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親類との出会い


「やめなさい。鶴一(つるいち)。何をしているの?」


 そう言ってその女性は子供を抱き、そっとその子供の手を開いた。身動きが取れるようになった私は立ち上がって言った。

「ありがとうございます。可愛らしいですね。おいくつですか?」

そう言うと、女性は腰を屈めながら言った。

「五つになります。何もかも興味があるようで手を焼いております。」


 女性はそう言って屈めた腰を伸ばした。彼女は私よりも小柄で、私の肩くらいに頭があった。

真っ直ぐで艶めいた美しい黒髪は彼女の膝程まで伸びているのに絡まりもしていない。私の癖のあるウェーブのかかった髪とは大違いだ。


「貴方、レイチェル様ね。私はカナリ様の弟の妻、柚子(ゆず)と申します。本来こちらから伺わなければならなかったのに、こんな形になってしまってごめんなさい。少し体調を崩していて。」

「それは大変でしたね。もう体調はよろしいのですか?」

私がそう言うと、何故か一瞬間を空けて彼女は口を開いた。

「ええ。ありがとうございます。」

そう言って微笑む彼女は可愛らしく、あの銀細工の簪についていた丸いフォルムの鳥を思い出した。

「でも、異国の方とはこうも美しいのですね。まるで日の光を溜め込んだような金色。目が覚めるようです。瞳も紫色の水晶みたい。羨ましい。」

「あ、ありがとうございます。けれど、貴方の艶のある真っ直ぐな黒髪のほうが、私には羨ましく思います。きっとこの国の基準からしても貴方はお美しいのでしょうね。」

女性が口を開きかけたが、それを遮るように隣に立つ男性が話始めた。


「当然です。柚子は私の最愛。この国どころかこの世界の何より美しい女性です。」

柚子はそう言われて顔を扇で覆った。耳が赤くなっているのが分かった。

「貴方は見る目がおありのようだ。レイチェル様。私はカナリ様の弟。幸光(ゆきみつ)と申します。どうぞ、お見知りおきを。」

幸光は鶴一と同じ黒髪に金の目をしていて、私は鶴一が育ったら彼のようになるのだろうと思った。その長い髪は頭上より少し下で纏められていて、独特な髪型だと思った。小金も髪は長かったので、この国の男性達は皆髪を伸ばすのかもしれない。


「あら、その着物…。」

柚子が私の着物に目を留めた。

「何かおかしな所がありますか?」

「いえ、その着物、とてもよくお似合いだと思って。」

そう素直に褒められると、なんだか照れてしまう。きっと柚子は人の良い所を見て生きている人なのだろうと思った。

「露葉に言われて私が選んだのですが、歓迎式典でお見かけしただけでしたし、お好みに合うのか不安だったのです。やはり大きな柄がお似合いのようですね。」

その言葉に引っ掛かることがあった。

「こちらはカナリ様からの贈り物ではないのですか?」

私がそう聞くと、彼女は明らかに動揺した。

「も、もちろん、カナリ様からですよ。数点女性目線のものも欲しいからと露葉に頼まれただけです。ほんの数点です。」

嘘だということは私にもわかった。あの態度で贈り物なんてするはずないわよね。ああ、気を使わせてしまったわ。

「そうなんですね。女性の感覚はやはり女性の方が分かっていますね。この着物の柄の花はなんと言う名前なのですか?」

そういうと、柚子は安心した様子で話をしてくれた。


私は、大丈夫。そう自分に言い聞かせて笑顔を作った。


◆◆◆


 結婚式の当日、人形のように飾り立てられた私は女中が呼びに来るまでこの部屋で待機しろと言われたので、カレンと軽い雑談をして過ごしていた。親族は入室してもいいらしいのだが、私の部屋には誰も来なかった。

「あ、そうそう、式の間、これも持っていて下さいね。」

そう言ってカレンが黒塗りのお盆に乗せて何かを持ってきた。

「これは我が国で結婚式当日に持っていると幸せな結婚生活を送れるという言い伝えがあるものです。こちらの国で言う“縁起物”ですね。ここのものじゃないけど、どうせ隠して持ってるだけなんだからばれませんよ。」

お盆に乗っていたのは四つの魔石。古びた茶色の魔石、逆にピカピカの真新しい赤色の魔石、緑色の魔石、青色の魔石。それらを掌に収まるくらいの小さな起毛の袋に入れ、胸元に忍ばせた。

「古い魔石、新しい魔石、誰かから借りた魔石、青い魔石。結婚が決まった日にすぐに用意したんですよ。」

そう言ってカレンは笑う。


「実は、私はレイチェル様にこういった日が来ることはないと思っていたので、今日という日は本来ならとても喜ばしいのです。実際、結婚話が来た日には一日中涙腺が緩みっぱなしで事あるごとに泣きました。」

カレンも私と同じように思っていたのだなと、やはり長年付き添ってくれていただけあるなと思った。そしてカレンは私のことをもしかしたら自分の子供のように思ってくれているのかもしれないなとも思った。

「それなのに、このようなことになって。本当に、例え相手が他国の王でも殴り倒してやりたい気持ちに今でも変わりはありません。この先、どんな生活が待っていても、私は一生レイチェル様の味方ですからね。」

そう言うと、カレンが歯を食いしばるような表情で泣き始めた。そんな顔をされると、私の目にも涙が盛り上がってきてしまう。

「カレン、泣かせないで頂戴。私まで泣きたくなってお化粧が崩れてしまうわ。」

「うううー、すみませんー、し、幸せになって下さいー!この式が終わったら、あいつのことも家族のことも全部ポイってしていいですからー!幸せになるんですよー!」

私はカレンの手を強く握り、何度も頷いた。


(じき)に女中がやってきて準備が整ったと告げた。


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