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機械と興味


「今日はお疲れでしょうから、自己紹介だけ。明日また伺います。身の回りのことは遠慮なく露葉に仰って下さい。では、私はこれで。」

小金は(うやうや)しくお辞儀をして部屋から出て行った。


「露葉には、まずあの箱の使い方を教えて欲しいの。」

そう言って私があのハンドルの付いた大きな箱に顔を向けると、露葉も顔を向けたのだが、途端に何か衝撃を受けたような顔になった。

「箪笥がどうとかいう以前に、衣紋掛けに、そんな、無理やり…何故…。」

やはりあのラックの使い方も間違っているみたいだ。

「あんたが早く来ないからこうなるんでしょ?さっさと身の回りのこと教えなさいよね。レイチェル様のことは全部私がお世話するんだから。」

カレンがそう言うと、露葉が溜息をつきながら衣紋掛けに掛かったドレスに手を掛けた。


 露葉とカレンは喧嘩をしながらも意外と手早く部屋を整えていくので、お払い箱になった私は自分の持ってきたものを整理し始めた。とは言え、塔暮らしの私にさほど思い出深いものは無く、持ってきたのは母に貰った熊のぬいぐるみと、兄達に貰った貝殻や玩具の腕輪等。全て、私が幼い日に貰ったものなのでどこか古めかしいガラクタばかりだった。比較的新しいものはカレンに貰ったもの達。カレンは誕生日の度に私に贈り物をくれた。真珠をあしらったブローチや、町で流行っていた香水等、実用的ではなくとも見目麗しいそれに私の心は浮き立った。私は、それらを一つ一つ箪笥の上に並べた。カレンがくれたもの以外はバッグに入れたまましまった。そして、私はカバーが掛かった鳥籠を手にした。それを窓、というか、紙を貼ってある木の枠?の、手前に少しだけ突き出している台のようなスペースに置く。その前に膝を折って座り、カバーを外し、鳥籠の中にころりと横たわる物体を取り出す。そっと、その物体をくるんでいる布を除き、中から鳥の模型を取り出した。その模型は、羽根は機械仕掛けになっていて、口を開けると魔石が奥に埋め込まれている。私はそっと鳥の口に人差し指を入れ、魔石に触れた。僅かに、本当に少しだけ小さな小さな雷を指先から放出するような感覚で、私は魔力を込めた。途端、鳥の模型の瞳に光が宿り、パタパタと辺りを飛び回る。


「レイチェル、おはよう。元気?」

私の手首に止まった鳥はそう言って首を傾げた。

「凄いですね。どう言う仕組みですか?」

左肩の方で声がしたので、顔をそちらに向けると、露葉の顔があった。期待のこもった目をしていたので、おそらく露葉もこういったものが好きなのだろうと推測できた。

「この国のものに似ていますが、動力が違うのかな。しゃべるのも凄いですね。」


「ありがとう。これ私が作ったの。」

そう言うと露葉は驚いた。

「え、凄い。レナンの玩具なのかと思いました。」

玩具と言われても、私もあの国のものにそんなに触れてきたわけではないので、一般的にこういう玩具が流通しているのかは分からない。だが、カレンの話から推測すると、おそらくこういったものはあまりないのだろうと思われたので、私はそういうていで話を続けた。


「そう言えば、私の国ではあまりこういう機械のようなものは見たことがなかったわ。魔法があったからかしら。」

「そうですね。レナンは魔石も豊富に採れますし、王族の方は皆魔法が使えるそうですから。奥方様はどういった魔法が使えるのですか?」

僅かに心臓が跳ねた。

「王族の中にも魔法が使えない人は、実はいるの。私もそう。」

嘘をついてしまった。また怯えた目で見られたり、閉じ込められるのは嫌だった。

「申し訳ありません。失言を。」

露葉は心から謝罪しているようだった。この子は信頼できる人になるかもしれないと思った。

「ううん。いいの。本当のことだわ。」

そう言いながら私は小鳥の顎に人差し指を当ててすりすりとすった。小鳥は気持ちよさげに目を閉じている。

「だから私、こういったものを作るのが好きになったのかも。」

そう言うと露葉が一呼吸分間を空けて口を開いた。


「これは、何か参考にして作ったんですか?それとも誰かに師事して?」

そう言って露葉も小鳥の頭を人差し指で撫でる。

「これ、実はキンサ国の機械について書かれている本を読んで作ってみたの。この子は31代目。」

そう言うと、露葉が意外そうな顔でこちらを見た。


 塔でできる唯一の情報収集は本を読むことだった。私は初め、雷について調べた。雷を調べるうちに電気というエネルギーがあることが分かった。そして次は電気について調べた。そうやって線を辿るようにして調べていった先に、機械というものの存在を知った。それについて詳しくかかれたその本はキンサの本だったので、動力源は石炭だったが、それは、電気に置き換えることができるような気がした。見様見真似で、夢中で作った。時間はたっぷりあったから。カレンは絶対に言わないが、鉄板や銅線等欲しがるなんておかしな姫だと更に気味悪がられたことだろう。この小鳥を造ることができたとき、嬉しいというよりもやっとできたという思いのほうが強かった。やっと、一人の時間が無くなる。カレンは城内の仕事もあったから、ずっと一緒というわけにいかなかった。月の出ない夜に、灯りはあれども、一人で過ごすのは怖かった。だから、もっともっと、あの塔で沢山機械を造るつもりだったのだが、どういうわけか今この場所にいる。私に機械というものを教えてくれたこの場所に。


「だから私、実は少しこの国に来ること自体が楽しみだったの。本場ではこの機械っていうのがどうやって動いているのかなって。私が想像した以上だった。とても興味深いわ。」

蒸気機関車、飛行船、本で見たものばかり。私の国にも似たようなものはあるのだけれど、動力原が魔法だからかやっぱり少し違う。ああ、もっと色々なものを見てみたい。


「だからやっぱり外に出てみたい。こういったことは誰に頼むのがいいのかしら。露葉は知っている?」

「…申し訳ありません。先ほど生意気なことを言いましたが、私は只の女中なので、本当にそう言ったことは詳しくなくて。」

心底申し訳なさそうにそう言われると、私ももう何も言えない。

「ごめんね。困らせてしまって。他の方に聞いてみるわ。片付けに戻って。」

私がそう言うと、露葉は深々とお辞儀をしてまたカレンとの部屋の片づけに戻った。


 露葉が帰った後、カレンにも長旅の疲れが見えたので、今日は二人とも早々に休む事にした。



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