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エルことレイルは、入学式までの間、学院の図書館で歴史書を紐解いていた。魔王討伐後の世界がどうなったのか、その空白の500年を知るために。

彼は衝撃的な真実を知る。魔王が倒されて数百年後、世界を未曾有の疫病が襲ったのだ。原因不明の病は瞬く間に広がり、人々は「これは魔王の呪いだ」「残された魔族の仕業だ」と噂し始め、恐怖と混乱が社会を覆い尽くした。

疫病という名の絶望から、次々と新たな宗教が生まれた。その中でも特に強力な力を持った「聖光教団せいこうきょうだん」が、絶大な権力を手にする。彼らは疫病を魔王の残滓と結びつけ、魔王討伐時代の「古き魔法」を悪しきものと断罪した。魔王時代の魔法に関する文献は徹底的に焼却され、それを使う者、あるいは使おうとした者さえも、異端として容赦なく監禁し、処刑していったのだ。

こうして、かつて世界を救ったはずの魔法は、人々の記憶から消え去り、「古代魔法」として失われた。それは、後世において「人類最大の過ち」として語り継がれることになる歴史だった。


たゆまぬ鍛錬の末、エルは魔王との激戦と500年の眠りによって衰えた力を、全盛期の7割ほどまで回復させていた。そして、ついにエリュシオン魔法学院の入学式の日が訪れる。広大な式典ホールには、多くの新入生たちが期待と緊張の入り混じった面持ちで集まっていた。その人混みの中に、エルは見覚えのある紫色の髪を見つける。リリアだ。彼女もまた、エルの存在に気づくと、怪訝そうに目を細めた。

厳かな入学式が終わり、新入生たちが安堵の息を漏らしたその直後、壇上に一人の男が上がる。学院教授であり、類稀なる7階位の魔法使い、その名をゼノスという。彼の口から発せられた言葉は、新入生たちの間に衝撃と動揺を巻き起こした。

「諸君、入学おめでとう。だが、喜ぶのはまだ早い。このエリュシオン魔法学院は、生ぬるい場所ではない。本日より、諸君には『セレクション・リチュアル』を受けてもらう!」

ゼノスは不敵な笑みを浮かべ、さらに言葉を続ける。

「儀式の内容は、私と新入生全員による模擬戦だ。そして、ここで才覚を示せなかった者は、問答無用で即刻退学とする! 諸君の真価を、存分に見せてみろ!」

学院の常識を覆す突然の発表に、新入生たちの顔からは一瞬にして笑顔が消え失せた。


突然の選定の儀が始まり、新入生たちは一斉にゼノスへと向かっていく。エルは、その巨大な魔力の塊が放つ攻撃を最小限の動きでかわしながら、冷静に周囲の状況を見極めていた。彼の隣では、リリアが果敢にもゼノスに攻撃を仕掛けている。紫の髪が舞い、第2階位の魔法が次々と放たれるが、ゼノスはまるで遊びのようにそれをいなしていた。

その間にも、ゼノスの放つ広範囲魔法や、彼の一瞥からくる威圧感によって、多くの新入生たちが次々と弾き飛ばされ、地面に倒れ伏していく。彼らは実力テストという名の洗礼を受け、試験開始からわずかな時間で、新入生の数は半分にまで減少していた。

新入生の数が著しく減ったのを確認すると、ゼノスは満足げに頷いた。

「なるほど、ここまでか。ならば、これでふるいにかけてやろう」

彼はそう呟くと、右手を大きく振りかざし、部屋の中央に巨大な魔法陣を瞬時に展開する。それは、周囲の空気を吸い込み、圧壊させる第4階位の魔法、『真空牢獄ヴォイド・ケージ』だった。目に見えない圧力の壁が、残された新入生たちを襲う。

魔法が収束した後、その場に立っていられたのは、リリアとエル、そして彼ら以外にわずか数人の実力者だけだった。


序盤から果敢にゼノスに攻撃を仕掛けていたリリアは、すでに体力の限界に達し、魔力も底を尽きかけていた。彼女はゼノスから距離を取り、ちらりとエルの方を見た。

「なるほど、残ったのはその二人か」

ゼノスは満足げに頷くと、残されたリリアとエルに向かって言い放った。

「これから私が使うのは、伝説の勇者カイルが得意とした電撃魔法を駆使した技だ。その名も『雷光剣舞らいこうけんぶ』!」

ゼノスの言葉に、リリアは驚きに目を見開いた。伝説の勇者の技を目の前で見られる興奮と、それがゼノスによって放たれることへの緊張がない交ぜになる。


エルはというと(兄さんはそんな技使っていなかったぞ)と思っていた。しかし、穏やかな性格のエルことレイルは次のゼノスの発言のより急変することになる。


「だが、カイルは自身の力を制御できず、自爆した愚か者だ。私には到底及ばない、哀れな馬鹿者だったな!」

その瞬間、エルの瞳から光が消え、全身から底知れない怒気が噴き出した。カイル……兄さんの名を、愚弄された。この世界でたった一人、彼の英雄を、彼の全てを、無知な男が踏みにじった。凍りつくような怒りが、エルの内側でマグマのように煮えたぎる。奥歯を噛み締め、震える拳を握りしめる。500年の孤独、全てを失った絶望、そしてようやく見出した一筋の光……それら全てが、兄の犠牲の上に成り立っているのに。

「貴様ァッ……!」

エルの口から漏れたのは、もはや言葉とは言えない、抑えきれない怒りの咆哮だった。その身から放たれる圧倒的な魔力は、部屋の空気を震わせ、周囲の微細な塵までをも吹き飛ばすほどの勢いだった。それは、かつて魔王をも震え上がらせた、天才魔法使いレイル・アークライトの、純粋な激怒の波動だった。


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