うめちゃも
「それにしてもあなた、本当にどこの人なの?田舎から来たっていうけど、田舎でも良い所のお坊ちゃんよね?なんか、考え方が。この組紐だって高級品よね、こんな手の込んだ模様。」
そう言って女性は私の腕輪に触れた。そのままその手は移動して私の手に重なる。私はびっくりして彼女を見た。
「ねえ、お城に勤めるのならこれからもここに顔をだすのよね。だったら私と付き合わない?ここの地限定の関係でもいいわよ。」
そう言われて、私はサッと手を引いて立ち上がった。
「すみません、この後の予定があるので、これで。」
「あら、つれないお人。まあ、いいわ。またうちの店に寄ってね。季節によって商品が変わるから。次は桃のものがお勧めよ。」
そう言いながら微笑んだ彼女は、余裕のある素振りでひらひらと手を振った。
女性が羊羹を奢ってくれたことはラッキーだったけれど、やはりそういう事だったのね。さっきから妙に女性にばかり声をかけられると思った。もしかして、この姿も失敗かもしれない。女中も滝のことを色男だと言っていたわよね。もしかして、幸光も?柚子のことしか話さないから全然思わなかったのだけれど、彼も色男なの?だとするとこの姿は変に目立ってしまうのよね、きっと。城に戻ったらもう一度考え直さないと。
そんなことを考えていたら歩くのを遮るように女性が正面に立った。
「質屋に行くなら案内しようか?」
そう言った彼女は、背が低く、ピンク色の髪をしていた。そういえば、柚子が色付きのかつらが若い子の間で流行っているのだと言っていた。少し女性というには幼い年ごろだろうか?多分私よりも幼いような気がする。頭には色とりどりのガラス玉がぶら下がっている簪や機械風の歯車がついた櫛、そして造花の大きな花が大胆にあしらわれている。
「うめちゃもって呼んで!私他よりも気前のいい質屋知ってるよ。」
気前のいい質屋とそうではない質屋があるのね。やはりこういうものはここに居る人のほうが知っているものなのだろう。私は彼女の好意をありがたく受けることにした。うめちゃもと名乗った彼女の話はとても面白かった。柚子よりももっと大衆的な観点から物を見ているようだ。流行り物に詳しいようで、今話題のお菓子の店や、人気のある役者の話など興味深いことを教えてくれた。ボディタッチが多いのは気になったが、ここの若い子はそういうものなのだろうと思った。私も年齢でいったら多分彼女とそんなには離れていないのだが、彼女のように明るい女の子にはなれそうにもなかった。
「ここが大松屋。この辺では一番名が通った質屋だよ。大きな質屋だからぼったくられないし、身の上話でもすれば少し色をつけて借してくれるよ。」
確かにそこは周りの店と比べても一際大きな店だった。大という文字を丸く円で囲んだものが中央に描かれているだけのシンプルなデザインの暖簾は出入口にまるで日よけのように掛かっている。
「案内ありがとう。何かお礼を…。」
そう言うと彼女は手の平をこちらに向けて横に振った。
「あー、いいよいいよ。お金がないから物をお金に変えたいんでしょう?お礼とか気にしないで早く行きなよ。」
「ありがとう。本当に。」
私はそう言うって彼女にお辞儀をして店に入った。ここの人達は皆良い人達なのだと思っていた。だが、いざ店に入り、交渉を始めた私はその考えを改めた。
◆◆◆
「お客さん、やられたね。あんたお上りさんだね。」
そう店員が言う。私は真っ青になってその店員を見た。
「どういう意味ですか?」
店員は気の毒というよりは呆れたような顔でこちらを見ながら言った。
「多分スリだと思いますよ。ここ最近多くて。誰かにぶつかったりしませんでしたか?」
そう言われて、自分の体に触れた人を思い出してみた。思い返せば色々な人が触れてきたが、一番ベタベタと触ってきたのは…
「あ、あの女の子!うめちゃもとかいう奇抜な服装の!」
「ああ、やっぱり。異国街の子供か。いや、しょっちゅう捕まえてはいるんですがね、奴らあの手この手でやり方を変えてくるんですよね。お気の毒です。」
別にパールや魔石はいいのだが、露葉になる腕輪、あれだけはないと城に帰れない。
「その異国街の子供達って何ですか?異国街っていう所に行けば会えるんですか?彼女が盗んだ袋の中に大事なものが入っていてどうしても取り戻したいんですけど…。」
「うーん、本当によっぽどの物でなければ諦めることをお勧めしますよ?異国街には異国人だけじゃなくて先の戦争の負傷兵や戦災孤児なんかもいて治安が悪いんです。だからお奉行様もあまり真剣に介入しなくて。お上りさんなら尚更危ない目に遭うと思いますよ。」
しばらく迷った。ここで危ない目に遭ったらきっと一生外に出してもらえない気がする。それよりは自分の姿で帰って怒られた方が良いのでは?そう思ったが、あれが悪用されたら露葉が犯罪者に成りすまされて犯罪を行った罪で捕まることも考えられる。迷った結果私は店員に異国街の場所を聞いた。
雷の魔法が使える自分の力を信じて。