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【三題噺】

 三題噺さんだいばなしというのはもともと落語、寄席で客席から三つのお題をいただき、即興でストーリーを作るという物です。マスコミや編集の採用試験にも取り入れられているとか。

 私は知恵袋でショートショート修行をしてた時に、ネタを考えるのが面倒くさくなって、お題を募集しました。そこでいただいたのが【タイムトラベル】というお題。こちらの【あなたを騙すショートショート】に追加しておきました。そして第二回お題募集をしたところで、この三題噺というものを教えていただきました。

 そこで提示されたものは「三題噺のお題メーカー」というサイトからの出題で、とにかくクセの強いお題が多く、頭を悩ませるものでした。それをまとめて鍛錬場に【三題噺】として投稿し、それ以降も毎日三題噺のお題メーカーからのお題を消化してコメント欄に追加してたんです。よくよく考えてみると、それは規約的にアウトなんですね。こちらのサイトにもいくつかまとめて掲載してあります。そんな中、作家でごはん! の重鎮的存在な方から、かつて【三語即興文】といういにしえの企画があったことを教えて頂きました。先のチャプターでも触れた通りですが、コメント欄を利用して誰でも二週間縛りに関係なく作品を投稿することができるというものです。そして、途中から【三題噺】改め【三語即興文】として、かつての企画のルールにのっとり運用していくこととなります。何人かの方々にご参加頂けたんですが、過疎化してしまって誰も参加者がいなくなってしまいました。私は個人的に面白いと思っていたので何とか存続させようと試みます。このルールでは同じ人が続けてはいけないなんてものはないので、私は自分で出題し、自分でそれを回収することとします。とは言え、先に作品を書いてその中に入っている言葉から三語を選んでいるのではないかと疑惑が湧いてしまうとよろしくない。そこで、私が作為的に選んでいるわけではないことの証明として、三題噺のお題メーカーを利用するか、新着鍛錬場投稿作品のタイトルから拝借する手法をとりました。三語のルール上、投稿する際は前の作品の感想を書くことが必須です。ただし、感想のみの投稿は禁止です。つまり、私は自分で書いた作品に自分で感想をつけて、自分の出題を消化して、自分で次のお題を発表するわけです。完全に危ない人です。独り言キャラというイメージは不動のものとなりました。もう触れちゃいけない人認定です。恐らく、ルールを確立した方々もまさかそんな使い方をすることなど想定外だったのではないでしょうか。

 ともあれ、この三題噺というものはなかなかに有意義です。普段書かないジャンルでも指定されれば何とかしようと考えます。また、何でもいいから書いてと言われるとかえって難しいものです。「夕飯何がいい?」と聞いて「何でもいい」と言われる時の心境に通じるものがあるのではないでしょうか。何より頭の体操的に楽しいとも感じていましたし、元々私はラストからストーリーを考えて、使えそうなネタを何でもいいから寄せ集めて、それが自然に繋がるように考える作風だったので自分に合っていたんだと思います。

 こうして、三題噺は私の十八番となり鍛錬場に毎日投稿できる自由帳を手に入れたことになりました。


 ちょっと話が飛びますが、私は鍛錬場の作品より、そこのコメントを読む方が好きです。色んな人間関係やそこから垣間見える感情を観察するのが面白いんですね。ろくでもない趣味です。

 そこで、浅野先生の過去作です。私の知らない、作家でごはん! の方をイジったパロディもののようです。コメントの一つに、面白いけど本人に怒られないかなと懸念する声がありました。

 それに対して浅野先生は、「もし自分を使った作品を書けるなら書いてみろと思います。ただし面白くしろ」的なことが書いてありました。

 それはありがたいとばかりに、私は浅野先生をモデルに三題噺で作品を投稿しました。それをここでご紹介します。


【太陽】【リンゴ】【希薄な目的】


ジャンル:悲恋


「例えば、……」ゼミ講師の大野は用意していたリンゴを手に取り生徒たちに問いかける。

「君たちは、このリンゴを見て何を連想する?」

「赤い!」何人かの生徒が声を揃えて言う。

「そうだ、他には?」

「リンゴ飴! アップルパイ!」

「その調子だ、まだあるぞ」

「青森!」

「そう、名産地に目をつけるのも良い。信州もそうだ。どうだ、それだけか? 他に連想するものはないか?」

「はい!」一人の女子生徒が手を上げた。

「では、浅丘くん」

「はい、喉仏と紐育ニューヨークです」

 

 浅丘恭子


 大野の受け持つゼミで一際異彩を放つ生徒であり、それゆえ他の生徒たちから浮いた存在でもあった。

 恭子に好奇な視線が集まる中、大野は口元をゆるめながら力強く答える。

「そうだ。英語に変換して考えることも有効だ。Adam’s apple, The Big Appleといった具合だ」

 恭子は満足そうな笑みを浮かべて、静かに手を下ろした。

「リンゴ一つとっても、視点や切り口を変えれば実に色々な物が見えてくる。これは論文を書く際に必ず役に立つ。君たちには常にそういったことを心がけてほしい」そう言って大野はリンゴを齧った。


 大野はいつからか、親子ほど歳の離れている恭子に対して恋心を抱くようになった。最初は他の生徒とは異なる面白い着眼点を持つ女子生徒としか見ていなかったはずなのに、次第にその、どこか人を惑わすような蠱惑的こわくてきな魅力にひかれていった。


「先生! 今日の講義も面白かったです! この後一緒にお茶しませんか?」恭子が無垢な笑みを浮かべて言う。

 大野にとって願ってもない誘いだった。講師と生徒の禁断の恋。二人きりになれるのは神が与えてくれた千載一遇のチャンスだと感じた。


 カフェへと向かう道すがら二人は文学の話に花を咲かせた。大野には性急なところがあった。男である以上、やはり肉体的な関係を求めてしまう。そして、女性もまた、すましていても考えていることは男とたいして変わらないと信じていた。


「アイスコーヒー2つ」

 注文を済ませ、ウェイトレスが去ったのを見計らい大野が切り出す。

「恭子くん、君に是非読んで欲しい本があるんだ」

 大野は普段からカバンに何冊か本を入れて持ち歩いている。そのうちの一冊は、元都知事が執筆した「太陽の季節」という大野にとってはバイブルとも言えるものだった。もし今の時代に出版したなら大問題になるような性的表現満載の一冊であり、これを恭子に読ませたあと感想を交わすという名目で性の話題を繰り広げようという狙いだった。

「わー、何ですか? 嬉しい!」恭子は無邪気にはしゃぐ。

「アイスコーヒーお待たせしました」

 ウェイトレスは二人の前にアイスコーヒーを置き「ごゆっくりどうぞ」と一礼して戻っていった。

 大野は笑顔がこぼれぬよう、努めて冷静にカバンの中に手を入れた。


「あ、でも『太陽の季節』だけはやめてくださいね。私あれ読んだことがあるんですけど、何ていうか本気で気持ち悪くて、吐き気がするというか、生理的に受け付けないんです」

 大野の手が止まった。

「あれって、女性は男にとって欠くことのできない装身具とか、自分が弄んだ女の人に中絶手術を強要して母子共に命を奪っておきながら、死ぬ事で一番好きだった、いくら叩いても壊れない玩具を自分から永久に奪ったとか意味不明じゃないですか?」

 大野の額に汗が滲む。

「あと、高級宿でみなぎる凸部を障子に突き立てて破るって、何やってるのって感じですよね。通報案件ですよ」恭子のおもいは止まらない。

「いえ、いいんですよ。どんなジャンルが好きかは人それぞれです。いいんですけど、私的には、女性をいやらしい目でしか見ていない希薄な目的で書かれたものとか幼女趣味ものとか異常性を感じる性癖とか拒絶反応が出ちゃって最後まで読めないんです」

 大野は一旦カバンから手を引っ込め、アイスコーヒーでカラカラになった喉を潤した。

「ダメですね私ったら、ああいうのを喜んでる人たちを見ると虫酸が走っちゃって、同じ人間として見れないんです。あ、でも先生に限ってそんなことあるわけないですよね。ごめんなさい。それで、何ですか、その本って?」

 大野はカバンから一冊の本を取り出してテーブルに置いた。


“人間失格”


 もはや自分は完全に人間でなくなりました



 この大野というキャラが浅野先生をモデルにしたものです。私はリアルにはよく知らない方で、同じく医者で下ネタ路線のごはん作家に大丘さんという方がみえます。大野はお二方の名前の組み合わせです。浅丘もそうです。ちなみに恭子は、浅野先生作品によく出てくる京子由来です。

 普段私一人で回している三題噺に感想はつかないんですが、三語即興文を教えてくれた重鎮の方からお褒めの感想を頂きました。私的にも上手くできたと思っていたんですが、浅野先生は違ったみたいです。その後、浅野先生は先の過去作のパロディのキャスティングを変更して投稿します。そこで、私は「林檎」というキャラクターで描かれており、重鎮の方を誹謗中傷する内容になっていました。内容が内容なので、本文はその後削除されました。私も自分をモデルにされることは良いのですが、思うところはありました。



 全く面白くないと。


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