第97話 たった一輪の華 その④
跳坂金之助は、人助けが好きである。
それは、昔見たヒーローもののアニメを見たからであり、そもそも……彼は人に優しかった人間であったからだ。
「いつか、ヒーローになってみたいっす! 誰かのヒーローになってみたいんすよ!」
金之助ならなれるよ、と。家族やほかの人間からも言われていた。
金之助は、その言葉を背中に背負って歩き続けてきた人間だ。
「もうこんなことしちゃダメっすよ」
子供たちを逃がす、金之助の姿があった。
元々……生まれつき、無意識に能力を扱えた金之助は、加減というものを知らなかった。
けれども、それを絶対に他人に使うことはなかった。
本能的に、使ってはいけないと感じていたからだろう。
それから、金之助は人を助けることが多くなった。
道端を歩いているおばあちゃんの荷物を持つ。
泣いている子供がいれば、目線を合わせて何があったのかを聞く。
カツアゲにあっている人間がいれば、例え相手が年上だろうが助けに入る。
金で困っている人間がいれば、持っていた貯金を手渡す。
そうやって、人を助けてきた。
それが、正しいことだと信じて助けてきていた。
彼が道を踏み外すことはなかった。
どれほど嫌味を言われようが何をされようが、ヒーローには逆境が付き物! と考えた。
彼は、人を助けると共に……能天気でもあった。
やればなんとかなる、進めばなんとかなる、とりあえず何とかなる。
そんな、なんの根拠もない勇気と能天気さで、歩き続けてきた人間だ。
だから、付き合うということも、誰かを愛するということも全く考えていなかった。
彼が変わったのは……快弦と出会ってからだったのだ。
快弦との出会いが、彼を一つ大人にした。
快弦と出会い、快弦と笑い、快弦と過ごした日々が、彼のことをより強くしたのだ。
「結局のところ、俺はカッコつけたかっただけなんすよ」
独白するかのように、1人でつぶやく。
暗闇の中にポツンと佇んでいた金之助。死の淵にいるのだろうかと、錯覚する。
それでもなお、彼は恐れなかった。
死の淵に立とうが、彼に怖さというものはなかった。
『バーカ』
1つ、声が響いた。
懐かしくなるような声だった。金之助は振り向くと、そこには立っていた。
快弦だ。
『カッコつけようがつけまいが、それがアンタでしょ』
「のくせして、大事な時に……快弦さんを助けられなかった」
金之助は呟く。
たまに夢を見る。あの時、あの時もっと早く駆けつけられていたのなら。
漠然とした……ifストーリーを夢に見る。
「なんで、助けられなかったんだろうって、今でも思うんすよ」
快弦を見て、手に力を込める。
快弦は、そんな金之助に近づいて頬を殴った。
金之助は殴られたことによって、顔を地面に向けた。向けて……次に、抱きしめられたことで目を見開いた。
金之助は快弦を見つめる。
『助けられたかどうかは、アンタ次第でしょ』
「……でも」
『でも、も何もない。……私はとっくの昔に、アンタに救われてるから』
その言葉に金之助が唇を噛み締めた。
遠くで、花火の音がする。
「……ごめん、なさい」
『……私の分まで頑張んなさいよ、ばーか!』
金之助は息を吐く。
快弦の顔の近くにある。
金之助は、快弦の頬を撫でて……。
「……キスするのは、終わってからにするっす」
『ん、待ってっから!』
快弦は金之助の背中を叩く。
金之助は地面に落ちている鉞を手に持って、前へと向き直る。
まだ、戦ってるぞ、金之助。
「うっし、やりますかっ!」
◇◆◇
「実に悪い気分だァ……クソ野郎がァ……」
肩から下が鎌になったアクゼリュス。
そして、その目の前には血だらけになって肩で息をしている鬼円の姿があった。
(くっそ……脚をやられたか……!)
鬼円の脚から血がドバドバ出ていた。
斬られてしまっていたのだ。春乃が汗を垂らし、鬼円の脚にタオルを巻いて止血している。
春乃も鬼円も、現在アクゼリュスの死角になるところにおり、隠れていたのだ。
「どうするの、鬼円」
「……野郎を倒すのは、俺らだ……逃げ帰って、たまるかよ……!」
鬼円が強くそう言い切る。
ガタン、と何かが動いてコンテナの上に立った。アクゼリュスではない。
では……?
「生き返ったっすよ、クソ野郎……!」
「……はっ、毒受けて立ってんのかよ……」
金之助は口元の血を拭って、ニヤリと笑った。
金之助が鉞を構えると、アクゼリュスが大きく動いた。
鎌が金之助を捉えたかと思うと……今度は金之助が動いた。
「知らないんすか!!」
鎌が、弾かれた。
アクゼリュスが、大きく体勢を崩す。その隙に、金之助が近づく。
金之助の鉞が、アクゼリュスの首を捉えた。
「ヒーローは、毒効かないんすよ!!!」
鉞が、首に刺さる。
ミチミチと音を立てて、今度は灰色の塵のようなものが噴き出す。
アクゼリュスが金之助を蹴り飛ばす。
「こんの……クソガキァ……ッ!!!」
「……効いてるっすね、だいぶ……!」
今度は金之助が、煽るように笑う。




