第98話 たった一輪の華 その⑤
実際、金之助には特殊効果というものがあった。
金之助さえもしらない、特殊な効果。特殊な肉体。特殊な……耐性。
金之助は、元々山育ちであり、動き回ったことにより体力、および肉体が成長していた。
山に対して、その肉体が適応しようと動いた結果である。
では、その山とは何か?
山とは、自然。
自然とは何か?
人間の手が加わっていない、山、川、海、動植物など「あるがまま」の存在を指す。
元々ある、ありのままの姿のこと。
その自然に対し適応しようとした肉体は、通常の人間ではありえない成長を遂げた。
怒れ、荒れる山に。
恐れ、渦巻く河に。
揺れ、動き続ける地面に。
噴火し、溶ける溶岩に。
「おおおおらぁああああああああああああっ!!!」
その身に、能力を宿したことによりさらなる力が増した。
その結果、彼は現在……存在する人類の中でも、通常の男性の10倍もの力を振るうことが出来た。
「そらぁ!!!」
「グゥアッ!!!?」
金之助の蹴りで思い切り吹き飛ばされたアクゼリュスは、一つ目のコンテナを突き破り、二つ目のコンテナにぶつかり止まる。
金之助はその目の前に来て、追撃をかけるように顔面を蹴り飛ばす。
「そぉっら!!」
その後、空中で一回転し、横脇腹に蹴りを入れ、ゴロゴロと転がす。
アクゼリュスの向かう先には……鬼円が立っていた。
「『日輪・戌之太刀』!!」
木刀を振り上げたことによりアクゼリュスが、空を舞う。
そして、飛び上がったのはアクゼリュスだけでは無い。
「『日輪……!!」
「『黄金ノ斧……!!」
アクゼリュスが目を見開き、鎌を構える。
が、そんなものは既に破壊されていた。
アクゼリュスの顔面に、腹に、木刀と鉞が刺さり、骨を折り、振るわれた。
「……雉之太刀』ッッ!!!!」
「……八重斬』ッッ!!!!」
二人の渾身の一撃が叩き込まれる。
凄まじい速度で地面に激突したアクゼリュスは、ひび割れた地面に倒れ込む。
その後、鬼円と金之助が各々武器を構えたまま地面に降り立つ。
「やった! 鬼円! 金之助君!」
「……これで終わる思うか?」
鬼円のつぶやきに春乃がえっ、と声を出す。
金之助は静かに息を吐いて、オーラを再び滾らせる。
「……心音? こいつっ!! まだ生きてる!!」
金之助の叫び声が響いたかと思うと……。
まるでドス黒い、気配のようなもの。言い表しようのない、何かが春乃達を襲う。
春乃は口元を抑え、鬼円は目を見開き、金之助は鉞を構えた。
そうして。
鬼円の木刀と、金之助の鉞がスッパリと斬られた。
「っ!!?」
「なっ……!?」
一瞬。
二人の武器が斬られたのは、ほぼ同時に、一瞬であった。
鬼円は春乃を持って、金之助は地面に落ちてあった石を持って。
アクゼリュスが立ち上がる瞬間に逃げ出した。
「痛ってぇ……痛ってぇぞ……このドブ野郎ども!!!!」
アクゼリュスの声が聞こえたかと思えば、周りのコンテナや機械が真っ二つに斬り落とされた。
春乃はその光景は、口を開いて見ているのとしか出来なかった。
アクゼリュスの姿は、先程とは異なっていた。
まるでカマキリのように、両腕が鎌で出来ており、歯がギザギザと変形していた。
そしてなによりも。
「なに、あれ……さっきより、大きくない!?」
春乃の言葉の通り。
アクゼリュスの身長は、コンテナよりも少し小さく、しかし、明らかに鬼円よりも大きくなっていた。
この場にいる、高身長は鬼円であった。
その鬼円よりも大きくなった、ということは……つまり。
「ごはっ!?」
アクゼリュスが飛びかかり、鬼円を蹴り飛ばす。
コンテナごと蹴り飛ばされた鬼円は、ぐちゃぐちゃに潰されたコンテナの上に倒れ、頭から血を流し、左腕があらぬ方向に折れていた。
次に、金之助が勢いよく石を投げる。
しかし、その石は当たっただけで、貫くこともなく、また、痛みなど無かったかのように、アクゼリュスが笑い始める。
「ハハハハハハッ!! ここまでさせたことを地獄で自慢して回るといいぞ! この姿にさせたのは、久々だからなぁ!!!」
「ぐあああああああああああ!!!?」
自身の腕を使って、金之助の脚を刺さしたアクゼリュスは高らかに笑う。
金之助の脚をグリグリグリ、とねじり、悲鳴を楽しむように笑う。
「っ、あっ……」
鬼円から投げ出された春乃は、アクゼリュスを見て汗を垂らす。
倒れてピクリとも動かない鬼円。悲鳴をあげて、痛みに耐える金之助。
春乃は、動けなくなって…………
「……っ!」
……いなかった。
春乃は、金之助から貰っていた鉞を持って、立ち上がる。
その目には確かな決意を宿していた。
「やるか? 俺と?」
「……そんなに、私がご所望ならね!」
春乃が走り出す。
アクゼリュスの鎌が春乃に迫る。
(躱す!? 無理だ! なら、耐えるしかない!!)
春乃はアクゼリュスの鎌に目掛けて鉞を立てる。
鉞はピキっ、と音を鳴らし、春乃は建物の壁に激突する。
背中に鋭い痛みが走り、倒れ込む。
「げほっ、ごほっ……!」
しかし、春乃は立ち上がった。
春乃は立ち上がり、たしかにアクゼリュスを見つめた。
「……いいぜ、存分に殺してやるよ!!」
春乃は汗を垂らして、鉞を持つ。
ゆっくりと深呼吸をして、しっかりと目の前の相手を見据える。
「……行くよ、快弦ちゃん」
その声は、震えていた。
震えていた、がしかし……気合を入れるには、充分すぎる声だった。




