第95話 たった一輪の華 その②
空にぷかぷかと浮かぶ月が、光を辺りを反射させて照らしている。
私と鬼円、金之助は歩いてこの場所までやってきた。
「こういう時は『月が綺麗ですね』……とでも言っておけばいいのかな?」
「どうなんだろうなぁ……俺もそういうことには疎いからさっぱり分からねぇぜ」
「……とにもかくにも、アイツをやればいいっすね」
鬼円と金之助君が前に出る。
両方ともオーラをたぎらせて、眉間に皺を寄せている。
目の前の……コンテナが音を立ててひしゃげる。そこには、奴がいた。
忘れもしない、あのニヤケ面。叩きのめしたくなるような……ニヤケ面。
「……金之助、行くぞ」
「わあってますよ、先輩……っ!」
激突するのは、私たちと……
「さぁて、踊ろうかァ……!」
アクゼリュスだった。
金之助君が動く。
その手に鉞を持って、勢いよく近づいて、叩きつけるように振るう。
アクゼリュスはそれを避けて、どこからともなく鎌を取り出して振るう。
鬼円がそれを見て、木刀を振るう。
木刀と鎌がぶつかり合い、金之助君が一歩下がる。
「鬼円! その鎌には……っ!」
「毒があるっ! だろ!?」
鬼円の言葉に私は頷く。
金之助君は、鬼円とアクゼリュスが立っているコンテナを掴み、転がす。
鬼円は金之助君の方に、アクゼリュスは別のコンテナに飛び移る。
「あん……? 狂犬野郎は出ねェのかァ……? つまんねェなァ……」
「悪いけど、あんたと会話する気ないんだ」
私は冷たくそう言い放つ。
自分でもビックリするほど、冷たい口調だなと思った。けど、それでいい。
金之助君がオーラと共に突っ込む。
ズドドドッと、おおよそ人間が出せるような音ではないが、そんな音が金之助君から鳴る。
アクゼリュスと金之助君がぶつかり合う。
鉞と鎌がぶつかり合い、金属音が何度も何度も周辺に響き渡る。
鉞が、黄金に光った。
「っ!」
「『黄金ノ斧:八重斬』!!」
鉞が大きく揺れ動いたかと思えば、コンテナがざっくばらんに八切され、アクゼリュスが別のコンテナに飛び移る。
その隙を潰すかのように金之助君が後を追う。
「しつけぇっ!!」
「しつこいのが取り柄なんで!!!」
鎌を弾く鉞。
脚で蹴り飛ばす金之助君は、コンテナにヒビを入れて飛び上がる。
鬼円が木刀を構えて、走り始める。
「ふっはは!」
「チッ!」
「おわっ!?」
アクゼリュスが鎌を投げた。
あらぬ方向に投げられた鎌はクルクルと回って……方向転換し始めた!
鎌がクルクルと回りに回って、金之助君と鬼円の方へと向かう。
鬼円は鎌を木刀で地面に叩きつけて、金之助君はそれを切り上げた。
「チッ……こいつら上手いな……」
「こいつなかなかやるっすねぇ……」
「うぜぇくらいにな……」
お互いに牽制しあい、汗を流す。
アクゼリュスは一息つくと、私の方を向いてニヤニヤと笑ってくる。
誘われてる。確実に……『お前も戦ってみようぜ、殺してやるから』という目だ。
……乗っちゃいけない。乗っちゃ行けない挑発なのに……。腸が煮えくり返るような感覚に陥る。
「ダメっすよ」
「ダメだからな」
戦っている二人に言われる。こちらを向いてはいないが、確実に声は落ち着いている。
それにならって、深く息を吐いて心を落ち着かせる。
奴らに無策で来ている私たちではない。
まだだ、まだ私が出る幕じゃない。……いや、そもそも出る幕なんてありはしないのだろうけど。
アクゼリュス共がいる『クリフォトの樹』と言うやつはまだ未知数だ。
何がいるかも分からないし、何が起きているのかも分からない、どんなやつがボスなのかも……分からない。
だからこそ、ここで情報を引き抜け。引っこ抜いて、引っこ抜いて……快弦ちゃんのために、壊してやるんだ。
「お前らは何なんだ、何がしたい!!」
「何がしたいって……俺らはただ壊してぇだけだなァ……この世界をよォ……!」
アクゼリュスがそう言う。
この世界を壊すって……まるで漫画の典型的な悪役みたいだ。
鬼円がはん! と鼻で笑う。
「壊すって、現に壊せてねぇじゃねえか」
「てか、壊させないっすよ」
鬼円に次いで、金之助君が言う。
赤いオーラが揺らめいて、立ち上る。
「悪いっすけど、快弦さんが生きたこの世界はまだ破壊させませんから」
「あのゴミが生きた世界だぜ? 美徳なんてねぇよ」
「それは、お前がこの世界を嫌っているだけだろう」
金之助君がアクゼリュスの言葉に返す。
アクゼリュスはピクっと腕を揺らすと、金之助君が鉞を持って構える。
その鉞が再び光り輝き始め、地面にヒビが入る。
「俺が、お前を倒してやりますよ……!!」
コンテナが大きく、真っ二つに裂かれた。




