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【残念だけど……】

 来週、次のプロジェクトを決めるミーティングが開催される。僕は何としてもそこで自分の実力をアピールしたい。とは言え、いくら考えてもこれといった案を出せずにいた。

「ようヒロシ、調子どうだ?」同期のマモルが僕の肩を叩いて聞く。

「最悪だよ、ずっと考えているけどさっぱりだ」

「ああ、来週のアレか。だけど、お前他にも先週のトラブルで主任から対策を求められてただろ?」

「すっかり忘れていたよ。いつものことだ、主任は仙台へ出張にいっている。帰って来る頃には忘れるさ」僕はそっけなく答えた。

「お前なぁ、そうやって、おざなりにするのは良くないぞ」

「分かってるよ。でも今回は見逃してくれよ。煮詰まっちゃって企画の叩き台すらできてないんだ」

「そんな状態で乗るか反るかの勝負に出たって難しいと思うぞ」

「大丈夫、まだ時間はある」そう言いつつも僕は焦っていた。

「チリーン」パソコンのモニターにメールが届いたことを知らせる通知が表示された。

 僕はメールを開いた。送り主はスティーブ。去年アメリカの支社からうちの部署に一か月研修に来た人物だ。


“I’m coming!”


メールはその一文のみだった。

「お前、英語できたっけ?」モニターを覗きこみマモルが意外そうに言う。

「全然だよ。翻訳サイトを使ってる。でも流石にこれくらいはわかるよ。『私は来る』来週のミーティングのことだろう」

「ふーん」マモルは特に興味がなさそうだった。

「そう言う君はどうなんだ?」僕はマモルに尋ねた。

「俺はもうほとんどできている。あとはさらに細かいところを見直していくよ」

 マモルはとにかく細かい、細かすぎてダメにしてしまうこともよくある。微に入り細を穿つというやつか。始めて会った時はそんな風ではなかった。意識的にスタイルを変えたのか、無意識なのかはわからない。

「ところで君は僕に何か用があってきたんじゃないのかい?」

「ああ、ヒロシはパソコン得意だろ。で、俺のプレゼン資料の細かい直しを手伝ってもらえないかな、なんてな」

 空気が読めないやつとは思っていたが、これほどまでとは、僕はため息混じりに口を開く。

「あのなぁ、無理なことくらい見てわかるだろ」

「そこを何とかちょっとだけでいいからさ、藁にもすがる思いで来てるんだ。頼むよ」

「ちょっとだけだぞ」僕は気分転換がてら、マモルの作りかけの資料をモニターに表示した。

 その時、オフィスのドアがあき、青と白のボーダーシャツを着た配達員が「お届けものです」と言うのが聞こえた。

「宅急便か、俺が対応するよ」そう言ってマモルは荷物を受け取りに行った。

「何だいそれ?」

「主任からお前宛だ」

「主任って仙台からってことか」僕は箱を受け取り中身を確認した。

「笹かまか」主任が差し入れだなんて晴天の霹靂もいいところだ。その期待を裏切るわけにはいかないな。

「いいとこあんじゃん」マモルは笹かまを一つ摘んで口に入れた。

「それ食ったら帰れよ」僕はマモルの資料を閉じた。

「え、何言ってんだよ! 俺の資料は?」

「情けは人の為ならずだ」

「ひでぇ、分かったよ。お前も頑張れよ」マモルはそう言い残し去っていった。

 僕はミーティングでプレゼンをする代表者リストをモニターに表示した。そこには一際偉才を放つルーキーの名前があった。勝ち気で、何かにつけて目上の人間のアラ探しを得意とするいけすかないヤツだ。大方プレゼンで僕に恥をかかせて打ちのめそうと画策しているだろう。

 笹かまを貰った手前、トラブルの件もし崩しにはできなくなった。

「見ていろよルーキー、お前の思い通りにはならない」僕は大きく息を吐いてから呟く。

「残念だけど、……」


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