法の宝庫よ!」


リリアの提案に、エルは静かに首を横に振った。

「…悪いが、その禁書区画の古代魔法とやらには興味がない。」

(俺は既に、失われたとされる古代魔法の全てを知っているからな)

その言葉にリリアは目を見開いた。彼女の切り札が、いとも簡単に退けられたのだ。エルは、知的好奇心を満たすだけでは動かない。もっと根本的な、彼の心を深く揺さぶるものが必要だった。リリアは必死に考えを巡らせる。



リリアは、エルの反応に焦りを感じながらも、最後の切り札を提示した。

「分かったわ! ならば、ヴァルハイト家に厳重に保管されているカイルの首飾りを、あなたに譲るわ! ただし、私が次期当主になった場合だけど。当主になれば、ヴァルハイト家の全財産を自由に扱えるから、約束は必ず守るわ!」

その言葉を聞いた瞬間、エルの瞳に宿る光がさらに強くなった。彼はそれまでの無関心な態度から一変、急に前のめりになる。

「……本当か? それは確かなのか?」

彼の声は、わずかに震えていた。かつて兄カイルが身につけていたという首飾り。それがこの世界に、ヴァルハイト家に残されていたという事実に、レイルの心は激しく揺さぶられた。

「ああ、分かった。その話、乗った!」

エルは迷いなく、リリアの申し出を承諾した。


リリアは、それまで何にも関心がなかったはずのエルが、急に前のめりになって話に食いついてきたことに困惑した。


リリアは一瞬呆気にとられた。しかし、すぐに我に返り、真剣な表情で釘を刺す。

「分かったわ。じゃあ、協力してくれるのね。でも、忘れないで。さっきも言ったけど、ヴァルハイト家には古代魔法の禁書が保管されているの。つまり、対戦相手の中には、禁書を読んで古代魔法を使ってくるライバルもいるってこと。だから、ちゃんと対策しないと、あなたでも負ける可能性はあるわよ!」

リリアの言葉には、エルへの警戒と、ヴァルハイト家の次期当主争いの厳しさが滲んでいた。



リリアの言葉に、エルは静かに頷いた。カイルの首飾り。その存在は、彼の心に再び燃え上がるような情熱の炎を灯した。彼はすぐさま、再び鍛錬の日々へと身を投じた。

学院の訓練場の一室。エルは、自身の『エーテル・マトリクス』を展開していた。彼の周囲の空間が微かに歪み、目に見えない線が交錯する。これまでの彼は、失われた古代魔法の知識をひたすら再現することに注力してきた。しかし、今は違う。この500年で培われた現代魔法の理論、その「効率化」と「体系化」の概念を、自身の根源たる古代魔法と融合させようと試みたのだ。

予期せぬ進化

エルの脳裏に、現代魔法の魔力循環システムと、古代魔法の演算基底が複雑に絡み合うイメージが構築されていく。それは、これまで誰も試みることのなかった、禁断の融合とも言える試みだった。魔力が体中を駆け巡り、脳が焼けるような激痛が走る。だが、エルは止まらない。

数時間後、彼の体が突如として眩い光に包まれた。

空間そのものの「詠唱」

光が収束すると、エルの周囲の空間に、これまでとは異なる「光の紋様」が浮かび上がっていた。それは、複雑な幾何学模様でありながら、まるで生きているかのように呼吸し、絶えず変化している。彼が何かを意図するだけで、空間が、いや、世界そのものが、彼の思考に直接応えるようになったのだ。

これまでの魔法は、術者が魔力を込めて呪文を唱え、魔方陣を形成することで現実世界に干渉するものだった。しかし、今のエルは、まるで空間そのものが彼の意図を「詠唱」し、その法則を書き換えているかのような状態にあった。魔方陣の構築も、複雑な演算も、彼の「思考」一つで瞬時に、そして完璧に行われる。

それは、単なる魔法の進化ではなかった。

魔法を「使う」のではなく、魔法そのものを「存在させる」領域。

エルは、誰も到達し得なかった、「法則創生者ロー・クリエイター」の領域へと足を踏み入れたのだった。その圧倒的な力は、ゼノスとの戦いで見せた10階位の『エーテル・マトリクス』すら霞ませるものだった。

彼自身、この変化が何を意味するのか、まだ完全には理解していなかった。だが、その力の奥底には、まるで深淵のような未知の可能性が広がっていることを、本能的に察知していた。カイルの首飾りを手に入れ、ヴァルハイト家の次期当主争いに協力すること。それは、レイルにとって、想像を遥かに超える、新たな世界の扉を開くことになったのだ。


しかし、その途方もない力の覚醒は、代償を伴った。

ゴフッ、と、エルは口から血を吐いた。

彼の体が激しく痙攣する。無理やり開いた新たな領域は、500年の眠りから覚めたばかりの彼の肉体には、あまりにも大きな負荷だったのだ。魔力の回路が悲鳴を上げ、内臓が軋む。その場に膝をつき、呼吸は乱れ、意識が遠のきそうになる。

彼はすぐに回復魔法を発動させ、肉体の損傷を癒やしにかかる。だが、その回復魔法も、彼が今開いてしまった「法則創生者」の領域が生み出す魔力の反動には追いつかないようだった。

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