第91話 表の裏は…… その④
目が覚める。
私の家だ。知っている、天井だから。
時計を見る……正午12時……。あれから、どれだけ経ったっけ。
私は頭を抑えて、再び吐き気に襲われる。
いまだ鼻の奥でむせ返ってる血の匂いが取れない。お風呂にどれだけ入っても、取れない。
あの時の、快弦ちゃんの最期の顔が忘れられない。
どれだけ、どれだけ忘れようとしても……忘れられない。
「っ、うっ……!」
顔、洗お。
沢山の水を浴びて、朝ごはんを食べ始める。
静かだなぁ。この前まで、二人がいたとは思えない。……なんで、こんな静かなんだろう。
昨日まで、いや、もっと前まで……鶴愛さんも、快弦ちゃんもいたのに。
おかしいなぁ……なんで、なんでこんなにも、静かで、悲しくて…………。
一人は、寂しいなぁ……。
私は部屋に戻って、布団に入ってうずくまる。
思い出したくない。思い出したくないよ。あんなの、あんな笑顔、思い出したくない。
……私が、死ねばよか……
「おーい」
ふと、声がした。
声からして分かる。きっと、鬼円だ。
鶴愛さんか誰かに教えてもらったのだろう。私はゆっくりと頭を出し、歩き始める。
扉を開けると、たくさんの袋を持った鬼円が立っていた。
あの時も、鬼円がいてくれたな……お礼、言わないと。
「あの……」
「……やっぱ顔色悪りぃな。入るぞ」
「えっ、いや……」
鬼円はズカズカ入って、私が寝ていた部屋まで向かう。
テーブルの上に様々な料理を……というより、弁当を取り出し、手を合わせたかと思うと……食べ始めた。
割り箸を弁当と口へと交互に動かしていき、何も言わずに弁当を平らげる。
私の話なんて全く聞いてくれ無さそうなんだけど……っていうか、なんか皿洗い始めたんだけど。
「まぁ、寝てろよ。お前、精神的にも肉体的にも疲れてんだろ」
「いや、まぁ……それは……」
ふと、鬼円がこちらに近づいてきて、私を押し倒してくる。
目を閉じていると……毛布をかけられた。
「いいから寝てろ。明日、行くんだろ?」
……明日?
なにか、あったっけ……。カレンダー……。
そう思って、カレンダーを見ると……そこには『鬼円と水族館!』と書かれてあった。
そっか、水族館いくって約束してたな……。
もしかして、それのために私のところまで……わざわざ?
泣いちゃうじゃん、こんなの。
「……ごめん……」
「お前は謝ってばっかだな。素直に『ありがとう』でいいんだよ」
鬼円にそう言われる。
また、涙が出てくる……ポロポロと、私の手が涙で濡れていく。
鬼円はその姿を見て食器に目を向けて……ギョッとしたかのように二度見してくる。
「おい、泣くな!」
「っ、ごめん……ありがと……あ、りが……と……っ!」
◇◆◇
ふと、目を覚ます。
しまった、寝ていたらしい。
「お、鬼円……?」
ふと、隣を見ると、そこには座って……腕を組んで寝ている鬼円の姿が。
時間を見れば、もう5時だ。洗濯物も畳んであるし、お風呂場に行けば、お風呂も湧いている。
……家事出来たんだ、という言葉は飲み込みつつ、鬼円に布団をかける。
「……」
鬼円は寝ているのか、私が起きたことに気づいていないようだった。
ふと、私は鬼円の頬に手をつける。
凄い、スベスベしてる……し、それに……なんか、手もデカい。
「……って、何私はベタベタ触ってるんだ…」
正気を取り戻し、汗を垂らしながら離れる。
……鬼円のおかげで、少しは立ち直れたかな。いや、立ち直れるわけがない。
けれども、少しだけ……楽になった気がする。
鬼円をチラ見して微笑んだ後、お風呂へと向かう。
髪の毛を丁寧に洗い、流して……身体もしっかり隅々まで流す。
お湯にゆっくりと浸かり……息を吐く。
……あいつ……アクゼリュスとか、言ったやつを何とかして殺さないと。
……って、私『殺す』って言葉、使えたんだ。
「……待っててね、快弦ちゃん。私、敵取ってあげるから」
私はそう言って、拳を握る。
……その前に、少しだけ……遊んでも、いいよね。鬼円と、一緒に。
それが終わったら、全部終わらせるよ。




