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魔王が倒されてから500年。世界に平和が訪れて久しく、かつての激戦の記憶も、アークライト兄弟の英雄譚も、人々の間で伝説として語り継がれつつも、その輝きは薄れ始めていた。

そんな中、世界最高峰の魔法教育機関である『エリュシオン魔法学院』では、今年も入学試験が実施される。その内容は、受験者同士がしのぎを削る過酷なバトルロイヤル形式だ。試験地となるのは、500年前の魔王城跡地。かつては魔族の巣窟だったこの地は、徹底的な駆除作業によって今では安全な訓練場へと変貌を遂げていた。

主席合格を目指す16歳の少女、リリア・ヴァルハイトは、静かに闘志を燃やす。学院が用意した魔物を狩るか、あるいは他の受験者を戦闘不能にすることでポイントを稼ぎ、その合計ポイントで合否と順位が決定されるこの試験で、彼女はただ頂点だけを見据えていた。


試験地を探索するリリアの目に、手負いの少年が映った。同じ受験者だと判断したリリアは、迷うことなく攻撃を仕掛けた。16歳にしてすでに第2階位の魔法を習得している者は、他にいない。名門ヴァルハイト家の期待を一身に背負うリリアは、その圧倒的な実力に揺るぎない自信を抱いていた。

リリアは迷いなく、手負いの少年へ第2階位の炎魔法を放った。彼女が手のひらをかざすと、その前に鮮やかな赤い魔方陣が煌めき、灼熱の炎が勢いよく少年へと襲いかかる。

少年は苦痛に顔を歪ませながらも、リリアから放たれた炎へと両手をかざした。次の瞬間、驚くべきことが起こる。リリアが放った炎は、まるで意思を持ったかのように軌道を変え、彼女自身へと向き直ったのだ。

「なっ…!」

予期せぬ事態に、リリアは驚愕に目を見開く。しかし、長年の訓練で培われた反応速度は鈍らない。間一髪で防御魔法を展開し、自らが放った炎を辛うじて防ぎ切った。



リリアが初めての事態に困惑していると、少年は間髪入れずに炎の魔法を放った。リリアは即座に、炎魔法の不利属性である第2階位の水魔法で迎え撃つ。水流が炎を押し戻し、リリアは反撃の機会を窺うが、少年の炎は想像以上に強力で、防御を突破されそうになる。間一髪で身をひねり、炎をかわした。

少年の放った炎は、単調な直線軌道で、手負いのためか制御しきれていないように見えた。それでもリリアは驚愕を隠せない。不利属性の魔法を押し勝つには、本来、最低でも2階位上の魔法でなければ不可能だからだ。

「うそ……もしかして、第4階位以上の魔法使いなの!?」

リリアは混乱しながら言った。


試験監督たちは、試験会場の様子を厳重に監視していた。特に注目されていたのは、名門ヴァルハイト家の期待の星、リリアの動向だ。彼女の圧倒的な実力は、すでに他の受験者たちとは一線を画していた。

「リリア・ヴァルハイトは順調だな。やはり今年の首席は揺るぎないだろう」

一人の監督が満足げに呟いた。その時、モニターに映し出されたリリアと少年との交戦に、別の監督が目を見張った。

「…待て、今、あの少年が使った魔法は…?」

少年が放った炎魔法がリリアの防御を突破し、彼女を驚かせた瞬間、監督たちの間にざわめきが広がった。

「なんだ、今の炎は? リリアの魔法の方向を変えただと?! 第2階位の炎魔法を相手に、あの子の火力が有利属性の水魔法を押し切ったぞ…となると、最低でも第4階位以上の魔法を使ったことに…!?」

彼らは、その魔法が単なる第2階位の炎魔法ではないこと、そしてリリアの放った魔法を操るという異常な現象に気づき始めたのだ。さらに、少年が見つかったその瞬間、魔力感知装置が13階位という異常な暗黒魔法の反応を示していた。

「まさか…そんな高位魔法、ありえない。装置の誤作動だろう」

試験監督たちは困惑しながらも、その数値を信じられず、システムのエラーだと判断した。しかし、目の前の少年の常識外れの魔法は、彼らの管理体制の根幹を揺るがす、予想外の事態だった。

「あの少年は誰だ? 受験者リストに該当する者はいないか、至急確認しろ!」

指示が飛ぶと、すぐに情報が返ってきた。

「それが…検索しても情報が出てきません。まさか、不正入場…?」

別の監督が信じられないといった表情で呟く。

「いや、それよりもだ…そもそも、入場ゲートの記録にも、彼の通過履歴がない!一体どうやってこの試験区域に入り込んだんだ!?」

謎の少年の出現と、その常識外れの魔法は、試験監督たちの間に深い困惑と緊張を走らせた。


「何者なのよ、こいつ…!」

リリアは驚きと困惑を隠しきれず、思わずそう呟いた。目の前の少年は、手負いでありながら、自分の第2階位の炎魔法を操り、さらに第4階位以上の魔法を使うかのような力を見せた。その事実は、リリアのこれまでの常識を根底から揺るがすものだった。名門ヴァルハイト家で英才教育を受け、16歳にしてすでに第2階位の魔法を習得している彼女にとって、これはあまりにも予想外の、そして理解不能な事態だったのだ。


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