第92話 水族館デート、開幕!
8月20日。
ガタンゴトンと揺れる電車の中で、鬼円と春乃は何も話さずに座っていた。
鬼円は窓の風景を見て、その隣に座る春乃は自分の身なりのことを気にしていた。
初々しいカップルにも見える二人だが、まだカップルではないのが現実。
春乃はチラチラと鬼円をみてから……声をかけた。
「きょ、今日の水族館、楽しみだね!」
「ん? あぁ……ジンベエザメいないかな……」
「それ沖縄にある水族館でしょ……」
鬼円の言葉にそうツッコミをいれる春乃。
ふと、鬼円は微笑み、まるで試すかのように呟いた。
「なんかおもしれーもん見れるといいな」
「うん、それこそ……ほら、イルカショーとかっ!」
「イルカはどこにでもいるだろ。ほら、メガロドンとか」
「絶滅してるよそれ……っていうかなんでサメ固定なの??」
そりゃかっこいいに決まってるからだろ、という鬼円。その言葉に頭を抱えそうになる春乃だったが、顔を赤らめる。
鬼円はそんな春乃を見て、ニヤニヤしながら立ち上がる。
「降りる駅ここだろ、行こうぜ」
「あっ、う、うんっ!」
鬼円と春乃は少しだけ混雑してきた電車から出て、そのまま駅を出る。
水族館前では、様々な人や子供達が並んでいて、大賑わいであった。
春乃はペアチケットを持っていたため、二人ではいることが出来た。
「楽しんできてくださいね。…………それと、頑張って」
「……はいっ!!?」
ふと、入口のチケットの管理をしているお姉さんから呟かれた。
鬼円には聞こえていなかったようで、へんな声を上げた春乃を見て、大丈夫か? と視線を送る。
大丈夫、と呟いた春乃は顔を隠すかのように俯き、プシューっと、顔から湯気が立ち上るのだった。
……水族館内でパンフレットを貰った春乃達は、とりあえず水族館を回ることにしたのだった。
◇◆◇
「エイだ!」
「そいつ、一応サメの仲間らしいぜ」
「えっ!? そうなの!?」
◇◆◇
「クラゲだ、綺麗……」
「胃が5つあるミズクラゲもいるみたいだな」
「消化しやすそう……」
「ベニクラゲなんかは不老不死なんだとか」
「凄い、鬼円から雑学が沢山生えてくる……っ!?」
◇◆◇
「ペンギン可愛い…………あっ、毛繕いしてる、可愛いっ!」
「……ペンギンって翼が硬いんだぜ、大根折れるぐらいには」
「鬼円ってもしかして水族館プロだったりする?」
「ガキの頃に色んなことをババアから教わったんだよ、そのせいだな」
「口悪ぅ……」
◇◆◇
「イルカショー見ようよ!」
「いいけど……時間は?」
「あと……わっ、30分ぐらいしかない!」
「急ぐぞ、あぁ、あとなんか食いもん買ってきとけ」
「買った!」
「速えーなオイ」
◇◆◇
「わぁっ……!」
「おおっ……!」
イルカが高らかに空を飛ぶ。
二人は目を輝かせて見て、イルカがドブンッ! と水の中に入ると、大きな水しぶきが上がる。
4列目にいたはずなのに、水しぶきが大きくかかり、二人して水浸しになる。
「……びしょびしょだね」
「……だな」
二人で顔を見合い、笑うのであった。
◇◆◇
「楽しかったね、イルカショー」
「あんなイルカ飛ぶんだな、初めて知ったぜ」
鬼円はそう言って写真フォルダを見る。
様々な写真が取られている中、春乃が写っている写真があり、春乃が顔を真っ赤にする。
「ちょっ、それ消してよ!」
「やだよ、なんで消すんだよ、楽しい記憶だろー?」
「そ、それはそうだけど……っ!」
春乃が携帯を取ろうとすると、鬼円が高らかに手を上げて取られないようにする。
ふと、春乃が顔を真っ赤にして、もういいっ! と言って立ち上がる。
「ええっと、トイレ行ってくるね」
「おう、待ってるわ」
春乃は歩いていき、鬼円は写真フォルダをスクロールしていく。
春乃の笑顔の写真があり、それをじっと見つめてから、メッセージアプリを開いて、とある人物に送る。
[鬼円:水族館っていいな、ほら、春乃の写真やるよ]
[写真を送信しました]
[剣崎:ちょっと待って、あんた写真なんて取れたの?]
[鬼円:殴り飛ばすぞ]
[剣崎:春乃ちゃん可愛すぎじゃない?]
「そりゃまぁ……そーだろ……」
鬼円はそう呟く。
ふと、顎に手を当てて考え込む。
(……ん? 待てよ、俺は何してんだ。春乃の写真を撮って……)
鬼円は自分の写真フォルダを見て固まる。
鬼円自身、現代っ子であるから写真を撮ることは多々ある。その写真フォルダには、確かに色んな写真があるが……最近撮った写真に近づくほど春乃が写ってる写真が増える。
鬼円はこの前のBBQの時を思い出す。
(確かあん時も、俺、おかしかったよな……なんだ……?)
心臓がうるさくなっていく。
いかん、と頭を何度も横に振り、トイレの方を見る。
「……ん?」
春乃はいた。トイレから出たのだろう。
だがしかし、その周りには数人の男が集まっている。
春乃は手を掴まれており、強ばった顔をしていた。
瞬間、なにかが弾けたような感覚に陥り……。
「あ?」
「離せ、『俺のツレ』だ」
その男の手首を、力強く握っていた。




